第9話「こぼれ落ちる命、地底の悲鳴」
第9話「こぼれ落ちる命、地底の悲鳴」
最後の銀色の機影が火球となって空に散った。
「……勝った」
銀太は肩で息をしながら呟く。
背中では紬も荒く息をついていた。
「やったね……お父さん」
束の間だった。
静かになった空へ、別の音が割り込んでくる。
「助けてぇぇぇっ!!」
「嫌だ! 離せ!」
「誰か! 誰かぁ!!」
悲鳴。
叫び。
泣き声。
そのすべてが地上から響いていた。
銀太の表情が変わる。
「……下だ!」
ムラサメは急降下を開始した。
◇
着地した銀太は、言葉を失った。
そこには戦場があった。
地下鉄の入口。
防空壕。
地下商店街。
安全だと信じ、人々が身を寄せ合っていた場所から、避難民が次々と引きずり出されている。
銃を突き付けられ。
殴られ。
泣き叫びながら。
「歩け。」
銀色の兵士が淡々と言う。
若い男。
体格のいい女。
高校生くらいの少年。
その者たちには拘束具が取り付けられ、列へ並ばされていく。
労働力。
それだけが選ばれる基準だった。
一方で。
「お願いです!」
母親が幼い子を抱き締める。
「この子だけは……!」
兵士は答えない。
静かに銃口を向ける。
バシュッ。
乾いた衝撃音。
母親が崩れ落ちる。
子どもの泣き声だけが路地へ響いた。
銀太は息を呑む。
「……やめろ」
目の前では老人が撃たれる。
足を怪我した男が撃たれる。
歩けない者から順番に。
まるで壊れた機械のように。
命が処理されていく。
「やめろォォォッ!!」
ムラサメが飛び出した。
からくり盾が開く。
ガギギギギッ!!
放たれたレールガンを弾き返す。
続けざまに左腕が火を噴いた。
空気圧式実体弾。
二体の敵兵が壁ごと吹き飛ぶ。
助かった。
そう思った次の瞬間。
「助けてぇぇぇ!!」
隣の通り。
「こっちだ!」
さらにその先。
地下道の入口。
どこからも悲鳴が聞こえる。
銀太は立ち尽くした。
一つ救えば。
別の場所で誰かが死ぬ。
一機だけ。
たった一機のムラサメでは、この街すべてを守れない。
「くそっ……!」
拳を叩きつける。
「くそぉぉぉぉッ!!」
コックピットへ涙が落ちた。
どれほど強い力を持っていても。
どれほど空を飛べても。
目の前で消えていく命を止められない。
「お父さん!」
紬が叫ぶ。
「地下道!」
指差した先。
地下鉄の出口から数十人の捕虜が連れ出されていた。
老人。
子ども。
泣き叫ぶ母親。
その前へ、一体の指揮官型が立つ。
ゆっくりとレールガンを持ち上げた。
銀太は目を閉じる。
歯を噛み締める。
血の味が口いっぱいに広がる。
「……紬」
「うん」
「力を貸してくれ」
紬は何も聞かなかった。
ただ、小さく頷く。
銀太は胸元へ手を伸ばした。
赤いトリガー。
ムラサメ最大の切り札。
封印し続けてきた最後の兵装だった。
「これを撃てば……俺たちは無事じゃ済まないかもしれない。」
それでも。
銀太は笑った。
「目の前の命だけは、見捨てたくない。」
紬も父の手へ自分の手を重ねる。
「一緒に撃とう。」
その一言だった。
二人の指が、同時に赤いトリガーへ触れる。
――ドクン。
ムラサメが脈打つ。
ガチン。
ガガガガガガガガガガッ!!
数万の歯車が絶叫するような金属音を響かせ、一斉に逆回転を始めた。
蒼い光がコックピットを満たしていく。
銀太は操縦桿を強く握る。
「頼むぞ……ムラサメ。」




