第6話「八洲の記憶、拒絶の血」
第6話「八洲の記憶、拒絶の血」
瓦礫の中へ倒れた敵兵の胸部で、小さな光が点滅していた。
「……端末か」
銀太は周囲を警戒しながら装置を取り外し、ムラサメのコックピットへ持ち込む。
解析装置へ接続する。
砂嵐のようなノイズが走り、やがて一つの映像が映し出された。
赤茶けた大地。
ひび割れた地面。
枯れ果てた河川。
風だけが砂塵を巻き上げている。
「……星、なのか」
銀太が呟く。
画面の隅に文字列が流れた。
翻訳は不完全だった。
それでも意味だけは読み取れる。
――水資源。
――枯渇。
――採取計画。
紬は息を呑む。
「この星……死んじゃったの?」
銀太は答えられなかった。
映像が切り替わる。
今度は青い惑星。
海。
森。
雲。
宇宙から見た地球だった。
再び文字が浮かぶ。
――対象確認。
――先住種。
――排除。
短い単語だけで十分だった。
銀太は静かに画面を閉じる。
「交渉する気は最初からない……」
その一言だけが重く響いた。
紬は自分の手を見つめる。
「同じ顔なのに……」
銀太は娘の肩へ手を置いた。
「姿じゃない。中身が違う」
その時だった。
重いエンジン音が近づいてくる。
「葉加瀬銀太!」
路地の入口へ装甲車が滑り込んだ。
その後ろから武装した兵士たちが展開する。
先頭に立つ将校は、軍需開発局で銀太へ命令を下した男だった。
「命令違反だ! 武器を捨てろ!」
「今そんなことをしている場合じゃない!」
銀太が叫ぶ。
だが将校も譲らない。
両者が睨み合った、その瞬間。
ヒュオオオオ――。
空を裂く音。
「上だ!」
誰かが叫んだ。
銀色のポッドが装甲車の目前へ突き刺さる。
轟音。
砂煙。
外殻が左右へ開いた。
中から一人の兵士が姿を現す。
銀色の装甲。
胸部を走る二本の青いライン。
一般兵とは明らかに違う。
「指揮官……?」
銀太が息を呑む。
兵士は何も言わない。
右手を上げる。
レールガン。
閃光が走った。
装甲車の正面装甲が紙のように貫かれる。
爆発。
続けざまに左腕が動く。
青白い電撃。
テーザーが兵士たちを次々と薙ぎ払った。
「ぐあぁ!」
「撃て! 撃てぇ!」
銃声が響く。
しかし敵は止まらない。
最小限の動きで弾道を外し、一人、また一人と倒していく。
わずか数十秒。
拘束部隊は壊滅した。
静まり返った路地で、指揮官型はゆっくりと顔を上げる。
その視線が向いた先。
紬だった。
「……まずい」
銀太の背筋が凍る。
敵は最初から紬だけを見ている。
「ムラサメ!」
青い巨体が路地へ躍り出る。
銀太は紬を背へ庇い、真正面から指揮官型と対峙した。
レールガン。
盾で受ける。
火花が散る。
衝撃が腕を突き抜ける。
実体剣を振るう。
かわされる。
返す刀でテーザーが装甲へ突き刺さった。
バチィッ!!
歯車が悲鳴を上げる。
機体が大きく揺れた。
「くっ……!」
コックピット内で赤い警告灯が点滅する。
マブイ計。
針は危険域へ落ち込んでいた。
腕が重い。
脚も動かない。
ムラサメが軋む。
敵だけが静かに歩み寄ってくる。
銀太は歯を食いしばった。
ここまでか。
そう思った瞬間だった。
「お父さん!」
紬だった。
瓦礫を駆け上がり、コックピットへ手を伸ばす。
「紬、来るな!」
「一人じゃない!」
小さな手が、銀太の手を強く握った。
――ドクン。
機体が震える。
ガチン。
ガチガチガチガチッ!!
止まりかけていた歯車が一斉に逆転した。
コックピットを蒼い光が満たす。
「……!」
銀太は計器を見る。
マブイ計の針が赤を越え、震えながら跳ね上がっていた。
敵も初めて足を止める。
バイザーの奥で、わずかに身構えた。
銀太は笑った。
「そうか」
もう迷いはない。
「行くぞ、ムラサメ!」
地面を蹴る。
一歩。
二歩。
指揮官型がレールガンを構える。
遅い。
ムラサメは一瞬で間合いを詰めた。
実体剣が唸る。
ジャキン――!
銀の銃が宙を舞う。
続けざまに盾を叩きつける。
指揮官型の体勢が崩れた。
「終わりだッ!」
渾身の一閃。
青い軌跡が路地を走る。
轟音。
火花。
爆炎。
指揮官型は瓦礫の中へ吹き飛び、そのまま動かなくなった。
静寂が戻る。
銀太はゆっくりとコックピットを開く。
紬はまだ手を離していなかった。
二人は顔を見合わせる。
言葉はいらなかった。
互いの鼓動だけが、確かに重なっていた。
銀太は静かに微笑む。
「……紬」
「うん」
「俺たちの知らないことが、まだたくさんある」
紬は小さく頷いた。
父の手を、もう一度強く握り返した。




