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BANされた俺、なぜか運営の仕事を手伝わされる 〜ゲーム世界の裏側は、思ったよりお役所でした〜  作者: アルティス


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7/9

ちゃんとした文句の出し方なんて知らない


 黒煙の牙へ案内を送ってから、思ったより早く返信が来た。


【返信:黒煙の牙】

正式に見直し申立てをしたいです。

ギルドとしての申立てです。

代表はグレンです。

対象は、第二広場・季節イベント枠で、うちの企画が不採用になった件です。

見直してほしいです。

無理なら、せめて理由をちゃんと説明してほしいです。

募集の時点で、対戦イベントがどのくらい不利なのか分かりませんでした。

うちは観戦席静音仕様、爆発エモート禁止、歓声ログ分離、初心者向け解説まで入れました。

第二広場での過去イベント実績もあります。

中央広場で注意された件は反省しています。

でも、それが今回どのくらい響いたのか分かりません。

要するに、うちの改善点を見たのか。

実績を見たのか。

名前を見た時点で落としたのか。

そこをはっきりさせてほしいです。


「……荒い」

 俺は、浮かんだ文面を見ながら言った。

「はい」

 アイは淡々と頷いた。

「ただし、的は射ています」

「この文面で?」

「はい。形式としては、ぎりぎり見直し申立てとして扱えます」

「ぎりぎりなんだ」

「ぎりぎりです」

 たしかに、口調は荒い。

 というか、ほぼチャットだ。

 だが、何が不満なのかは分かる。

 選定結果を見直してほしい。

 無理なら理由を説明してほしい。

 募集基準が分かりにくかった。

 改善点を評価したのか知りたい。

 過去実績を見たのか知りたい。

 中央広場の過去注意がどう影響したのか知りたい。

「ちゃんとした文句の出し方って、難しいんだな」

「はい」

「でも、これ、俺が怒ってる側だったら、かなり書きそう」

「でしょうね」

「でしょうねって言うな」

 アイは、グレンの文面を整理した。


【形式確認】

申立人:ギルド《黒煙の牙》

代表者:グレン

対象決定:第二広場・季節イベント枠において、黒煙の牙の企画が不採用となった決定

求める対応:選定結果の見直し、または不採用理由の具体的説明

主な不満点:募集基準の明確性、改善点の評価、過去実績の評価、過去注意履歴の影響

口頭での説明希望:未回答


【形式評価】

必要事項はおおむね充足。

記載は口述的だが、申立ての趣旨および理由は読み取れる。

口頭での説明希望は、現時点では確認できない。


「口頭での説明希望、未回答になってるな」

「はい」

「ここで未回答でも受理できるのか?」

「できます。口頭で説明したいかどうかは、後の段階で改めて明らかになることもあります」

「じゃあ今は、とりあえず書面で進む?」

「はい。まずは申立てを受理し、原決定側から弁明書を提出します」

「いきなり会場送りじゃないのか」

「まだ会場は開きません」

「公式レスバ会場、待機中」

「記録上は、未実施です」

「冷たい」

 アイは、次の表示を開いた。


【見直し申立てを受理しますか?】

対象:第二広場・季節イベント枠の選定結果

申立人:ギルド《黒煙の牙》

代表者:グレン

形式確認:おおむね充足

口頭での説明希望:未回答


「……受理って、重いな」

「軽く扱うものではありません」

「だよな」

 俺は、少しだけ息を吐いてから、表示に触れた。


【受理】


 静かな音が鳴った。


【決定見直しレーンへ送付しました】


【原決定側へ弁明書の提出を求めます】


「これで、正式に乗ったわけか」

「はい」

「で、俺は?」

「あなたには、原決定側として弁明書の作成が求められます」

「弁明書」

「はい。今回の選定結果について、決めた側が、どういう理由でその決定をしたのかを説明する文書です」

「名前がもう強い」

「強いですが、必要です」


【弁明書提出要求】

・対象決定

・比較した候補

・募集文で重く見た点

・黒煙の牙の改善点、実績の評価

・中央広場での過去注意の扱い

・採用、不採用の理由

・代替相談レーンを案内した理由


「項目が多い」

「申立てが整ったので、こちらの説明も整える必要があります」

「ちゃんとした文句が来ると、ちゃんとした説明が必要になるわけね」

「はい」

「最悪だな」

「よいことです。面倒ですが」

 その言い方だけは、少しだけ好きだった。


   *


 俺は、入力用の光板に手を置いた。

 第二広場の設計意図。

 募集時点で書いていたこと。

 星灯りサロンと黒煙の牙の企画。

 黒煙の牙の改善点。

 過去の第二広場イベント実績。

 中央広場での過去注意を、どこまで見たのか。

 対戦イベント向きフィールドという代替案。

 それらを、できるだけごまかさずに書き込んでいく。


【弁明書草案・俺】

対象決定:

第二広場・季節イベント枠で、星灯りサロンを採用して、黒煙の牙を不採用にした件。

弁明:

黒煙の牙の企画は、ちゃんと改善されていました。

観戦席静音仕様、爆発エモート禁止、歓声ログ分離、初心者向け解説などは確認しました。

過去に第二広場でイベントをしていたことも確認しました。

中央広場で注意された件だけで落としたわけではありません。

ただ、今回の第二広場の季節枠は、初心者や親子、落ち着いた雰囲気の利用者向けのイベントを優先しました。

星灯りサロンの企画は、宝探し、かくれんぼ、クイズ、交流会で、第二広場の通常利用と相性がよかったです。

黒煙の牙の企画は、配慮はあるけど、中心がPvPトーナメントでした。

対戦イベントとしては悪くありません。

でも第二広場の季節枠としては、今回は星灯りサロンの方が合っていると判断しました。

対戦イベントを否定するつもりはないので、対戦向きフィールドを案内しました。


「……どうだ」

「かなり良いです」

「ほんとか?」

「はい。必要な要素は入っています」

「やった」

「ただし、弁明書としては整えます」

「知ってた」

 アイは、俺の草案に線を引いた。

「“ちゃんと改善されていました”は口語的です。“改善点が確認された”と書きます」

「改善されてただろ」

「はい。ですが、弁明書ですので」

「“悪くありません”は?」

「避けます。評価として曖昧です」

「“今回は星灯りサロンの方が合っている”は?」

「趣旨はよいですが、理由を分けます」

「分けるの多いな」

「弁明書ですので」

 アイが文面を整える。


【弁明書案・整形後】

対象決定:

第二広場・季節イベント枠において、ギルド《星灯りサロン》の「初心者・親子向けミニゲーム会」を採用し、ギルド《黒煙の牙》の「第二広場・地区PvPトーナメント(観戦席静音仕様)」を不採用とした決定。


弁明の趣旨:

本件選定結果は、第二広場の利用傾向、募集時に示した企画方向性、各申請内容、演出の強さ、通常利用への影響、過去の実績および改善状況等を総合して判断したものであり、特定ギルド名または過去注意履歴のみを理由として不採用としたものではありません。


弁明の理由:

一 第二広場は、中央広場と異なり、初心者、親子プレイヤー、落ち着いた雰囲気を好む利用者の利用が多い広場です。本件季節イベント枠では、広場全体の通常利用と両立しやすく、幅広い利用者が参加しやすい企画との相性を重く見ました。

二 ギルド《星灯りサロン》の企画は、初心者・親子向けのミニゲーム、宝探し、かくれんぼ、クイズ大会、交流会を中心とするものであり、強い光や爆音を避ける内容でした。そのため、第二広場の通常利用との相性が高いと判断しました。

三 ギルド《黒煙の牙》の企画については、観戦席の静音仕様、爆発エモートの不使用、歓声ログの分離、初心者向け解説、モデレーター配置など、第二広場の利用者に配慮した改善点を確認しました。また、過去に第二広場で小規模イベントを実施していたことも確認しています。

四 もっとも、同企画はPvPトーナメントを中心とするものであり、試合中のスキル演出、勝敗による盛り上がり、観戦者の集中等により、広場全体の雰囲気および通常利用に影響する可能性があると判断しました。

五 中央広場での過去注意履歴は確認しましたが、それのみを理由として不採用としたものではありません。本件申請において過去注意を踏まえた改善点が示されていたことは、評価対象としています。

六 以上を踏まえ、本件季節イベント枠については、第二広場の通常利用により近い形で参加できる企画を優先し、ギルド《星灯りサロン》の企画を採用しました。

七 なお、ギルド《黒煙の牙》の対戦イベント企画自体を否定するものではなく、対戦向きフィールドでの開催相談を案内しています。


「……俺の草案、だいぶ出世したな」

「はい。弁明書になりました」

「弁明書って、名前の圧がすごいのに中身は地味だな」

「地味でよいのです」

「派手な弁明書は嫌だもんな」

「かなり嫌です」

 こちらの言い分は、ちゃんと入っている。

 黒煙の牙の改善点も見た。

 過去実績も見た。

 中央広場の過去注意だけで落としたわけではない。

 それでも、第二広場の季節枠としては、星灯りサロンを選んだ。

 ただ、そう書いたからといって、グレンが納得するかは別だ。

「これで向こうに送るのか」

「はい。弁明書は、申立人側にも送付されます」

「こっちの言い分を、相手に見せるわけね」

「はい」

「で、相手がまた言い返す」

「反論書を提出できます」

「もう完全にレスバじゃん」

「書面上の主張整理です」

「言い換えが強い」

「大事ですので」

 俺は、弁明書の送付表示に触れた。


【弁明書を送付しますか?】

【はい/いいえ】


「……送付」

【送付完了】

【申立人へ弁明書の写しを送付しました】

【反論書の提出期間を設定しました】

「期間まで出るのか」

「はい。いつまでも書面の応酬を続けるわけにはいきません」

「制限時間つきレスバ」

「書面提出期間です」

「冷たい」

「正確です」


 挿絵(By みてみん)


 翌日。

 反論書は、予想より早く届いた。


【反論書:黒煙の牙】

弁明書、読みました。

改善点を見たと書かれているのは分かりました。

でも、こっちが聞きたいのは、「見た」だけではなく、「どのくらい効いたのか」です。


観戦席静音仕様。

爆発エモート禁止。

歓声ログ分離。

初心者向け解説。

モデレーター配置。


これだけ削っても、結局「PvPだから第二広場には合わない」に近い扱いなら、最初からそう書いてほしかったです。

それと、第二広場の通常利用への影響って言いますが、星灯りサロンのイベントだって広場の中央を使います。

人も集まります。

通常利用に影響はあります。

なのに、うちは「盛り上がるから影響あり」で、星灯りサロンは「交流だから影響少なめ」と見られるのは、少し都合よくないですか。

対戦イベントは、うるさいだけじゃありません。

勝った負けたで終わるものでもありません。

地区ごとに人が集まって、初めて見る人がルールを知って、最後に握手する。

それも交流です。

殴り合ったあとに握手するのも交流です。

この点、弁明書では軽く流されているように見えます。

あと、中央広場での注意を「それだけで落としたわけではない」と書いてありますが、じゃあ何点くらい響いたんですか。

響いたなら響いたで、そこを分けて書いてほしいです。

「それだけじゃない」は便利です。

便利だけど、こっちから見ると、どれくらい見られたのか分かりません。

最後に、対戦向きフィールドを案内してくれたことは分かります。

でも、今回ほしかったのは「第二広場でやれるかどうか」の判断です。

対戦向きフィールドへ行けるから不採用でいい、という話ではないと思っています。

このまま文章だけで返すと、また長くなるし、たぶん伝わりません。

口頭での説明を希望します。


「……長い」

 俺は、反論書を見上げて言った。

「はい」

「これ、文章なのか?」

「書面です」

「ほぼ喋ってない?」

「かなり口述的です」

「でも、的は射てる」

「はい」

 アイは、反論書を区分して表示した。


【反論書から読み取れる主な反論】

・改善点を「確認した」だけでなく、評価上どの程度重く見たのかが不明

・PvPであること自体が実質的に不利に扱われたのではないか

・星灯りサロン案も通常利用に影響するのに、影響評価の差が十分説明されていない

・対戦イベントにも交流性がある点が軽く扱われている

・過去注意履歴がどの程度影響したかが不明

・対戦向きフィールドの案内は、第二広場での適合性判断の説明にはならない

・口頭での説明を希望している


「……これ、普通に痛いところ突かれてない?」

「はい」

「はいって言うな」

「争点が明確になってきました」

「痛いところを突かれることを、そんな事務的に言うな」

「事務ですので」

「そこは否定してほしかった」

 確かに、グレンの文章は荒い。

 でも、ただ荒いだけではない。

 むしろ、荒さの中に、ちゃんと引っかかるところがある。

 改善点を見たなら、どのくらい評価したのか。

 対戦イベントの交流性をどう扱ったのか。

 通常利用への影響は、星灯りサロンにもあるのではないか。

 過去注意は、結局どれくらい響いたのか。

 対戦向きフィールドを案内したからといって、今回の第二広場不採用の説明になるのか。

「書面だけだと、たぶん延々とかみ合わないな」

「はい」

 アイは、反論書の末尾を指した。


【口頭での説明希望:あり】

口頭での説明を希望します。


「ここで初めて、口で言いたいって出たわけか」

「はい。反論書の内容から見ても、口頭で意見を述べる機会を設けるのが妥当です」

「希望されたら開くのか?」

「原則として、口頭で説明する機会を設ける方向で処理します」

「つまり、公式レスバ会場」

「口頭意見陳述です」

「公式レスバ会場」

「口頭意見陳述です」

「名前だけでも柔らかくしようぜ」

「柔らかくした結果が問題になることもあります」

「じゃあ、表示名だけ」

「それなら可能です」

「可能なのかよ」

 その瞬間、管理空間の奥で、細い光の通路が開いた。


【審理担当割当】

担当:ユキ


【口頭意見陳述の実施準備を開始します】

対象:

第二広場・季節イベント枠の選定結果に関する見直し申立て

申立人:

ギルド《黒煙の牙》代表 グレン

原決定側:

第二広場・季節イベント枠選定担当

提出済み書面:

・見直し申立書

・弁明書

・反論書

口頭での説明希望:

あり


「……ユキ」

 俺は、表示された名前を見た。

「はい。決定見直しレーンの審理担当です」

「この人、何する人?」

「申立人の主張、原決定側の弁明、反論書、関係ログを整理し、必要な審理を進行します」

「つまり?」

「書面ではかみ合わない部分を、争点と資料に分ける人です」

「嫌な役目だな」

「重要な役目です」

 扉の向こうで、何かが一瞬だけ光った。

 白い、小さな影。

 熊のぬいぐるみのようにも見えた。

「今、なんかいた?」

「気のせいです」

「即答が怪しいんだよ」

「記録上は、気のせいです」

「それ一番信用できない言い方だからな」

 アイは何も答えなかった。

 たぶん、答えないことも記録された。


   *


 口頭意見陳述の準備通知が届いたあと、俺は提出済みの書面一覧を見上げた。


【提出済み書面】

・見直し申立書

・弁明書

・反論書


 黒煙の牙の申立書は、荒い。

 うちの弁明書は、硬い。

 黒煙の牙の反論書は、また荒い。

 だけど、三つ並べると、何がぐちゃぐちゃになっているのかが見えてくる。

 第二広場の空気を守りたい。

 対戦イベントも交流だと言いたい。

 改善点を評価したと言いたい。

 でも、評価したならどのくらいなのか知りたい。

 過去注意だけで落としたわけではないと言いたい。

 でも、それならどのくらい影響したのか知りたい。

 対戦向きフィールドを案内したと言いたい。

 でも、今回の第二広場で不採用にした理由そのものを説明してほしい。

 お互い、言っていることが完全にズレているわけではない。

 むしろ、近いところを殴り合っている。

 だからこそ、ややこしい。


【口頭意見陳述・準備中】

審理室名:

公式レスバ会場


「システムも乗るな!」

「表示名です」

「正式名称は?」

「口頭意見陳述室です」

「絶対そっちで出せ」

「表示名のほうが申立人に伝わりやすい可能性があります」

「伝わりすぎるんだよ」

 俺は額を押さえた。

 きれいな手続の名前が並んでいるのに、実態はだいぶ熱い。

 たぶん次は、書面ではなく、直接言葉が飛んでくる。

 そして俺は、その場でまた余計なことを言いそうになるのだろう。

「なあ、アイ」

「はい」

「俺、口でやるとたぶん負ける」

「勝敗を決める場ではありません」

「負ける予感はある」

「言い返す前に、一度飲み込んでください」

「それができたら苦労しない」

「では、できるだけ飲み込んでください」

「努力目標に下がった」

「現実的な目標設定です」

 黒煙の牙の申立て。

 弁明書。

 反論書。

 口頭での説明希望。

 それらが束になって、静かな扉の向こうへ消えていく。

 次は、ユキが来る。

 そして、たぶん。

 俺はその人にも、結構痛いところを突かれることになる気がした。



アイの補足メモ

文句は、ちゃんとしてなくても届くことがあります

見直し申立ては、最初から美しい文章でなくても構いません。


「誰が」

「何に」

「なぜ納得していないか」


この三つが分かれば、手続に乗ることがあります。

グレンさんの文章は、正直かなり荒いです。

ほぼチャットです。

でも、争点は鋭いです。

つまり、口は悪いが、質問はうまい。

かなり面倒なタイプです。


一方、決めた側も「ちゃんと考えました」だけでは足りません。

どこを見て、何を重く見たのか。

それを説明するのが弁明書です。

そして相手が、

「いや、そこじゃないです」

と返すのが反論書です。

ここまで来ると、ただの文句ではなく、争点整理になります。

なお、口頭意見陳述は、公式レスバ会場ではありません。


ありません。


……表示名としては、少し分かりやすいですが。

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