第二千九百十九話 百片の真実
ガレーシャは心底悔しそうに歯噛みした。うっすらと唇に血が滲む。
ガイウスは出来るだけ、ガレーシャの気持ちを逆撫でしない様、注意して言った。
「とりあえず休戦ってことでどうだろうか?」
ガレーシャが食いつく。
「休戦だと?」
「そそ、とりあえずの休戦。こちらも急に一方的に攻められて困っているし、そちらも急に俺みたいなのがしゃしゃり出て来たわけだし、ここは一旦、お互いに態勢を整え直すためにも、一時休戦ってことでどうだろうか?」
ガイウスの提案に、パルススが即座に乗った。
「いいですね、それ。お互いにとって不測の事態が起こったわけですし、ここは痛み分けで一旦休戦というのは、悪い案ではないかと」
「そそ、痛み分け。どっちが勝ったとか、そういうことじゃなく、初戦は引き分けってことでどうかな?」
ガレーシャが胡散臭いものを見るような目で、ガイウスとパルススを見た。
ガイウスもパルススも、どちらもしれっとした顔で、その視線を受け流した。
ガレーシャの舌打ちが、乾いた大地に染み渡るように鳴った。
だがそれでも、ガイウスたちはとぼけ顔でやり過ごす。
無言の時がしばし流れた。
折れたのは、ガレーシャだった。
「いいだろう。では一時休戦とし、撤退する」
ガイウスがすかさず笑みをこぼした。
「ありがたい!」
パルススも続いた。
「見事なご裁断です。このパルスス、敬服いたしました」
ガレーシャは顎を上げてパルススを睥睨し、腹立たし気に鼻を鳴らした。
「ふん!思ってもいないことを申すな。耳障りだ」
パルススは何事もなかったように平静さを保ち、言った。
「とんでもございません。本心からの言葉にございます」
ガレーシャは再度鼻を鳴らした。
「白々しい。お前の言葉に、真実など一片たりと混じってなどいるものか」
パルススはにんまりと笑った。
「一片くらいは混じらせております」
「ならば、一片だけということではないか」
「時と場合によります。一片の時もあれば、百片の時も――先ほどの言葉は、百片の真実でございます」
ガレーシャは苦虫を嚙み潰したような表情となった。
「もうよい。とにかく引けばよいのであろう」
ガイウスは、ガレーシャがこれ以上機嫌を損ねて先ほどの決断を覆さない様、慎重に言葉を選んで、あまりにも彼らしくないことを言った。
「お願いします」




