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BANされた俺、なぜか運営の仕事を手伝わされる 〜ゲーム世界の裏側は、思ったよりお役所でした〜  作者: アルティス


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8/9

公式レスバ会場に、くまがいた(前編)


 口頭での説明の場は、思っていたより早く設定された。

 管理空間の奥に、細い光の通路が開いている。


【決定見直しレーン】

【審理担当:ユキ】

【口頭での説明の場:設定完了】


 第二広場の明るさとは違う、白くて乾いた光。

 その先に、静かな扉が浮かんでいた。

「……いよいよか」

「はい」

 隣に立つアイが頷く。

「言い返す前に、一度飲み込んでください」

「それ、昨日も聞いた」

「今日こそ必要です」

「俺、そんなに信用ない?」

「記録上、即時反応の傾向があります」

「記録が俺に厳しい」

「記録は平等です」

「絶対ちょっと俺に厳しい」

 俺は小さく息を吐いて、扉の中へ踏み込んだ。


 挿絵(By みてみん)


 部屋には、白い円卓が一つ。

 席は三つ。

 一つは俺。

 一つは、《黒煙の牙》ギルドマスターのグレン。

 最後の一つは、まだ空いている。

 壁には資料が並んでいた。


【第二広場・季節イベント枠募集文】

【星灯りサロン申請書】

【黒煙の牙申請書】

【不採用通知】

【見直し申立書】

【弁明書】

【反論書】


「うわ、全部並んでる」

「公式レスバ資料セットじゃん」

 向かいのグレンが笑った。

「お前もそう思うのかよ」

「思うだろ。こっちは文句出して、そっちは弁明書で返して、こっちが反論書で刺し返してるんだから」

「刺し返すな」

「じゃあ殴り返す?」

「もっと悪い」

 グレンは、俺をじっと見た。

「……へえ。今回は運営さん、ちゃんとキャラで来たんだ」

「いつも通知文だけですみませんね」

「お、運営さんも煽るじゃん」

「煽ってない」

「その黒い服、煽り耐性低そう」

「服で判断するな」

「じゃあ、黒服さん」

「やめろ」

「黒服さん」

「定着させるな」

 言い返してから、少し後悔した。

 もう普通に乗っている。

 アイに「一度飲み込んでください」と言われた直後なのに、開幕から飲み込めていない。

「まあいいや、黒服さん」

 グレンは椅子にもたれた。

「今日は聞きたいことがある。運営の頭の中ルールで落とされたんじゃないかって話だ」

「頭の中ルール」

「違うの?」

 軽い言い方だ。

 でも、目は笑っていなかった。

「やあ。待たせたね」

 背後から、ゆるい声がした。

 振り向くと、細い目をしたメガネの男が立っていた。

 キャソック風の衣装の上に灰色の外套。

 襟元と袖の裏には、黒が残って見えている。

 俺の黒とも、アイの白とも違う。

 それは現場と運営のあいだに、一歩距離を置いたような色だった。

「運営の人って、みんな教会の人みたいな格好なのか?」

 グレンが俺とその男を交互に見る。

「俺に聞くな。俺も気になってる」

「似てるじゃん」

「似てるけど、俺の方が黒い」

「そこ大事?」

「たぶん大事」

 灰色の男は、糸目のまま笑った。

「初対面で服装チェックとは、なかなか観察力あるやん」


 第一印象は、正直に言うと――。


「裏切りそう」

「初対面でなかなか失礼やね、君」

 男は笑ったまま、空いた席に腰を下ろした。

「ウチはユキ。今日の審理担当です」

「審理担当」

 グレンがすぐに反応する。

「つまり、ジャッジする人?」

「ちゃうね」

 ユキはあっさり答えた。

「最終的な結論を出す人ではありません。僕がやるのは、資料を見て、話を聞いて、“この件はこういう事実があって、こういう言い分が出ている”と整理することです」

 声の温度が少し変わった。

 さっきまでのゆるい調子から、急に標準語に寄る。

 それだけで、部屋の空気が少し締まった。


「ここで結論は出ないんですね」


 グレンも言い方を変えた。

 早い。

 こいつ、荒いのに、場の線を読むのは早い。

「出しません」

 ユキははっきり言った。

「今日の場は、意見を聞く場です。ここで落とし所を作る場ではありません。僕がこのあと聴取内容を整理し、必要な整理案を作ります。それを白卓会議へ回し、意見をもらいます」

「白卓会議が決めるのか?」

「決めません」

「レビュー役?」

「そんな感じやね。ただし、レビュー役を軽く見たらあかんよ。そこから戻されることもあるから」

 そのとき、ユキの肩で何かが動いた。

 小さなくまだった。

 丸い耳。

 黒いボタンみたいな目。

 ふわふわの手。

 どう見てもかわいい。

 そのくまが、無機質な声で言った。

「白卓会議接続、確認。最終裁定権限はありません」

「かわいい見た目で言うことが硬いな」

「くまです。白卓会議は、意見を返します。決める場所ではありません」

「今のは分かりやすい」

「くまです」

「そこは繰り返さなくていい」

 ユキはくすくす笑う。

「この子は記録補助です。発言録、資料、時系列、必要な確認を出してくれます」

「中立なの、それ」

 グレンがくまを見る。

「現在、審理担当補助として設定されています。特定当事者への助言は制限されています」

「設定って言い方が怖いんだけど」

「くまです」

「答えになってない」

 俺はくまをじっと見た。

「……なあ、そのくま、アイに似てないか?」

「くまはくまです」

「返し方がもう怪しいんだよ」

 ユキが、糸目のまま俺を見る。

「便利な補助ほど、どこまで任せてるか見といた方がええで」

「それ、どういう意味だよ」

「今日の本題やないから、また今度」

「絶対、本題より怖いやつじゃん」

「さあ、どうやろね」


   *


「さて」

 ユキは円卓の中央に資料を浮かべた。

「今日は、公式レスバ会場やと思って来た人もいるかもしれません」

「俺のことかな」

「君やね」

「名指しされた」

「でも、ここは勝った負けたを決める場所やない」

 ユキの声が少し低くなる。

「レスバになりそうなものを、争点に直す場所です」

「争点」

「どこで食い違っているのか。何を見ればええのか。どの理由が、あとから説明に耐えるのか。そこをほどく場所やね」

 くまがぴこん、と光る。

「補足します。感情的応酬を審理記録へそのまま投入することは推奨しません」

「くまが急に硬い」

「くまです。嫌なことは言いません。必要なことを言います」

「やっぱ嫌なこと言ってるだろ」

「必要です」

 グレンが少し笑った。

 空気がゆるんだところで、ユキは資料を開いた。


アイの補足メモ


彼には、扉に入る前に

「一度飲み込んでください」と注意しました。

ですが、かなり早い段階で飲み込めていませんでした。


今回は相手もだいぶ強めです。

グレンさんは、口は悪いですが、場の線を読むのは早い方でした。

ユキさんは、ゆるく見えて急に場を締めます。

くまは、かわいい見た目で硬いことを言います。


なお、くまはくまです。

それ以上の説明は、現在のところ保留されています。

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