第千四百五話 世情に疎い
「……ほう、恐ろしいまでの切れ者か……」
シェスターが目を細めて呟くように言った。
対するイオーヌは、その呟きに大きくうなずいた。
「だと思うわ。でなければあの地位まで行けないんじゃなくって?」
シェスターもうなずき、同意した。
「そうだな。ローエングリンのナンバー2は伊達じゃないってことか」
「そうね。とは言ってもわたしは世事には疎いんだけどね」
イオーヌはそう言うといたずらっぽくウインクをした。
シェスターはフッと息を吐き出し、笑った。
「そうだろうな。だがそんな世事に疎いはずの君でも、ローエングリンの権力構造については承知しているようだな?」
シェスターの問いに、イオーヌが少しとぼけた表情を見せた。
「さあ?そうでもないわ」
シェスターは皮肉な笑みを浮かべると、さらに追及の声を上げた。
「いや、君が世情に疎いのは事実だろう。だが必要な情報については事前に得ているのではないかな?だからローエングリンについても実は意外に詳しいのではないか?」
シェスターの追及にイオーヌがさらにとぼけた表情を見せた。
「どうかな~?どうだったかしら?」
だがシェスターの追及は止まらなかった。
「とぼけても無駄だぞ?先程の君の発言ですでにばれているのだからな」
シェスターが駄目押しするかの如く、鋭い視線をイオーヌに送った。
イオーヌはその視線を真正面から受け止めた。
「あらそう?……そうね。ちょっとだけ知っているわ」
イオーヌがかろうじて認めた。
だがそれでもシェスターの追及は止まらなかった。
「ちょっとだけではあるまい。事前に必要な情報を、相当に頭に入れているのではないか?」
イオーヌは首を傾げて誤魔化そうとした。
だがシェスターは許さなかった。
「でなければ先程の発言は出て来ないだろう。それに、我々のことも詳しそうだしな?」
シェスターはそう言うとニヤリと笑った。
イオーヌはついに諦めてのか、ばつが悪そうな顔付きとなった。
「……まあね。一応色々と教えられたわ」
すると、すかさずシェスターが問い質した。
「誰にかな?」
イオーヌは急に立ち止まり、両手を腰に置いてシェスターを睨み付けた。
「教えない!そう言っているでしょ!」
初めて本気で感情を露わにしたイオーヌに対し、シェスターも立ち止まり、朗らかな笑みを送った。
「まあそう怒るな。わたしにはそういう意図はない」
「あらそうかしら?さっきからだいぶしつこく聞いてきていると思うけど?わたしは教えないって言っているにもかかわらずよ?失礼しちゃうわ!」
イオーヌはいまだ感情のコントロールが付いていないのか、シェスターを饒舌に責め立てるのであった。




