第二百二十五話 本当の身分
1
「サリーあなた忘れたの?あの日わたしがあなたの部屋で、あなたの本当の身分証明書を見てしまったことを……あなた最初は誤魔化そうとしたけど……もう誤魔化せないと知ってあなたはわたしをぎゅっと抱きしめたわ。そしてあなたは……わたしにだけは……て言って本当の身分を明かしてくれたんじゃないの……それなのに……あなた本当にサリーなの?……そういえばさっきから何やら話し方もおかしいし……」
ジェシカの疑惑の目に、天の声は大いに慌てふためいた。
「い、いや、そのう……じ、実はさっきから意識が混濁しているのだ……たぶん僕はもうすぐお迎えが来て、消えてしまうんだろうと思う。ただその前に君にだけはお別れを言っておきたいと思ってここへ来たんだ……」
「おおサリー!そうだったの!ごめんなさいあなたを疑ったりして!」
「いや、いいんだよジェシカ……じゃないジェシー……や、やっぱりどうも意識が……ところでもう一つ聞きたいんだが、僕を殺した者に心当たりはあるかい?」
「判らないわ……あなたが誰に殺されたかなんて……でも、あなたのお仲間なんじゃないの?……あなたがわたしに正体をばらしてしまったのを知って……だからあなたを殺して、わたしがあなたの正体を他に漏らさないようにわざとわたしに見せ付けるように……ああ!なんて恐ろしい!」
「そうか。よく判った。ありがとうジェシー。僕はもう行くけど、どうか僕のことは忘れて幸せになってくれ……」
「いやよサリー!行かないで!お願いよサリー!」
「……ごめんジェシー……さようなら……」
それを最後に声は聞こえなくなった。
ジェシカはしばらくの間半狂乱となって最愛の男性の名を呼び続けたものの、それが報われることはなかったのであった。
2
「なるほどね。デグウス氏はレイダムのスパイだったって訳か……」
ガイウスはそう言って眉根を寄せた。
「まったく嫌な役をやらせおって!ひやひやものだったぞい!」
エルは肩でもこったのか、何度もその太い首周りを器用に前足で揉みながら言った。
「ごめんごめん。でもおかげで有益な情報が手にはいったね」
「当然じゃ。わしがあれだけ苦労したのじゃからな。だがくれぐれも言うておくが、こんなことは二度とごめんだぞ!」
「ああ、わかったよエル」
ガイウスは笑顔を浮かべながらエルにいたずらっぽくウインクをした。
「ふん!まったくお前さんは……まあよいわ。それよりもこの後はどうするつもりなのじゃ?」
「そうだなあ……こうなると怨恨の線よりもスパイ同士のいざこざによるものに焦点を絞るべきだと思うんだ」
「ふむ。それで?」
「うん。ちょっと僕に考えがある。まかせてくれるかな?」
ガイウスはそう言うとにやりと口角を上げるのであった。




