表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『八洲防衛戦記 ムラサメ』  作者: 水前寺鯉太郎
第一部:異星侵略者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/26

第11話「一塊の糧、繋がる歯車」

第11話「一塊の糧、繋がる歯車」

 息ができない。

 視界の端から黒いモヤが広がり、思考すら白く霞んでいく。

 指先一つ、微塵も動かない。

 八洲の青き巨神ムラサメは、崩れた瓦礫の中で膝をついたまま、不気味なほど静まり返っていた。

 暗転していくコックピットに響くのは、自分のゼーゼーという荒い吐息だけだ。

「……はっ……くそっ……!」

 銀太は血の滲む唇を噛み締め、鉛のように重い腕で操縦桿を握ろうと必死に抗う。

 だが、指先に力が届かない。

 背中では、命の輝きを使い果たした紬が、ぐったりと無防備にもたれ掛かっていた。

「紬……おい、紬……!」

 返事はない。背中越しに、消え入りそうな微かな心臓の鼓動だけが、かろうじて伝わってくる。

 銀太は悔しさに瞼を閉じた。

 終わってしまうのか。こんな冷たい瓦礫の上で、娘を守れずに……。

 その時だった。

 胸ポケットの深くに、固く四角い感触が指先に触れた。

「……ん……?」

 震える指先を胸元へ滑り込ませ、それを取り出す。

煤と汗で汚れた銀色のアルミ包装。少し押し潰された小さな四角い箱。

「……そうか……これがあった……!」

脳裏に苦い思い出が蘇る。

軍需開発局での連日の徹夜作業。試作機の調整に没頭し、昼飯を食べ損ねることなど日常茶飯事だった。

だから銀太は、作業着のポケットにいつも「それ」を突っ込んでいたのだ。

高濃縮栄養食――カロリーブロック。

絶望の暗闇の中、銀太の口元に血の滲む笑みが漏れた。

「まだ……俺たちの運は尽きちゃいねぇ……!」

銀太は前歯で銀色の包装を荒々しく噛み破った。

固いパサついたブロックを、震える手で二つに割り折る。

「紬……食え……!」

背中の娘の口元を指でこじ開け、小さく砕いた欠片を滑り込ませた。

「頼む……喉を鳴らせ……飲み込んでくれ……!」

祈るような数秒。

やがて、紬の華奢な喉仏が、小さく動いた。

ゴクリ。

確かな嚥下音。

銀太は残った半分を己の口内へ放り込むと、力任せに噛み砕いた。

パサパサとした甘味が口いっぱいに広がる。猛烈に喉が渇く。

だが構うものか。唾液と血を交えて力ずくで喉奥へ押し込んだ。

数十秒。一分。

時間の感覚すら曖昧な沈黙が流れる。

やがて――冷え切っていた胃の底から、小さな温かな火が灯った。

ドクンッ!!

心臓が、世界を打ち鳴らすように大きく脈動した。

血液が酸素とブドウ糖を運び、感覚の失われていた全身の末端へと熱を呼び戻していく。

「……動く……手が、動くぞ……!」

銀太は固く拳を握り締めた。

背中の紬も、小さく、だが確かな息を吸い込んだ。

「お父さん……あたし……」

「起きられたな。よくやった」

まだ立つのすらやっとだ。だが、俺たちの魂は……まだ死んじゃいない!

その時――。

ザッ、ザッ、ザッ。

瓦礫を踏みしめる冷酷な足音。銀色の兵士たちが、目と鼻の先まで迫っていた。

並ぶ青い銃口。

先頭の一体が黒い拘束具を構え、動かないムラサメの装甲へ無雑作に手を伸ばしてくる。

――終わりだ。

一切の感情を含まない無言の圧迫。

銀太は静かに、だが猛烈な殺意を込めて両目を開いた。

「……まだだ……まだ終わらせてたまるかよッ!!」

兵士の銀色の手がムラサメの胸部へ触れようとした、まさにその瞬間!

ガギィィィィンッ!!

沈黙していたムラサメの体内で、一枚の金属歯車が猛然と回転を開始した!

続いて二枚! 五枚! 十枚!

伝導管を駆け巡る生体電流!

ガガガガガガガガガガガガッ!!

止まっていた数万のカラクリ歯車群が一斉に目を覚まし、咆哮を上げた!

双眸のカメラアイに、カッと鋭い蒼炎が吹き荒れる!

銀色の兵士が驚愕に動きを止めた。

「なっ……機体が……!?」

跳ね上がるムラサメの右腕!

折りたたまれていた積層からくり大盾が、爆風のごとき高圧空気とともに全開展開する!

バサァァァッ!!

巨大な鋼鉄の扇が、至近距離の敵兵を横殴りに薙ぎ払った!

ドガァァンッ!

吹き飛んだ敵兵が十メートル先のコンクリート壁へ激突し、肉塊となって崩れ落ちる!

銀太は操縦桿を力強く握り直した。

口内には、まだあのパサついたカロリーブロックの甘みと生々しい血の味が残っていた。

「おい……聞こえるか、異星の野郎ども」

群がる敵兵たちを、コックピットから射抜くような眼光で睨みつける。

「俺たちは……泥を舐めてでも生き抜く……!」

ズシンッ!

ムラサメが重音を響かせて大地を踏みしめ、仁王立ちした!

「俺たちは……まだ、生きているッ!!」

八洲の空の下、青き甲冑は再び戦場へと立ち上がった。

その背中には、愛する娘の温かな鼓動が、力強く打たれていた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ