第2話「忍び寄る陰謀、静寂の殺意」
第2話「忍び寄る陰謀、静寂の殺意」
あの巨大浮遊母艦が爆炎となって消え去り、ひと月が過ぎた七月三十日の深夜。
紬の十五歳の誕生日を祝う暖かな灯りが消え、復興の途上にある敷島京が静まり返る頃。
街外れに位置する八洲陸軍・第三補給拠点の陰で、夜の空間そのものが水面のように不気味に揺らめいていた。
月明かりを冷たく吸い込み、闇そのものと同化するように佇む一筋の不穏な影。
カゲ星人が誇る隠密型パワードスーツ――コードネーム『晴嵐』である。
『――イチボ軍より最終受領した「特異点」および「からくり兵器ムラサメ」の解析データを照合中』
晴嵐のバイザーの内側で、紫色の不気味な内部モニターが明滅を繰り返す。
わし星雲から五百光年を隔てて結ばれた、異星間同盟。
前陣であるイチボ軍が残した敗戦データから、地球・八洲における「マブイ」の偏り、そして七月二日に母艦を内側から破滅に追い込んだ巨神『ムラサメ』の駆動波形が、カゲ星人の情報網へと完全に筒抜けになっていたのだ。
『対象個体「紬」の存在を確認。ならびに……未確認の新たなマブイ共鳴反応を検知……』
晴嵐の表面を覆う流体金属装甲が、まるで生き物のように不気味に蠕動した。
イチボ軍のような力任せの正面強襲とは根本から異なる。カゲ星人の戦術は、暗闇から標的の首元を音もなく刈り取る、冷酷無比な「忍び」の暗殺であった。
その時だった。
「おい……! そこの影、誰だッ!」
強力な探索ライトの光とともに、拠点を巡回していた八洲陸軍の歩兵が一回り大きな声を上げた。
あの七月二日の惨劇を経て、八洲軍の夜間警戒レベルは極限まで高められていた。兵士は小銃を即座に構え、影の中に佇む晴嵐へ向かって足音を忍ばせ歩み寄る。
「敷島京は現在、夜間特別警戒中だ。直ちに身分証を提示……」
そこまで言った、まさにその瞬間だった。
シュッ……。
風を切る羽音すら残さない、一瞬の漆黒の閃光。
晴嵐の右腕から鋭利に伸長した流体金属の「忍者刀」が、兵士の頸椎を一過性の強烈な冷気とともに深々と貫いていた!
「な……が……っ……」
兵士の目から一瞬で光が失われ、叫び声すら喉の奥で氷結して膝から崩れ落ちる。
構えられていた小銃が地面のアスファルトへ転がる音すら――晴嵐が周囲数メートルに展開した「局所音波吸収領域《消音フィールド》」によって虚しくかき消された。
晴嵐は足元に倒れた兵士の骸を一瞥することすらなく、血のついていない流体金属の刀身を自身の腕の中へと滑らかに吸収・格納した。一切の感情を含まない、完全なる殺意の技芸。
『害虫の排除完了。……ターゲット「紬」、ならびに新造からくり兵装の回収ミッションへ移行する』
晴嵐の巨躯が、揺らめく水光のように再び夜の濃密な影の中へと溶けて消えていった。
兵士の冷たくなった身体の傍らで、月光に照らされた血の海だけが、夜の静寂の中でただ黒々と広がっていたのだった――。




