第17話「大統領の翼、天空の突入口」
第17話「大統領の翼、天空の突入口」
上空三千メートル。全高二・五メートルの青きからくり甲冑『ムラサメ』は、飛翔形態のまま漆黒の巨大浮遊物体の周域を音速で旋回していた。
「どこかにあるはずだ……完璧な結界なんてこの世に存在しない……!」
銀太は血走った眼光で、コックピット内のアナログモニターを睨みつけた。先ほどマブイ変換砲すら無慈悲に弾き返した絶対障壁。だが、技術者としての銀太の鋭い直感が確信を深めていた。
異星人が地上の捕虜や紬を母艦内へ収容し、あるいは地上へポッドを強行射出している以上――「ポッドが通過する一瞬だけ、結界の特定ノードを透過状態に切り替えている」はずなのだ。
その周期と透過タイミング《シーム》さえ弾き出せれば、結界の隙間を抉って母艦内部へと滑り込める!
その時だった。
敷島京の各地に残された緊急スピーカーや、ムラサメの壊れかけた広域通信レシーバーから、ノイズを切り裂いて一人の男の怒号のごとき声が轟いた。
『――八洲民主共和国のすべての国民、そして勇猛なる兵士たちへ告ぐ!』
銀太はハッとして通信装置へ意識を集中させた。
声の主は、八洲民主共和国の最高指導者――大統領であった。
『我が首都・敷島京は踏みにじられ、八洲の空は侵略者の影に覆われた。電子兵器は沈黙し、我々は絶望の淵に立たされている。……だが!』
崩壊した地下シェルターで身を寄せ合っていた避難民たちも、血と硝煙に塗れて銃を構えていた八洲軍の兵士たちも、一斉に息を呑んで空を見上げた。
『我々の魂まで屈したわけではない! 我々は資源を搾取されるための家畜でも、暗黒の星に差し出される生贄でもない! これより、我が国は全残存戦力を結集し、空の母艦に対する全面反撃を開始する!』
大統領の言葉には、政治家特有の虚飾など一切なかった。
彼は大統領の座に就く以前、かつて自衛隊で数々の修羅場を潜り抜けてきた、生粋の「トップパイロット」だったのだ。
『これより、私自らが一番機の操縦桿を握る! 翼を持つ者は続け! 我らの空を、我らの手で奪い返すのだッ!』
直後、敷島京郊外の地下耐圧ハンガーの巨大扉が、からくりギミックの重音とともに強引に開放された!
腹を打つエンジン音の連波とともに飛び出してきたのは、電子回路を徹底的に削ぎ落とし、アナログ制御と実体弾兵装に緊急改修されたかつての名機――F-15およびF-2の改修編隊!
先頭を行く一番機のコックピットには、フライトスーツを身に纏い、鋭い眼光で操縦桿を握る大統領本人の雄姿があった。
ドドドドドォォォォンッ!!
数十機におよぶ八洲の「最後の航空編隊」が、大統領機を筆頭に音速の衝撃波を上げて暗雲を突き破り、母艦へ向かって急上昇を開始した!
『そこの青き甲冑! 無線を聞いているな!』
大統領機から、ムラサメの銀太へ直接暗号有線通信が飛び込んできた!
「大統領……!」
『娘を奪われた技術者・葉加瀬銀太だな! 将校から報告は受けている! ひとりで母艦の結界を打破しようとしていたのだろう!』
「ああ! 敵のポッド収容時の『結界の歪み《シーム》』を狙う! だが、俺一機の火力じゃ敵の対空弾幕を破って突入口へ取り付くのは不可能だ!」
『ならば、我々が道を作る!』
大統領のF-15改が、大空で猛烈な急旋回を描いた。
『我ら八洲航空編隊が全火力をもって母艦の対空陣地を攻撃し、敵のポッド射出ノードへ集中砲火を浴びせる! 敵が結界を開放して反撃せざるを得ない「その一瞬」を叩き出してみせる! お前はその隙間に飛び込めッ!』
「本気ですか! 敵の対空砲火の真っ只中に飛び込んだら、あんたらが無事じゃ……!」
『国民一人、幼い少女一人救えずに……何が国家だ! 何が大統領だぁぁぁッ!!』
大統領の魂の叫びとともに、八洲編隊が一斉に実体ミサイルと超重機関砲の火網を叩きつけた!
『行くぞ、葉加瀬! 愛する娘を取り戻してこいッ!!』
「――感謝するッ!!」
大統領率いる八洲航空編隊の決死の特攻砲撃。
父娘のマブイを宿した青きからくり甲冑『ムラサメ』。
八洲の誇りと父親の執念がひとつになり、天を覆う巨大母艦への全面強行突入作戦が、今ここに始まった!




