第19話「鋼の胎内、果てなき残響」
第19話「鋼の胎内、果てなき残響」
大統領たちの決死の陽動によって、一瞬だけ生じた結界の歪み《シーム》。
F-4無人機が次々と射出される母艦下部の巨大ハッチ目がけ、銀太の『ムラサメ』はカラクリ推進ギアを限界まで全開させ、一筋の青い条線となって滑り込んだ!
ガガガガギィィィンッ!!
すれ違いざまに向かってきた敵F-4の銀翼を機首の斬撃ブレードで真一文字に薙ぎ払いながら、青き甲冑は母艦内部の射出通路へと強行突入を果たした!
突入した瞬間、背後で重厚な結界が再び閉じられ、外の大空を覆っていた大爆音が瞬時に遮断される。異様な静寂と冷気が皮膚を刺した。
「入った……! 突入成功だッ!!」
銀太は操縦桿を力任せに引き抜き、ムラサメを一瞬で人型甲冑モードへと変形させた。
全高二・五メートルの青き鋼鉄の巨躯が、幾何学模様の刻まれた無機質な銀色の壁面に挟まれた母艦の狭隘な通路へ重音を立てて着地する。
『――侵入者確認。排除プロトコル、即時起動』
無機質な機械音声が通路に響いた直後、曲がり角の奥から地を鳴らす足音が迫ってきた。
立ち塞がったのは、全高二・五メートル、九百キロの重装甲を纏う異星軍パワードスーツの小隊!
彼らは狭い通路を埋め尽くすように、大口径重機関砲の砲口を一斉に銀太へ向けた。
「そこを……どきやがれぇぇぇッ!!」
ズババババババババッ!!
狭隘な金属通路の中で狂ったように弾け飛ぶ大口径弾の跳弾の嵐!
銀太は右腕の折りたたみ積層盾《からくり傘》を一気に全面展開! 猛烈な火花と腕骨を削るような重衝撃を鋼鉄板で受け止めながら、泥臭く前進する!
「回転実体大刀、抜刀ッ!!」
ギギギギ……ジャキン!!
背部から引き抜かれた大刀が歯車音とともに刃を伸ばし、高圧空気で超高速回転を開始する!
銀太は狭い壁面を力任せに蹴り上げ、空間を伝う跳躍で敵パワードスーツの頭上へと舞い上がった!
すれ違いざま、回転する鋼の刃が先頭の敵兵の首元を横一閃!
バイザーごと頭部ユニットを削り飛ばし、猛烈な火花と黒煙が通路を埋め尽くす!
「紬……今行く! 親父が今行くぞぉぉぉッ!!」
コックピットのマブイ計が激しく震える。銀太は単眼モニターに映し出された微弱な蒼い残光――紬の『特異点』のマブイ波形を血眼で追いかけながら、襲い来る迎撃部隊を破砕し、母艦の最奥へと突き進んでいった!
◇
一方――母艦の外、燃える敷島京の上空では。
『隊長! ミサイル、全弾使い果たしました!』
『機関砲も……もう残頭ゼロです……!』
空を覆う暗雲の下、大統領率いる八洲航空編隊の残存機からは、痛切な悲痛の報告が相次いでいた。
彼らは敵無人F-4編隊の猛攻を奇跡的な死線越えで凌ぎ、何十機と撃墜してきた。だが、その代償はあまりにも大きかった。実体弾ミサイルはすべて底をつき、残されたのは空の弾倉と、自機に刻まれた痛々しい無数の弾痕だけだった。
「……よく戦った。各機、見事だった」
一番機(F-15改)に乗る大統領は、煤と血に汚れたキャノピー越しに、眼前で不気味に佇む母艦と、なおも雲間から群がり出てくる敵F-4の増援を見つめた。
トリガーを引いても、虚しく乾いた金属音が響くだけだ。
「ミサイルも、鉛の弾丸も尽きた。……だが、我々にはまだ……この翼がある」
『大統領……!』
「あの青い甲冑の父親は今、愛する娘を救うために……たった一人で敵の腹の中で戦っている。我々が今ここで引けば、母艦は再び結界を閉じ、地上へ殺戮の雨を降らせるだろう」
大統領はフライトスーツの胸元に輝く八洲の国章を固く握り締め、操縦桿を迫り来る敵F-4の群れへとまっすぐに向け直した。その瞳には、一国の指導者としての、そして空を愛した一人のパイロットとしての、何物にも代えがたい高潔な覚悟が宿っていた。
「全機……自機を最後の弾丸とせよ! 葉加瀬技師が娘を抱えて脱出するその時まで……我々の手でこの空を死守するのだッ!!」
『――了解!! 八洲に……八洲に栄光あれぇぇぇッ!!』
弾薬を完全に使い果たした八洲の撃墜王たちが、アフターバーナーを限界まで焚き上げた!
迫り来る無人F-4の群れへ向け、自らの命と翼を賭した「最後の体当たり攻撃」を敢行すべく、八洲の翼は蒼穹の彼方へと駆け上がっていったのだった――。




