第10話「希望の潰散、途絶える鼓動」
第10話「希望の潰散、途絶える鼓動」
「行けぇぇぇぇッ!!」
父と娘。
二人の指が、同時に赤いトリガーを押し込んだ。
――ガチン。
次の瞬間。
ガガガガガガガガガガッ!!
ムラサメの内部で、数万の歯車が絶叫するような金属音を響かせ、一斉に逆回転を始める。
コックピットが蒼い光に包まれた。
マブイ伝導率計。
針は限界を越え、そのまま振り切る。
ガラスが砕け散った。
銀太と紬の身体から溢れ出した蒼い光が、無数の伝導管を駆け抜ける。
胸部へ。
ただ一点へ。
「届けぇぇぇッ!!」
胸部装甲が開く。
轟音。
蒼白の奔流が世界を貫いた。
ドォォォォォン!!
光は地上の敵兵を一瞬で飲み込み、その勢いのまま巨大な浮遊物体へ突き進む。
避難民も。
兵士も。
誰もが空を見上げた。
届く。
誰もがそう思った。
しかし。
――バシィィィン!!
空間そのものが震えた。
巨大な波紋が空に広がる。
見えない壁。
蒼白の光は、その壁へ叩きつけられた。
次の瞬間。
光が弾かれる。
軌道を変えられた一撃は雲を貫き、そのまま遥かな空の彼方へ消えていった。
静寂。
煙が晴れる。
そこには。
何も変わらず浮かぶ巨大な影があった。
傷一つない。
まるで、最初から何も起きなかったかのように。
「……そんな」
銀太は声を失う。
命を削った。
紬の力も借りた。
ムラサメ最大の切り札。
そのすべてが届かなかった。
絶望だけが残る。
「……はぁ……っ」
身体から力が抜ける。
コックピットを満たしていた蒼い光が消えた。
ガラ……。
ガラガラ……。
歯車が力なく止まっていく。
マブイ計。
針は、静かに零を指していた。
「お父さん……」
背中の紬が崩れ落ちる。
「体が……動かない……」
「紬!」
銀太も操縦桿を握る力を失う。
腕が上がらない。
視界が暗い。
呼吸すら重い。
ムラサメが膝をつく。
ズシン。
八百五十キロの鋼鉄が地面へ沈んだ。
盾は開かない。
剣も抜けない。
青き巨神は、ただの鉄塊となって沈黙した。
その前へ。
瓦礫の向こうから銀色の兵士たちが姿を現す。
一人。
二人。
三人。
無言のまま銃口を向ける。
ゆっくりと近づいてくる。
逃げられない。
戦えない。
守れない。
銀太は歯を食いしばる。
それでも体は動かなかった。
紬が小さく父の服を掴む。
「……お父さん」
その声だけが聞こえた。
銀色の兵士たちは足を止めない。
冷たい銃口が、父娘へ向けられる。
巨大な浮遊物体は、なおも八洲の空を覆い続けていた。
その影だけが、静かに二人へ落ちていた。




