第千四百二十二話 ぶうたれる
「来るぞっ!」
カルラの短く鋭い警戒の声に、ガイウスは素早く反応して空中へと飛び上がった。
「なるほど。確かにこの感覚、あの時感じたものとそっくりだ」
ガイウスは自らの足下から感じる怪しげな敵の気配を、同じ様に上空へと飛び上がったカルラに対して伝えた。
するとカルラがすかさず同意した。
「ああ、残滓とはよく言ったものだ。確かにこいつは奴そのものではない。だがこれは、明らかに奴の残滓に違いない」
「で、どうする?」
「残滓がどの程度のものなのか、まずは様子を見る」
「だね。こいつの出方を見れば、いずれ本体と戦う時の参考になるかもしれないしね」
「そういうことだ。ではガイウス、飛び込め」
「うおおおおおおおい!今さっき言ったことと違うじゃないかよおおおおおおお!」
反射的にツッコミを入れたガイウスに対し、カルラは至極冷静であった。
「こんな上空にいては、奴も手が出せまい。ならばどちらかが囮とならなければ、奴の出方を見ることも出来ん」
「で、それがなんで俺なのさ!」
「わたしとお前とでは経験値が違う。故に奴の分析をするのは、わたしが適任だということだ。それにそもそもが、あいつの目的はお前なのだから、囮としてこれ以上ないではないか」
ガイウスは歯噛みして悔しがるも、ぐうの音も出なかった。
「……わかったよ。俺がやればいいんだろう?……」
少々拗ね気味のガイウスに対し、カルラはあくまで冷徹に言い放った。
「そうだ。とっとと行け」
ガイウスは口を尖らせてぶうたれた。
「言い方ってもんがあんでしょうに……言い方ってもんがさ……」
だがカルラは取り付く島がなかった。
「いいからとっとと行け!この馬鹿弟子がっ!」
「へいへい……行けばいいんでしょ?行けばさ……」
ガイウスはふて腐れつつも、ゆっくりと高度を下げていった。
「人使いが荒いんだよな~まったく。大体さ~……」
ガイウスは降下中も飽きることなく文句を言い続けた。
だが地上二十M程の距離まで降りると、途端に文句を垂れるのを止めた。
「さあて、そろそろ……かな?」
ガイウスは周囲に頻繁に目を配りつつ、敵の気配を感じ取ろうと集中した。
すると、ガイウスが程なくして敵の気配を感じ取った。
だがそれは、微かなものでしかなく、敵の居場所を察知できる程のものではなかった。
「……いるいる……どこだ?……かくれんぼはあんまり好きじゃないんだ。とっとと出てきなよ~……」
ガイウスは地上十M程のところでピタリと止まり、敵の様子を慎重に窺うのであった。




