第千四百二十五話 案内
1
「それは怖いね」
ガイウスが、結構真剣な表情をして言った。
カルラはうなずいた。
「ああ、こういうのはあまり得意じゃない。とはいえ、逃げられてしまった以上、いつまでもこんなところにいても仕方がない。諦めるとしよう」
カルラが溜息混じりに言った。
「だね。逃げちまったもんはしょうがない。まあ当初の目的はアルスたちを連れ帰ることだし。良しとしようか」
「そうだな。では早速中へ入るとするかね」
「ああ、カルビンがどうやら俺に会いたがっているようだしね」
ガイウスはそう言いつつ、邸に向かって歩き出した。
カルラも歩調を合わせて歩きながら、ニヤリと笑って言った。
「さて、ずいぶんともてるな?」
ガイウスは大きな溜息を一つ吐き出した。
「やめてくれよ。気持ち悪い。聞いた話だと相当に悪趣味な奴なんだってよ?」
「ああ、シェスターから聞いた。出来れば会った途端に殴りつけてやりたいくらいだ」
「一応ダメでしょ。一応ね」
ガイウスはカルビン邸の門を潜りながら、軽めの口調で言った。
「一応でいいのか?」
カルラが口の端を歪めながら言った。
ガイウスは肩を大きくすくめた。
「さあ、正直俺も会いたくも、話したくもないしね。場合によっては……いいんじゃない」
するとカルラが大きな声で笑った。
ガイウスもカルラに合わせて大声で笑った。
二人はかなり豪快に笑い合いながら、カルビン邸へと乗り込むのであった。
2
「ふん、さすがに豪勢な造りだね」
カルラが鼻白みながら言った。
「色々と阿漕な真似をしているんでしょ。でなけりゃ一代でこれほどの邸は建てられないよ。ましてやここ、本宅じゃなくて、数多ある別荘の一つだし」
「ふむ、カルビンというのは、一代でのし上がったのか?」
「ああ、そう聞いているよ」
「ほう、そうなのか」
二人はカルビンの召使いたちに案内されて邸内を歩いているにもかかわらず、まったく気にせず大きな声で話していた。
だが召使いたちも何一つ苦言を呈することもなく、無言で案内し続けた。
そのためか、ガイウスがいたずら半分に召使いたちに話しかけた。
「ねえ、この邸ってさあ、若い女の子たちがよく攫われてくるんだよね?君たちはもちろん知っているよね?」
ガイウスの挑戦的な問いであったが、召使いたちは皆、能面のように顔色一つ変えることもなかった。
その中で先頭を行く執事が、やはり顔色を一切変えずに言ったのだった。
「申し訳ございませんが、存じません」
にべもない執事に対し、ガイウスは舌をべーっと大きく出すのであった。




