第13話「一鋒の鉄騎、鋼の咆哮」
第13話「一鋒の鉄騎、鋼の咆哮」
圧倒的な加速とともに、回収ポッドは漆黒の巨大浮遊物体の中へと吸い込まれていった。
「紬ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
銀太の血を吐く叫びだけが、燃え盛る空へと虚しく響き渡る。
返事はない。もう声すら届かない。
愛する娘は、あの絶対不可侵の母艦の胎内へと連れ去られてしまったのだ。
血が出るほど固く拳を握りしめる。歯が砕けるほど奥歯を噛み締める。
胸を焼き尽くす絶望と悲しみは、数秒の静寂を経て、冷酷で狂おしい「別の感情」へと変貌を遂げていった。
――怒り。いや、違う。
何をしてでも娘を奪い返すという、鬼のごとき狂気の執念!
その時――。
『こちら陸上防衛隊! 葉加瀬技師、聞こえるか!』
ノイズまみれの有線無線が、コックピット内にけたたましく響いた。
『上を見ろ! 母艦から新たな敵群が降りてくるぞ!』
銀太は血走った眼光で天を見上げた。
上空数千メートルに横たわる巨大浮遊物体――その腹部全体が、禍々しい赤色に発光していた。
「……また仕掛けてきやがるか……!」
直後――ドババババババババッ!!
巨大な大口径射出口から、幾百もの大型降下ポッドが豪雨のごとく地上へ撃ち出された!
大気を引き裂く凶暴な滑空音。敷島京の街並みへ容赦なく降り注ぐ鋼鉄の雨。
ドドドォォォンッ! ドガァァァンッ!!
首都の土塵と瓦礫が天高く跳ね上がり、大地が狂ったように激震する。
放射状に観音開きとなったポッドの煙の中から、新たなる侵略者がその姿を現した。
重厚な装甲、鈍く光る黒銀色の外骨格フレーム、肩に備えられた大型機関砲。
これまでの単体兵士とは明らかに一線を画す、歩行要塞のごとき異形の兵器群!
「新型の重装甲兵か……!」
重装甲兵の群れは、足裏と背部のブースターから蒼炎を吹き出し、地表スレスレを高速ホバー滑走で一斉に前進を開始した!
「防衛線を死守せよ! 撃てぇぇぇッ!」
八洲国防軍の残存部隊が、泥に塗れながら火薬式機関銃を一斉掃射する!
鉛の弾丸が豪雨となって襲いかかる――だが!
重装甲兵の前面に、薄青い幾何学模様の力場が展開した。
キィィィン! キキィィン!
数千発の弾薬が、その淡い光の壁に触れた瞬間にことごとく弾かれ、虚しく虚空へ跳ね返っていく!
「なっ……物理弾丸すら通らん障壁だと!?」
直後、重装甲兵が一斉に大型レールガンを水平射撃した。
ズガガガガガガガガッ!!
眩い閃光と猛烈な衝撃波!
八洲軍の陣地が一瞬で灰燼に帰し、装甲車が紙屑のように横転して兵士たちが宙を舞う。
国防軍の防衛線は、わずか数十秒で圧倒的な火力の前に崩壊しかけていた。
崩れかけたビル群の上空。
銀太は震える指先で、作業着の胸ポケットから煙草を取り出した。
ポケットに残されていた、最後の一本。
八洲の銘柄――『敷島』。
使い込まれた真鍮ライターを擦る。風に煽られる火花。煙草の端に赤い火が宿る。
紫煙を肺の奥深くまで吸い込んだ。喉と肺が灼熱で焦げ付く。
ゆっくりと煙を吹き破り、空に浮かぶ母艦を冷酷に射抜いた。
「……待ってろ、紬」
低く、地の底から響くような声で呟く。
「お父さんが……骨になっても迎えに行ってやる」
銀太は吸殻を空中へ投げ捨てると、操縦桿を底まで叩き落とした!
ガガガガガガガガガッ!!
ムラサメの内部でカラクリ歯車群が狂おしく咆哮を上げる!
飛翔形態へと変形し、音速の衝撃波を残して敵重装甲兵の頭上へと肉薄!
敵の直上へ至った瞬間、可変レバーを逆倒し!
瞬間可変――人型甲冑形態!
重力加速度と機体質量をそのまま叩きつけるように、地表の重装甲兵へ向かって垂直降下した!
ズドォォォォォォンッ!!
激しい煙塵とともに地表が陥没する!
すれ違いざま、背から引き抜いた実体大刀を、敵重装甲兵の頭上から力任せに振り下ろした!
バシィィィンッ!
敵の前面に展開した青白い障壁が激しい火花を散らし、大刀の刃を受け止める!
「物理障壁か……だがな、ムラサメの刃を舐めるなよッ!」
銀太は操縦桿の副レバーを深々と押し込んだ!
ギギギギギギギギギギッ!!
ムラサメの蛇腹大刀の柄内部で、緻密なギア群が超高速逆旋回を開始する!
折り畳まれていた刃の鋸状パーツが、高圧空気によって超高速チェーンソーのごとく激しく往復回転を始めた!
ガガガガガガガガガッ!!
超振動と回転穿孔を打ち込むからくり大刀!
敵の青白い障壁に、蜘蛛の巣状のひび割れが一気に駆け巡る!
「砕け散れぇぇぇぇッ!!」
バチィィィンッ! ガラスが粉砕される狂気の重音!
破砕された障壁の隙間から、高速回転する大刀の刃が重装甲兵の肩口から股下までを真一文字に一閃した!
ドカァァァンッ!!
真二つに両断された敵重装甲兵が、猛烈な爆炎を吹き上げて粉砕される!
爆風の渦の中で、銀太は血の滲む大刀を再び構え直した。
胸の奥で燃え盛る炎は、もう二度と消えることはない。
娘を取り戻すまで。この異星の侵略者を一匹残らず打滅するまで!
燃え上がる首都・敷島京の只中で、青き鉄騎ムラサメは、群がる敵陣の真っ只中へと再び疾風のごとく駆け出した!




