↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/13

5 特等席

 翌朝、レオンハルトは普段通り優秀なお坊ちゃんに戻っていた。

 普段通り昼過ぎまで惰眠を貪っていたゼーは、主のいない部屋の中で伸びをする。

 いつもなら、このまま二度寝、三度寝と決め込むところだ。


 しかしこの日は軽やかにベッドを降りた。

 部屋の扉はしまっていたが、ゼーが尻尾を揺らすと軽く開いた。

 その隙間からするりと抜け出し、ゼーはレオンハルトの匂いを追う。

 ついでに、施錠も忘れずに。

 変な侵入者が来ても困る。


 意外と遠くの部屋にいるらしく、歩いている途中でゼーは面倒になってきてしまった。

 少し休憩しようとその辺に丸くなると「おや?」と聞きなれた声がした。

 片目をうっすら開け、声の主を確認する。

 ネルトだ。

 ネルトはゼーをそっと抱き上げ、あろうことか来た道を引き返そうとする。


 ゼーは慌ててネルトの腕から滑り落ちた。

 せっかくここまで来たのに、また振り出しに戻されてはたまらない。

 ネルトは普段なされるがままのゼーの初めての反抗に戸惑いつつ「坊ちゃまを探しておられるのですか?」と問いかける。

 軽く尻尾を揺らして返事をすると、どうやら通じたらしい。

 少し考え込む仕草をしたあとで、仕方なさそうに抱き上げて進行方向に向かって歩き始めた。


(らくちん、らくちん)


 うつらうつらしながらしばらくすると、ネルトは一つの部屋の前で立ち止まった。

 そして軽くノックをすると、レオンハルトの返事が返ってきた。

 開いた扉の先で、レオンハルトは驚いた顔をしていた。

 それもそうだろう。

 普段部屋で寝てばかりいる愛犬が、執事の腕に抱かれてやってきたのだ。


「どうした?」


 手にしていたペンを放り投げ、レオンハルトはゼーに駆け寄る。


「どこか悪いのか?」

「いえ、坊ちゃまを探して外に出ていたようで」

「は?俺を?……部屋の鍵はしまっていなかったのか?」

「確認したところ、施錠はされていたそうです」

「じゃあどこから……」


 レオンハルトとネルトは顔を見合わせて首を傾げた。

 そのすきに、ゼーはネルトの腕から抜け出し、レオンハルトの足元にすり寄る。

 自身を見上げる青い瞳に、レオンハルトは頬を綻ばせた。


「なんだよ、甘えにきたのか?」


 そう言って抱き上げた身体は、春の陽だまりのような温かさだ。


「ここにいるなら、いい子にしてるんだぞ?」


 レオンハルトはそう言って、ゼーの頭を撫でまわす。

 ゼーが軽く尻尾を振って返事を返すと、レオンハルトはゼーを抱いたまま座り、膝の上にゼーを寝かせた。

 どうやらここが、今日のゼーの特等席らしい。


 昨夜のことが嘘だったみたいに、今日のレオンハルトは普段通りだった。

 きれいに伸びた背筋、真面目な表情。

 レオンハルトの膝の上は居心地がよく、ゼーはうつらうつらとまどろみ始めた。

 それに気づいたのか、時折レオンハルトが優しくゼーの頭を撫でてくれる。

 5分もたたないうちに、ゼーはすっかり眠りの中に落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。