第12話「奪われた光、燃える敷島京」
第12話「奪われた光、燃える敷島京」
泥を噛み、一塊の糧によって再び立ち上がった青き巨神ムラサメ。
だが――八洲の首都・敷島京は、すでに死の淵に立たされていた。
連鎖する大爆発。途切れない銃声。人々の痛切な悲鳴。
黒煙と火の海に包まれた街全体が、地獄の如き血みどろの戦場へと変貌を遂げていた。
「撃てぇぇぇッ! 退くな! ここが我々の防衛線だぞ!」
「弾薬を回せ! 手動レバーで送弾しろ!」
瓦礫を楯に泥まみれで応戦するのは、八洲国防軍の兵士たちだ。
最新の電子兵器を全滅させられた彼らは、旧式の火薬式機関銃と実体弾の重装甲車だけを頼りに、死力を尽くして抗っていた。
それでも――異星の銀色兵士たちは無感情なまま、踏みしめる足音を揃えて前進を続ける。
「お父さん!」
背中の紬が叫ぶ。
「八洲のみんなが……命がけで戦ってる!」
「ああッ!」
銀太は血の滲む手で操縦桿を握り直した。
「俺たちも行くぞ! 敷島京を……渡してたまるかぁッ!」
ムラサメが爆炎を撒き散らして駆け出す!
積層からくり大盾が展開し、降り注ぐ高力レールガンの超高速弾を激しい火花とともに弾き返す!
左腕の圧縮空気ガトリングが狂おしく火を噴き、押し寄せる敵兵の隊列を豪快に吹き飛ばした。
青き甲冑が戦場を疾風のごとく駆け抜けるたび、破滅寸前だった国防軍の防衛線に、わずかな勝機と歓喜が芽生えていく!
「ムラサメだ! 軍需開発局の試作機が来てくれたぞ!」
「あいつに続け! 全兵力、ムラサメを死守せよ!」
兵士たちの怒号のような歓声を背に、銀太は確かな手応えを感じていた。
――勝てる。八洲の民がひとつになれば、この地獄を覆せる!
ほんの一瞬、希望の光が差した――まさに、その時だった。
銀太の背筋を、氷の針で貫かれたような禍々しい戦慄が駆け抜けた。
「……ッ!?」
背後。死角。
振り返るよりも早く――バチィィィィィンッ!!
紫白の激しい電撃が、ムラサメの背部装甲へ直接突き刺さった!
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」
機体が激しく痙攣し、内部のカラクリ歯車群が狂ったように悲鳴を上げる!
銀太の視界が一瞬で白く弾け飛んだ。
煙の中から姿を現したのは――胸部に二本の青ラインを刻んだ異星の兵士。
指揮官型。しかも、先ほど撃破した個体とは別の、新たなる二体目の刺客!
「しまっ……つ――!」
痺れる腕で操縦桿を戻そうとするが、敵の動きは冷酷かつ迅速だった。
指揮官型の左腕から射出された鋼鉄の拘束ワイヤーが、ムラサメの背部ハーネスへ蛇のように絡みつく!
ガギンッ!
強靭な金属具が悲鳴を上げて弾け飛んだ!
「きゃあぁぁぁっ!?」
背中から、紬の華奢な身体が宙へ浮き上がる!
「紬ぃぃぃっ!!」
銀太は血を吐くような叫びとともに必死で手を伸ばした。
だが、指先は虚しく空を切る。
指揮官型は宙で紬を抱え込むと、腰の透明な生体拘束カプセルへ無慈悲に押し込んだ!
「お父さん……! お父さん助けてぇぇぇッ!!」
カプセルのアクリル越しに、涙で濡れた娘の悲鳴が響く。
「紬を……紬を返せぇぇぇぇッ!!」
銀太は狂乱し、ムラサメの実体大刀を振り上げた!
だが――遅すぎた。
頭上から超音速で降下してきた一基の大型回収ポッド。
口を開けるようにハッチが爆発的に開放され、指揮官型は紬を抱えたまま、迷いなくその闇の中へ飛び込んだ!
カシュンッ! 重厚な気密ロックが下りる。
「逃がすかぁぁぁぁッ!!」
銀太は変形レバーを叩き折り、ムラサメを飛翔形態へ強引に変形させた!
背部ブースターが蒼炎を爆発させ、空へ躍り出る!
全速力で回収ポッドを追撃する!
だが――速度が乗らない!
先ほどの電撃と、極限まで枯渇した『マブイ(魂)』。歯車群が「ギチギチ」と悲鳴を上げ、エンジンが空回りする。
「加速しろ……動け! 動けムラサメぇぇぇッ!!」
銀太は血涙を流しながら叫ぶが、青き機体は空中で空しく失速していく。
紬を乗せた回収ポッドだけが、圧倒的な加速で上空の巨大浮遊物体へと駆け上がっていく。
「紬ぃぃぃッ!!」
ポッドが、上空数千メートルの漆黒の母艦へ近づく。
そこには――あの『マブイ変換砲』すら完璧に遮断した、絶対不可侵の『見えない壁(結界)』が横たわっているはずだった。
しかし……。
回収ポッドは何の抵抗もなく、波紋ひとつ立てずにその光の壁をすり抜けた。
まるで最初から、侵略者のためだけに開かれた死の門扉のように。
ポッドは、巨大な母艦の暗黒の腹の中へと吸い込まれていった……。
「紬ぃぃぃぃぃぃッ!!」
銀太の血を吐く叫びだけが、敷島京の燃える空へ虚しくこだました。
もう……届かない。
飛翔形態のまま空中で静止したムラサメのコックピットで、銀太はただ、呆然と天を見上げるしかなかった。
眼下では、なおも燃え盛る敷島京。
噴き上がる黒炎、交錯する曳光弾、人々の悲鳴。
そのすべてを冷たく見下ろしながら、銀太は破れんばかりに拳を握り締め、己の無力さに号泣した。
――命にかえても守ると誓った愛する娘は今、己の手の絶対に届かぬ『天の牢獄』へと連れ去られてしまったのだ。




