第3話「青き巨神、地獄に立つ」(前編)
第3話「青き巨神、地獄に立つ」(前編)
空中で、ムラサメが唸りを上げた。
ガチン――。
次の瞬間。
ガガガガガガガガガッ!!
機体内部で無数の歯車が一斉に逆回転を始める。
火花が散る。
機首が左右へ割れ、装甲が幾重にも組み替わっていく。
主翼は折り畳まれながら肩甲へと収まり、その内部から両腕がせり出した。
胴体が回転し、腹部のギアが噛み合う。
機首下部から脚部が展開し、膝関節が小気味よい音とともに固定される。
最後に背部の装甲が展開し、余剰となった翼が推進機関として背中へ収束した。
可変からくり機体――ムラサメ。
その姿は、もはや戦闘機ではない。
青き鋼鉄の甲冑が、宙に立つ。
双眸に蒼い光が宿った。
銀太のマブイと共鳴した証だった。
「……行くぞ」
巨大な影の側面が、不気味に脈動する。
次の瞬間、無数の穴が一斉に開いた。
蜂の巣だった。
そこから十数機を超える小型自律兵器が吐き出される。
光の尾を引きながら、一斉にムラサメへ殺到した。
「開け、ムラサメ!」
副レバーを叩き落とす。
ガギギギギギッ!!
右腕の装甲が展開する。
一枚。
二枚。
三枚。
幾重もの鋼鉄板が扇状に重なり合い、からくり盾を形作った。
直後、熱線が降り注ぐ。
轟ッ!!
灼熱の奔流が盾へ突き刺さる。
火花が爆ぜ、衝撃がコックピットを激しく揺らした。
銀太は歯を食いしばる。
「耐えろ……!」
盾の表面で熱線が滑る。
角度を変えられた光は空へ弾かれ、ムラサメ本体へ届かない。
受け止めたのではない。
受け流したのだ。
「今だ!」
盾を畳む。
同時に背中へ腕を回した。
柄を掴む。
ジャキン!!
ギギギギギ……。
歯車が唸りを上げる。
折り畳まれていた刀身が蛇腹のように伸び、青白い刃が大気を切り裂いた。
「はああぁぁッ!!」
横薙ぎ。
一閃が空を薙ぐ。
一機。
二機。
三機。
ドローンがまとめて両断され、爆炎となって落下していく。
だが、敵は減らない。
次々と新たな機影が巨大な浮遊物体から溢れ出してくる。
機体の計器が低く警告音を鳴らした。
銀太は視線だけを動かす。
マブイ伝導率計。
針はゆっくりと赤い危険域へ近づいていた。
「……まだ早い」
胸元の赤い起動レバーへ手が伸びる。
マブイ変換砲。
この場を一瞬で薙ぎ払える切り札だ。
だが。
銀太は拳を握り締めた。
「駄目だ」
紬を見つける前に、倒れるわけにはいかない。
レバーから手を離す。
「切り開く!」
左腕を突き出した。
カシュン、カシュン、カシュンッ!!
圧縮空気が弾ける。
鋼鉄製の実体弾が雨のように撃ち出され、迫るドローンの隊列を乱した。
わずかに生まれた隙。
銀太は推進レバーを限界まで押し込む。
「ムラサメ!」
背部推進機関が火を噴く。
青い機体は爆煙を引き裂き、一気に地上へ急降下した。
崩壊した中央広場。
炎に包まれた高層ビル。
瓦礫と黒煙。
地獄のような街が眼下へ迫る。
「紬……!」
ムラサメはビル街の路地へ機体を滑り込ませる。
軽い着地音とともに両脚が地面を捉えた。
アスファルトに小さな亀裂が走る。
周囲の瓦礫が風圧で舞い上がった。
銀太は深く息を吐く。
「ここからは……俺の番だ」




