7 登城
アーレンス帝国には「白狼」という守り神が存在する。
建国神話にも登場する白狼は、あらゆる魔術を自在に使いこなし、帝国の危機を救う存在だといわれ、信仰の対象となっている。
しかし白狼は気まぐれな存在で、帝国を救うこともあれば、災害となることもあるという。
数百年前に、当時の帝国貴族が白狼の怒りを買い、国は半壊にまで陥った歴史まで残っている。
「まさか……とは思うけど」
レオンハルトは、ゼーがその白狼ではないかと疑っていた。
先ほどの輝くような白髪と青い瞳は、伝承に残っている白狼の人間化した姿に酷似していた。
また、ウォルターにかけた魔術……というか、呪い。
それもまた、今の時代には失われた古代魔術の可能性が高い。
「でも……でもなぁ」
自分の膝で気持ちよさそうに眠っているゼーの姿は、伝承の守り神とはまったく一致しない。
ただのかわいい子犬でしかない。
あのあと、ウォルターは逃げるように城へ帰っていったという。
おそらく、すぐに登城するよう命が下るはずだ。
その際、きっとゼーへの処分が言い渡される。
もしもゼーが本当に白狼だったとしたら、罰せられる可能性は低いだろう。
国を滅ぼす力を持つ守り神を敵に回すほど、王は愚かではない。
ならば不敬の罪は誰が問われるのか。
問うまでもなく、俺……いや公爵家の責とされるはずだ。
「没落……まではいかないといいけど」
あのウォルターが、簡単にレオンハルトを手放すとは思えない。
支配欲の塊のような男だから。
あの男なら「慈悲」だとかなんだとか言って、レオンハルトの身と引き換えに、公爵家の罪を清算するよう訴えることもしかねない。
(そうしたら、俺は一生、あの男のもとで飼い殺しか)
絶望的な気分で、レオンハルトはひたすらゼーの柔らかい毛並みを撫でていた。
その頬を伝う雫を、時折乱暴に拭いながら。
「レオンハルト、いるか?!」
返事も聞かず、部屋に入ってきたのはレオンハルトの父であるロックウェル公爵だった。
「父上……」
「陛下より至急登城せよとのご命令だ」
「わかりました。すぐに支度を……」
「いや、そのままでいい。それより、殿下に呪いをかけたという男はどこだ?」
父の問いかけに、レオンハルトは素直にゼーを指さした。
父は眉間にしわを寄せ「冗談を言っている場合ではない」と叱責する。
レオンハルトはそんな父に、一部始終を説明した。
父はにわかには信じられないという様子だったが、息子にそんな嘘をつくメリットはないと判断したらしく、ゼーも連れて城へ向かうことになった。
ネルトが用意したかごの中にゼーを入れ、レオンハルトは馬車に乗り込んだ。
公爵家から城までは、馬車で30分ほど。
同乗している父は、終始無言だった。
ただ城につき、馬車を降りるまでに一言「必ず守ってやる」と呟いた。
レオンハルトは泣きそうになりながら、父の背中を追う。
レオンハルトたちが通されたのは、謁見の間ではなく王の私室だった。
父が言うには、内密な話をするときに使われるらしい。
謁見の間ですぐに処罰を言い渡されると思っていたレオンハルトは戸惑いつつも、王に促されるまま先ほど父に説明した通りの内容を話した。
話し終えると、王は頭を抱えていた。
不安になって父を見ると、父も眉間を押さえている。




