第二千九百十四話 ガレーシャ
ガイウスは、ガレーシャの言い回しに、違和感を持った。
素直に聞けば、軍人ならばどのような状況であろうと、命令一下何処へなりと赴いて戦うという、その矜持を語ったものと聞こえるだろう。
だが穿った見方をすれば――特にガイウスは底意地の悪さで、その裏を見透かすのが得意であった。
「ははーん、あれだね?ちょっと怒りが入っているね?」
ガレーシャは不愉快そうに眉根を寄せ、顔をひねってガイウスを睨みつけた。
「なんのことだ」
「王命ならば従うしかない。嫌でも――そういう意味だろ?つまり、この侵攻にはあんたは反対だった。違うか?」
「勝手に我が意を決めつけるな」
「でも当たりだろ?王命だから仕方なく来たが、本当は嫌なんだろ?」
「わたしは軍司令官だ。嫌も応もない。王命とあらば、何処へなりと駆け付け戦うのみだ」
「だがその前にひとりの人間だ。人として、この侵攻には反対なんだろ」
「だから勝手に推し量るなと言っている。貴様、無礼だぞ」
「無礼ねえ。もしかしてあんた、ただの将軍じゃない?もう一つ別の肩書あったりする?」
ガレーシャはガイウスを睨みつけながら言った。
「第五皇女だ」
「おお!やっぱりか。だから第三方面軍だっけ?その司令官なんだな」
ガレーシャの眉間に深い皺が刻まれた。
「我をお飾りだと言っているのか?」
「そうは言ってないよ」
ガイウスはそう言いつつも、軽く首をひねった。
次いで首を元に戻すなり、言った。
「いや、やっぱり言っているかな。だって、そうでもなきゃ、あんたみたいな若い王女――いや、皇女か。その皇女が方面司令官なんて務まりはしないだろ」
ガレーシャの口元から、ぎりっという歯ぎしりの音が聞こえた。
ガイウスは口元を歪め、肩をすくめた。
「違うか?」
ガレーシャは歯を食いしばったまま深く息を吸い込み、またすぐに吐き出しながら言った。
「そう思いたければ、勝手にそう思え」
ガイウスは苦笑した。
「じゃあ、そうさせてもらおうかな。で、引いてくれるの?くれないの?まさか、俺の情報くらいは多少入っているんだろ?」
「知らぬな。わたしはお前の情報など、何も持ってはいない」
「嘘だろ。だって魔導師部隊のブリシア・リースは、俺のことを知っていたぜ」
「その者が知っているだけで、誰も彼もが知っているわけではなかろう。わたしはお前についてなど、何も聞かされてはおらぬ」




