第2話「青い影、爆煙を穿つ」
第2話「青い影、爆煙を穿つ」
会議室は絶叫と怒号に満ちていた。
「中央広場が――中央広場が消し飛んだぞ!」
「通信が復旧しません!」
「被害状況は!?」
誰もが声を張り上げる中、銀太だけは震える手でポケットから敷島を取り出した。火をつけ、深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐く。肺を満たした紫煙とともに、暴れそうになる心を無理やり押さえつけた。
――紬。無事でいてくれ。
願いは胸の奥へ押し込む。今は父親ではいられない。技術者として考えろ。
銀太はモニターへ向き直った。解析ログが流れている。照射直前、物体内部のエネルギーが一点へ収束している。充填時間がある。そして通信障害。先ほどから続く異常な波形は、偶然のノイズではなかった。
「……EMPか」
思わず漏れた声に、隣の将校が振り返る。
「何かわかったのか」
「撃つ前に必ず予兆がある。それに、この通信障害は自然現象じゃない。意図的に軍の電子機器を潰している」
将校の表情が変わった。
「葉加瀬技師。司令部へ来てくれ」
「待ってくれ!」
銀太は声を荒らげた。
「娘が中央広場にいるんだ!」
一瞬だけ、将校は口を閉ざした。だが次の言葉は冷酷だった。
「今外へ出ても死ぬだけだ」
「君の解析が、この国を救うかもしれない」
銀太は拳を握り締めた。
その時だった。一つの機体が脳裏に浮かぶ。幾重にも噛み合う歯車。静かに眠り続ける相棒。
――ムラサメ。
銀太は顔を上げた。電子制御では動かない。だからこそ、この状況でも動く。
「離してくれ!」
将校の制止を振り切り、銀太は廊下へ飛び出した。怒号が背中を追う。振り返らない。
格納庫の重い扉を押し開ける。油と埃の匂いが鼻を突いた。薄暗い格納庫の中央、機体だけが静かに立っている。
「……待たせたな」
歯車が噛み合う。カチリ。もう一つ。カチリ。やがて低い駆動音が機体全体へ広がった。集光装置が淡く輝き始める。胸の奥が熱くなる。銀太のマブイが機体と重なっていく。双眸に光が宿った。
「頼む」
次の瞬間、格納庫のシャッターが強制解放された。ムラサメは轟音とともに飛び出す。閃光が、通信の絶えた首都の空を駆け抜けた。
眼下には炎。瓦礫。逃げ惑う人々。
そして。
空に浮かぶ巨大な影。何事もなかったかのように、静かにそこに在り続けている。
「紬……!」
銀太は操縦桿を握る手に力を込めた。
その時だった。巨大な物体の表面に、再び光が集まり始める。充填。第二射。
「来る!」
光が奔る。ムラサメは機体を横転させ、紙一重で回避した。閃光が眼下の街を薙ぎ払い、爆炎が空を焦がす。衝撃波が機体を激しく揺らした。それでも銀太は操縦桿を離さない。
口元に、小さく笑みが浮かぶ。
「……ここからだ」
レバーを引く。機体内部で無数の歯車が一斉に唸りを上げた。戦闘機形態が軋みながらほどけていく。鋼鉄の機体が、ゆっくりとその姿を現し始めた――。




