9 かわいいワンちゃん
「……どしたの?」
暗い顔をしたレオンハルトに気づいたゼーが、その頬に触れる。
「疲れた?もう帰る?」
「いや、なんでもな……ありません」
「オレはもう疲れた。早く帰って寝たい」
「……」
「っていうか、何そのしゃべり方?いつもの方がいい」
「いや、でも……」
どうしたものかと困っていると、レオンハルトの父が「おっしゃる通りにしなさい」と言った。
本当にいいのかとレオンハルトが王に視線を向けると、王も頷いてみせた。
「わかった。でもその、もう少し説明がほしい」
「説明?」
「えっと……ゼーは白狼様、なのか?」
「えー?オレはレオンハルトのかわいいワンちゃんだけど?」
そう言ってレオンハルトを見上げるゼーは、少し拗ねている様子だった。
その様子がなんだか無性にかわいく見えて、レオンハルトは胸の奥をぎゅっと掴まれたような気がした。
ゼーはつまらなさそうに足を軽くばたつかせたまま、レオンハルトにもたれてくつろいでいる。
はたから見れば、友達同士でじゃれ合っているようにしか見えないが、部屋の空気は張り詰めたままだ。
「国を滅ぼしたり……しないよな?」
レオンハルトがポツリと訊ねる。
ゼーは首を傾げて「滅ぼしてほしいの?」と問い返した。
レオンハルトが慌てて首を横に振る。
「じゃあ、しなーい」
そう言って、ますますゼーはレオンハルトの肩に頭を押し付ける。
まるで小さな子どもが褒めてもらいたいときにやるような仕草だ。
レオンハルトは無意識に、ゼーの頭を撫でていた。
はっと我に返ってやめようとしたが、ゼーが心地よさそうにしていたので、そのまま撫で続ける。
ひとまず、今のところ国の危機的状況ではないらしい。
ほっと安堵している父と王の姿を見て、レオンハルトも胸を撫で下ろす。
「お腹すいた。もう帰ろ」
繰り返し帰りたいアピールをするゼーに、父が帰りの馬車の手配を指示する。
このまま帰ってもいいものなのかと思ったが、白狼は王でさえ首を垂れる存在。
その意向を最優先するのがベストだと判断されたらしい。
ゼーのお腹が小さく鳴った。
どうやら本当にお腹がすいているらしい。
王がテーブルの上の焼き菓子を勧めたが、ゼーは一瞥するだけで手に取ろうともしなかった。
代わりに、レオンハルトに向かって口を開けてみせる。
はじめは何をやっているのかと戸惑ったレオンハルトだったが、大人しくそのまま待っているゼーを見て、理解した。
そういえば、ゼーは口元に運んでやらないと餌を食べないんだった。
レオンハルトは焼き菓子を一枚手に取り、ゼーの口元に近づけた。
ゼーは満足そうに焼き菓子を頬張る。
今は人間の姿なのに、お菓子を食べる姿が普段の子犬の姿のゼーと同じで、レオンハルトは笑いをかみ殺した。
(やっぱりこいつは、俺のかわいいペットだ)
そう思うと、今までの緊張や戸惑いはどこへやら、胸が温かくなるのをレオンハルトは感じていた。




