8 謝罪
「……愚息が許されないことをした。本当に申し訳なかった」
王が頭を下げて、レオンハルトは慌てた。
自分の息子にはとことん甘いことで知られている王だ。
ウォルターの愚行は見て見ぬふりをして、自分を責めるに違いないとレオンハルトは思っていたのだ。
そんなレオンハルトの考えを察し、王は自嘲気味に笑った。
「散々息子を甘やかしてきた結果は、親として受け入れなければなるまい。それに、この子犬が本当に白狼であろうがなかろうが、息子のわがままでそなたの才能を潰すほど、余は愚かな王ではない」
「陛下……」
「しかし叶うならば、息子にかけられた呪いは解いてもらいたいのだが、会話をすることは可能か?」
「あ……実は、人型になったのを見たのは、今日が初めてで……。私も今まで、ただの犬だと思っていたのです」
「ふむ……ん?どうやらお目覚めのようだな」
王の言葉に、レオンハルトがゼーを見ると、大きな青い瞳がレオンハルトを見つめていた。
レオンハルトはゼーを抱き上げ、王の手前お願いしてみる。
「陛下がお話しされたいようなんだ。また大きくなってくれないか?」
ゼーは首を傾げたあと、面倒くさそうな顔をした。
どうせまだ、眠たいのだろう。
半ばあきらめの気持ちでため息をつくと、ふいに白い煙がたちこめる。
ひざに乗せていた子犬が、大人の男に変わって、レオンハルトはつい「おもっ」と呟いた。
それが気に食わなかったのか、ゼーは唇をとがらせて、再び白い煙に包まれる。
(しまったっ!せっかく人型になってくれたのに、また戻っちまう……!)
慌ててゼーの身体を抱きしめて止めようとしたレオンハルトは、その感触に違和感を覚えた。
子犬の姿ではない。
それでも、さっきの男の姿にしては小さい。
煙が晴れると、レオンハルトの膝の上には同じ年頃の少年が座っていた。
肩までの長さの白髪と、変わらぬ青い瞳。
「これならいいでしょ?」
そう言った声は、まだ少年らしさを残している。
一周回って面白くなってきてしまったレオンハルトは、肩を震わせて笑いを噛み殺した。
そんなレオンハルトの様子に満足したのか、ゼーはレオンハルトにもたれかかったまま、不敵に王に視線を向けた。
「それで?オレに何の用?」
王は信じられないものを見たような顔をしていたが、すぐに気を取り直して咳払いをした。
そしてゼーに向けて膝をつく。
「へ、陛下っ!」
慌ててレオンハルトは立ち上がろうとしたが、ゼーが思い切り体重をかけているので体を起こせない。
王はそんなレオンハルトを「そのままでかまわない」と制する。
気づくと、王だけでなくその側近、そして父までもがゼーに膝をついて頭を下げていた。
ゼーはそんな大人たちを気にすることなく、しどろもどろになっているレオンハルトの髪に手を伸ばす。
よく手入れされた髪はサラサラで、指のあいだをさらりと滑り落ちる。
「愚息が大変な無礼を働いたと聞きました。心よりお詫び申し上げます」
「ほんとにね。自制ができないクズなんだから、あれは解かないよ」
「……仰せのままに」
「話はもう終わり?オレ眠いんだけど?」
陛下が膝をつき、臣下のように話している。
それをものともせず、当然のように受け答えするゼー。
そのくせ、レオンハルトの膝に乗ったまま、肩のあたりに頭をグリグリ押し付けてくる。
レオンハルトは、内心パニックになっていた。
かわいいペットの子犬が、実はとんでもない存在だったなんて、そんな小説みたいなことが自身に起こるとは予想もしていなかった。
この様子だと、ゼーはもちろん、レオンハルトや公爵家が処罰されることもないだろう。
その事実に安堵しながらも、レオンハルトの心境は複雑だった。
(なんだか、ゼーが遠くに行っちゃうみたいだ)
レオンハルトにとって、ゼーは日々の癒しとなる家族だった。
家を空けることの多い両親と顔を合わせる機会は、あまり多くない。
だからこそ、一日の始まりと終わりを共有できるゼーは、レオンハルトにとって特別な存在だった。
それがいまや、王を凌駕する白狼様?
このままでは、自分のかわいいペットではなくなってしまう。
そんな不安がレオンハルトの胸を締め付ける。




