第7話「継がれた蒼、父の秘密」
第7話「継がれた蒼、父の秘密」
崩れかけたビルの陰。
待機モードへ移行したムラサメは、青い装甲を鈍く光らせながら静かに佇んでいた。
銀太と紬は、その脚部にもたれるように座り込む。
焼けた瓦礫。
砕けた装甲車。
倒れたまま動かない拘束部隊。
つい先ほどまでの激戦だけが、そこに残されていた。
銀太は胸ポケットから『敷島』を取り出し、火を点ける。
紫煙をゆっくりと吐き出した。
「……聞きたいことがあるんだろ」
紬は黙ったまま、自分の両手を見つめていた。
「私……」
小さく口を開く。
「お父さんの手を握った時、体の中から何かが溢れてきた。」
一度言葉を切る。
「あれ、何だったの?」
銀太は静かに煙を吐いた。
「マブイだ」
「マブイ?」
「魂の力だ」
紬は首をかしげる。
銀太は足元の瓦礫を見つめながら続けた。
「誰でも持っている。でも、大半の人間は一生気づかない。」
煙草を指先で回す。
「ただ、ごく稀にな。生まれつき桁違いのマブイを持つ人間がいる。」
「それが……」
「特異点だ。」
紬はゆっくり父を見た。
「お父さんも?」
「ああ。」
銀太は苦笑する。
「子どもの頃から普通じゃなかった。」
少し考え込む。
「怪我の治りが妙に早かったり、集中すると景色が歪んで見えたりな。」
ムラサメの装甲へそっと触れる。
「だから作った。」
紬も青い装甲を見る。
「ムラサメを?」
「自分の力で守れるものを作りたかった。」
その一言だけだった。
紬はしばらく黙り込む。
やがて小さな声で尋ねた。
「……じゃあ、私も?」
銀太は娘の頭へ優しく手を乗せた。
「お前は俺の娘だ。」
一拍置く。
「広場で生き残ったのも、ムラサメを動かしたのも、お前自身の力だ。」
紬は唇を噛む。
「怖い。」
肩が小さく震える。
「急にそんなこと言われても……私、自分が自分じゃなくなるみたい。」
「怖くていい。」
銀太は娘を静かに引き寄せた。
「でも忘れるな。」
紬が顔を上げる。
「その力は、お前を化け物にするものじゃない。」
銀太は微笑んだ。
「俺がお前へ受け継いだ命の証だ。」
紬は父の胸へ顔を埋めた。
声を押し殺しながら泣く娘の背中を、銀太は何も言わず撫で続ける。
しばらくして。
遠くからローター音が響いた。
ドッドッドッドッ――。
軍用ヘリだ。
銀太は煙草を踏み消し、立ち上がる。
「もう来たか。」
拘束部隊が壊滅した以上、軍は自分を追う。
命令違反。
無許可出撃。
市街地での交戦。
もう軍は、自分を味方とは見ないだろう。
「紬。」
「うん。」
「背中に乗れ。」
紬は涙を拭い、迷わず父の背へしがみつく。
銀太は起動レバーを引いた。
ガチン。
ガガガガガガッ!!
歯車が噛み合う。
青い装甲が二人を包み込み、ムラサメがゆっくりと立ち上がった。
その時だった。
空が唸る。
銀太は思わず見上げた。
巨大な浮遊物体。
その底部で、これまで閉ざされていた巨大な区画がゆっくりと開き始めていた。
「……何だ?」
同時に、コックピット内の受信装置がノイズを拾う。
ザザッ――。
断片的な信号が文字へ変換される。
――対象個体「紬」再検知。
――上位個体、追加投入。
銀太の表情が凍りついた。
「……そういうことか。」
「お父さん?」
「向こうは最初から、お前を探していた。」
背中の紬が息を呑む。
あの指揮官型は偶然ではない。
紬という存在を狙って現れたのだ。
銀太は操縦桿を強く握る。
ムラサメの単眼が蒼く輝く。
「紬。」
「……うん。」
「何が来ても、俺がお前を守る。」
返事はなかった。
だが、背中へ回された小さな腕に、少しだけ力がこもった。
その温もりを確かめながら、銀太は静かに浮遊物体を見据えた。




