第20話「帰還、そして蒼穹の彼方へ」
第20話「帰還、そして蒼穹の彼方へ」
幾重にも張り巡らされた異星軍の迎撃を回転実体大刀と積層盾で叩き潰し、銀太の『ムラサメ』はついに母艦最奥のエネルギー抽出室へと辿り着いた。
「紬ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
抽出カプセルを繋ぎ止めていた力場アタッチメントを、高速回転する大刀の一閃で叩き斬る!
カシューンと重厚に開放された気密壁の中から、銀太は愛娘の華奢な身体をその両腕で力強く抱き寄せた。
「お父さん……! お父さん……ッ!」
「よかった……無事だな……! 帰るぞ、俺たちの街へ!」
銀太は紬を背部ハーネスへ血が出るほど深く縛り直すと、ムラサメを可変飛翔モードへと移行。大統領たちが血路を切り拓いてくれたハッチの開放口を目指し、全開ブースターの逆噴射で母艦の胎内を爆進した!
ガガガガギィィィンッ!!
青き甲冑『ムラサメ』が、母艦の側面ハッチから蒼穹の大空へと躍り出た!
無事に娘を連れて脱出を果たした銀太の姿を、キャノピー越しに捉えた大統領は、有線通信機に向かって熱く叫んだ。
『よくやった、葉加瀬! 紬ちゃんを抱えたまま、そのまま離脱しろッ!』
だが――漆黒の母艦はなおも不気味に空中に留まり、敷島京へ向けて残存ポッドの全弾射出準備を進めていた。
八洲航空編隊の残存機は、すでに弾薬もミサイルも完全に使い果たしている。
『おい! 誰かミサイルを一発でも持っている者はいないのか!』
大統領の焦燥に満ちた怒号が空域に響き渡った。
誰もが絶望に唇を噛み締め、首を横に振ろうとした――まさに、その時だった。
『……大統領。ここに一発、残ってますよ』
編隊の最後尾、機体全体が傷だらけになった一機の旧式機から、掠れ切った老パイロットの声が届いた。
通信モニターに映し出されたのは、白髪の混じった目元に鋭い執念の火を宿した、八洲空軍のベテランパイロットの顔だった。
『……私はな、四十年前……まだ若い頃に「マブイ」が高いって理由だけで、奴ら異星の連中に空へ連れ去られたことがある……。キャトルミューティレーションだよ。全身の血とマブイを弄ばれ、大切な仲間を奪われた……』
老パイロットの皺だらけの指先が、操縦桿の赤い発射ボタンへと伸びる。
『奴らに奪われた俺の人生を、ここで回収させてもらう。……大統領、特攻の許可を』
『……! 頼む……八洲の空を、頼んだぞッ!!』
老パイロットの機体がアフターバーナーを限界まで焚き上げ、銀太たちが脱出してきた「ハッチが開いたままの母艦の開口部」目がけて一気に急降下を開始した!
「食らいやがれ、異星の野郎どもぉぉぉッ!!」
トリガーが叩き落とされた!
しかし――。
カチ、カチ……。
長年の経年劣化か、EMPの強い影響か。翼下に懸架された最後の一発のミサイルは、白い煙を吹くことすらなく、冷たく沈黙したまま反応しなかった。
「ハッ……最後まで不発かよ! だがなぁぁぁッ!!」
老パイロットは豪快に笑った。一切の迷いを捨て、機首をそのまま開いたハッチの奥深く――母艦のメイン動力炉へと直接向けた!
キャノピー越しに見える、異星人たちの驚愕と狼狽の顔。
老パイロットはフライトスーツの胸を力強く叩き、燃える敷島京の街並みを見下ろしながら、腹の底から叫んだ!
「帰ってきたぜぇぇぇぇぇーーーーーッ!!」
ドォォォォォォォォォォォン!!!!!!
老パイロットの機体は、ハッチの奥深くへと豪快に突き刺さり、母艦内部の弾薬庫とメインマブイ炉へ直接体当たりを果たした!
内部から爆発した炎の渦は、一瞬で直径二キロの巨大浮遊物体を内側から食い破った!
激しい極彩色の閃光と連鎖爆発! あの『マブイ変換砲』すら跳ね返した不可視の結界が内側から粉々に砕け散り、巨大な黒い影は大爆炎となって敷島京の空から跡形もなく消滅していった!
空から降り注ぐ、眩い光の雨。
雲が切れ、八洲の空にどこまでも澄み切った青空が広がっていく。
「……行ったか、じいさん……」
大空でホバリングする『ムラサメ』のコックピットで、銀太は深く煙草の煙を吐き出した。
背中では、紬が父親の背中に額を押し付け、静かに、安堵の嬉し涙を流している。
復興へ向けて歩み出す敷島京の上に、久しぶりの温かな太陽の光が優しく降り注いでいた。
第一部:異星侵略者編 ― 完 ―




