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『八洲防衛戦記 ムラサメ』  作者: 水前寺鯉太郎
第二部:カゲ星人編

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第3話「小さな騎士、震牙を抜く」

第3話「小さな騎士、震牙を抜く」

 葉加瀬家の子供部屋。

 紬の枕元に置かれていた、誕生日の贈り物――小型からくり戦車『震電しんでん』。

 その真鍮製の車体内部で、精密なギア群が突然「ピシリ」と微かな警戒音を打ち鳴らした。

 内蔵されたアナログマブイセンサーが、夜の静寂を破って葉加瀬家へと忍び寄る、異様かつ苛烈な『殺意の波形』を捉えたのだ。

 すやすやと穏やかな寝息を立てる紬。

 震電の小さなヘッドライトが、まるで眠る主人を愛おしむように一瞬だけ蒼く温かく点滅した。

 ――ご主人様は、渡さない。

 カチカチカチカチッ!

 震電は音もなくキャタピラを滑らせ、開いた小窓から深夜の庭先へ躍り出た。

 月明かりすら届かない漆黒の路地裏。

 そこには、空間そのものを不気味に歪ませながら歩み寄る流体金属の暗殺者――カゲ星人の隠密型パワードスーツ『晴嵐せいらん』の巨躯が佇んでいた。

 全高二・五メートルを超える巨大な影。

 その眼前に、全高わずか数十センチの小さなからくり戦車が、逃げることなく真っ直ぐに立ちはだかったのだ。

 『……障害物を確認。……なんだ、この奇妙な玩具は』

 晴嵐のバイザーの内側で、不気味な紫色のモニターが明滅する。

 電子波形を一切吐き出さない、真鍮と黒檀でできた異質の存在。

 晴嵐が無機質に右腕の流体金属忍者刀を滑り出させ、踏み潰そうと一歩を踏み出した――まさに、その瞬間。

 ガガガガガギィィィンッ!!

 震電の車体内部で、組み上げられた幾百の精密ゼンマイが一斉に解放された。

 重厚な鋳造装甲がスライドし、足回りのキャタピラが瞬時に折り畳まれて剛健な両脚へと組み替わる。

 車体上部が跳ね上がり、胸部と腕部が滑らかに伸長する。

 ――可変からくり甲冑モード。

 手のひらサイズの戦車は、月光の下で武者の気迫を纏った「小さな二足歩行の鋼鉄騎士」へと見事な変貌を遂げたのだ。

 双眸のランプに、カッと鋭い蒼炎の光が宿る。

 震電は腰のホルスターへ小さな鋼の右腕を回した。

 ジャキンッ!!

 抜き放たれたのは、超高圧スプリングと高周波ギアを内蔵した小型からくり短刀――コンバットナイフ『震牙しんが』。

 ギギギギギギギッ!

 超小型の刃内部で精密ギアが高速回転を開始し、一筋の蒼い摩擦火花が大気を散らす。

 『……ぬ! イチボ軍のデータにない新型からくり兵装か……』

 晴嵐がバイザーを歪ませ、警戒を強めた。

 全高二・五メートルの巨大な影の暗殺者に対し、その膝元にも届かぬ小さな鋼の騎士・震電。

 体格差は圧倒的。だが、操縦者不在のその小さな胸の中には、父親・銀太の溢れる職人魂と、愛する紬を守るための『マブイ』の脈動が、確かに滾っていた。

 キィィィィンッ!

 震電は地表を滑るような超高速ホバーで鋭く地を蹴った。

 小さな体躯を生かした目にも留まらぬ身のこなしで、晴嵐の死角へと躍り出る。

 「キシャァァァッ!」

 旋風のごとく閃くコンバットナイフ『震牙』の極小の刃。

 大好きな紬の寝顔を守るため――小さな守護神『震電』の、命を懸けた初陣の刃が月光を切り裂いた。

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