第8話「蒼穹の亡霊、F-4編隊」
第8話「蒼穹の亡霊、F-4編隊」
空が唸った。
巨大な浮遊物体の底部ハッチがゆっくりと開き、黒い影が次々と飛び立っていく。
一機。
二機。
十機。
二十機――。
瞬く間に編隊を組み、蒼穹を覆い尽くした。
「……なんだ、あれは」
銀太はムラサメの単眼モニターを拡大する。
映し出された機影を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
「嘘だろ……」
見間違えるはずがない。
あの独特な機体形状。
長く突き出た機首。
後退翼。
空を駆け抜けた伝説の戦闘機。
「F-4ファントム……」
とうの昔に退役したはずの名機だった。
だが違う。
機体は黒ずんだ銀色。
風防の奥に人影はない。
まるで亡霊だった。
「敵が……人類の兵器を学習したのか」
銀太の背筋を冷たい汗が流れる。
F-4編隊は一斉に機首を下げた。
衝撃波が空を裂く。
急降下。
レールガン。
実体弾。
雨のような攻撃が街を穿つ。
「紬!」
「うん!」
銀太は背中の固定ハーネスを締め直す。
「舌を噛むな!」
変形レバーを叩き落とした。
ガチン。
ガガガガガガッ!!
数万の歯車が逆転を始める。
腕が折り畳まれ、翼となる。
脚部が収納され、胴体が流線形へ変化していく。
青い巨人は再び飛翔形態へ姿を変えた。
機首下部から斬撃ブレードが飛び出す。
シャキン!!
「行くぞ、ムラサメ!」
背部推進器が火を噴いた。
爆煙を突き破り、青い機体が空へ躍り出る。
一気に加速する。
正面から迫るF-4。
「そこだ!」
操縦桿を押し込む。
真正面。
互いの距離が一瞬で消える。
すれ違いざま。
斬撃ブレードが銀色の翼を切り裂いた。
ドゴォォォン!!
敵機は火球となり、大地へ墜ちる。
「まず一機!」
だが、残る編隊は乱れない。
一斉に散開する。
左右へ。
上下へ。
完璧な連携だった。
「来る!」
翼下ポッドが唸る。
ゼンマイが弾ける。
バババババッ!!
空気圧で撃ち出された鋼鉄弾が二機目を捉え、機首を吹き飛ばした。
それでも終わらない。
背後。
さらに三機。
銀太は急旋回へ入る。
強烈なGが全身を押し潰した。
「ぐっ……!」
コックピットの警告灯が赤く点滅する。
マブイ計。
針が危険域へ沈んでいく。
「お父さん!」
紬の声だった。
その瞬間。
背中から温かな熱が伝わる。
ムラサメの装甲が淡く蒼く輝いた。
「紬……?」
「分かる!」
紬は目を閉じたまま叫ぶ。
「右!」
銀太は反射的に操縦桿を倒す。
一瞬前までいた空間を、レールガンが貫いた。
「まだ来る!」
「っ!」
「上!」
機体を跳ね上げる。
銀太の視界に、敵機の軌道が自然と浮かび上がった。
まるで空そのものが教えてくれているようだった。
「見えた!」
ムラサメは急上昇する。
その勢いのまま反転。
一瞬で敵編隊の後方へ回り込んだ。
「紬!」
「うん!」
二人の声が重なる。
ムラサメの歯車が轟音を上げた。
翼下ポッドが一斉に火を噴く。
バババババババッ!!
通常の倍を超える鋼鉄弾が空を埋め尽くした。
三機。
四機。
爆炎が連続して咲く。
青い機影は、その炎を突き抜ける。
空にはなお、銀色の亡霊たちが旋回を続けていた。
だが銀太は笑った。
「空なら負けねぇ」
青きムラサメは再び機首を上げ、迫り来る銀の編隊へ一直線に飛び込んでいった。




