第5話「ポッド降下、銀の侵略者」
第5話「ポッド降下、銀の侵略者」
北へ向かって駆ける銀太の頭上を、爆音が切り裂いた。
見上げる。
八洲国防軍の最新鋭戦闘機が編隊を組み、一直線に巨大な浮遊物体へ突入していく。
翼下からミサイルが次々と放たれた。
白い航跡が青空を裂く。
「やってくれ……!」
銀太は思わず足を止めた。
避難民たちも顔を上げる。
誰もが同じ願いを抱いていた。
撃ち落としてくれ。
あれを。
ミサイルが命中する。
――そう見えた。
次の瞬間。
目に見えない壁へ激突したかのように、爆炎が空中で弾け飛ぶ。
一発。
二発。
三発。
すべて同じだった。
浮遊物体は微動だにしない。
「そんな……」
戦闘機隊はなおも攻撃を続ける。
機関砲が火を噴き、曳光弾が空を走る。
だが、そのすべてが見えない壁に阻まれ、届かない。
静かだった。
巨大な物体は、一切反撃しない。
まるで人類の抵抗を観察しているかのように。
やがて。
浮遊物体の表面が淡く明滅した。
「まずい……!」
銀太が叫ぶ。
直後だった。
細い閃光が幾筋も走る。
音は聞こえない。
しかし。
一機。
また一機。
戦闘機が炎を噴きながら空から落ちていく。
さらに電磁波が編隊を飲み込んだ。
機体の灯火が次々と消える。
制御を失った戦闘機は街へ墜落し、黒煙を上げた。
「ああ……」
避難民の誰かが膝をつく。
残された数機は急旋回し、煙を引きながら戦域を離脱していった。
首都の空は、再び静寂に包まれる。
だが。
それは終わりではなかった。
巨大な浮遊物体の底部がゆっくりと開く。
暗闇の中から、無数の影が落ち始めた。
◇
紬は路地裏で立ち尽くしていた。
頭の奥に残る熱。
腕に残る痺れ。
まだ鼓動がおかしい。
そこへ。
頭上から黒い影が降ってきた。
ドンッ!!
近くのビル屋上へ何かが着地する。
円錐形の金属ポッド。
外殻が左右へ展開する。
蒸気が噴き出す。
ロックが外れる音が響く。
そして。
一足。
銀色の靴が地面を踏んだ。
続いて現れたのは、人型。
銀色の装甲服。
全面バイザー。
肩から下げた銃。
「……人?」
思わず呟く。
怪物ではない。
異形でもない。
人間と変わらない体格だった。
兵士はゆっくりと銃を構える。
銃口が青白く輝く。
次の瞬間。
ビルの壁が弾け飛んだ。
轟音が遅れて路地へ響く。
レールガン。
超高速の金属弾が、防衛線を張る国防軍兵士を次々と撃ち抜いていく。
「逃げて!」
誰かが叫ぶ。
避難民は悲鳴を上げ、一斉に走り出した。
紬も走る。
だが。
路地の出口へ、一体の兵士が静かに降り立った。
逃げ道が塞がれる。
兵士は何も言わない。
ゆっくりと銃口だけを持ち上げる。
「……っ」
足が動かない。
逃げなければ。
そう思うのに、身体が言うことを聞かなかった。
「紬ーーーーッ!!」
銀太の声だった。
路地の向こう。
必死に走ってくる。
しかし遠い。
間に合わない。
兵士の指が引き金へ掛かった。
その瞬間。
ビル街が震えた。
ドゴォォォォン!!
コンクリート壁が内側から砕け散る。
青い巨体が瓦礫を突き破り、路地へ躍り出た。
ムラサメ。
銀太のマブイに応え、自ら駆けつけた。
「紬から離れろッ!!」
右腕が展開する。
ガギギギギッ!!
鋼鉄板が幾重にも重なり、巨大なからくり盾となる。
直後。
レールガンが盾へ直撃した。
火花が爆ぜる。
衝撃で路面が砕ける。
それでも盾は貫かれない。
「終わりだ!」
ムラサメが一歩踏み込む。
実体剣が抜き放たれた。
ジャキン!!
ギギギギ……。
伸長した刀身が銀色の兵士を横薙ぎに薙ぐ。
一閃。
兵士は数メートル吹き飛び、瓦礫へ激突した。
静寂が戻る。
「紬!」
銀太はコックピットから飛び降りた。
紬も走る。
「お父さん……!」
二人は強く抱き合った。
煤だらけの制服。
震える肩。
確かな温もり。
「よかった……」
銀太は娘の頭を抱き寄せた。
「本当に……よかった」
その安堵を裂くように、小さな呻き声が響く。
吹き飛ばした兵士だった。
まだ生きている。
銀太は紬を背に庇いながら近づく。
ひび割れたバイザーへ手を掛けた。
ゆっくりと持ち上げる。
カラン――。
ヘルメットが転がった。
銀太は息を呑む。
紬も言葉を失う。
そこにあったのは。
異形の怪物ではなかった。
灰色の宇宙人でもない。
人間だった。
銀太は掠れた声で呟く。
「……なんなんだ、お前たちは」




