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BANされた俺、なぜか運営の仕事を手伝わされる 〜ゲーム世界の裏側は、思ったよりお役所でした〜  作者: アルティス


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6/9

第二広場の季節枠と、ちょっと納得いかない黒煙の牙 (後編)

※前話を前後編に分割した関係で、一部タイトルと区切りを調整しています。

本文の大きな内容変更はありません。


 数日後。

 第二広場では、星灯りサロン主催の季節イベントが開かれていた。

 噴水の周りには、星形の小さな灯りが浮かんでいる。

 強い光ではない。

 目に刺さらない、やわらかい光だ。

 露店エリアには、「だれでもお気軽に」「親子参加OK」「今夜の星空観察会」という小さな表示が並ぶ。

 広場の隅では、宝探しのヒントを読んでいる初心者たちがいた。

 かくれんぼの参加者が、噴水の裏で笑っている。

 簡単なクイズに、子どもらしい小さなアバターが勢いよく手を上げている。

 管理空間の俯瞰表示の片隅に、見覚えのある二人組が映った。

 以前、中央広場の件で意見を送ってきた親子プレイヤーらしき姿だった。

 父親らしいアバターが、エプロンをつけた女性と話す娘を少し離れた場所から見守っている。

 娘のアバターは、女性と別れ際に貰った星形の灯りを父親に見せていた。


【周辺ログ】

「おねえちゃんにもらったの」

【周辺ログ】

「よかったね。今日はここでゆっくりしよう」


挿絵(By みてみん)


 俺は、密かに息を吐いた。

「……悪くないな」

「はい」

 アイが、イベントの利用ログを保存する。

「少なくとも、“今回の決定の結果”としては、狙いどおりだと思います」

「結果だけ見れば、な」

「はい。結果だけ見れば、です」

「嫌な含み方するな」

「決定は、結果だけで評価されるものではありませんので」

「分かってるよ」

 分かっている。

 分かっているからこそ、少しだけ胃が重い。

 星灯りサロンのイベントはうまくいっている。

 第二広場の空気にも合っている。

 親子連れも楽しそうだ。

 初心者も参加しやすそうだ。

 だから、この決定は間違っていなかった。

 そう言いたくなる。

 だが、間違っていなかったことと、相手にきちんと説明できることは、たぶん別だ。

 その予感は、すぐに現実になった。

 管理空間の端で、新しい通知が点灯した。



【新着:ご意見・ご要望】

差出人:《黒煙の牙》ギルドマスター グレン

「……来たか」

 俺は通知を開いた。

【ご意見・ご要望】

運営さんへ。

第二広場の季節枠、うち落ちたんですね。

通知は読みました。対戦向きフィールドの案内も、まあ分かります。

でも、正直まだ飲めません。

募集には「初心者や親子が多い」「強い演出は控えめに」って書いてましたよね。

だから、こっちは観戦席を静かにして、爆発エモートも禁止して、歓声ログも分けました。

初心者向け解説も入れました。

そこまでやっても「第二広場の通常利用と相性が違う」で終わるなら、どこまでやればよかったんですか。

対戦イベントは交流じゃないんですか。

殴り合ったあとに握手するのは交流じゃないんですか。

うちは第二広場でも小規模イベントを何回かやってます。

中央広場で注意された件は、そこは反省しています。

だから今回は削れるところは削りました。

それでも、結局「黒煙の牙だからうるさそう」で落とされたように見えます。

改善点は見たんですか。

実績は見たんですか。

それとも名前を見た時点で、もうマイナススタートでしたか。

納得しろと言われても、これはきついです。



 文章の末尾には、グレンの名前が添えられている。

 荒い。

 かなり荒い。

 でも、ただ怒鳴っているだけではない。

 何に引っかかっているのかは、かなりはっきりしている。

「……これは、ちょっと読まないとダメなやつだな」

「はい」

 アイは、特に驚いた様子もなく頷いた。

「こういったご意見が出る可能性は、最初から想定していました」

「想定してたなら、もうちょっと俺に事前警告してくれてもよくない?」

「しました。“そんな話は聞いていない”と言われます、と」

「あれ警告だったのかよ」

「はい」

「分かりづらいわ」

「記録には残っています」

「そういうところだぞ」

 俺は、グレンの文面をもう一度読み返した。

 募集告知には、第二広場の性格を書いた。

 激しい演出は控えめに、とも書いた。

 でも、対戦イベントをどの程度不利に見るかまでは、はっきり書いていなかった。

 黒煙の牙の実績をどう見たかも、通知では十分に説明していない。

 中央広場での過去注意を、どこまで影響させたのか。

 改善点をどれくらい評価したのか。

 そこも曖昧だ。

「正直、気持ちは分かる」

 俺は、空中の文面を見つめたまま言った。

「こっちとしても、全部に完璧に答えられるわけじゃない。でも、“説明しないまま”にはしておきたくない」

「では、まず案内を返しましょう」

「見直しルートに送るんじゃないのか?」

「まだです」

「まだ?」

「はい。これは、現時点では“ご意見”です」

「でも、めちゃくちゃ不満言ってるぞ」

「不満は書かれています。ですが、正式に“選定結果の見直しを求める”という意思表示と、必要な項目がまだ足りません」

「つまり、文句としては分かるけど、手続としてはまだ乗ってない?」

「そうです」

 アイは、黒煙の牙からの文面を三つに分けて表示した。


【読み取れる内容】

・第二広場季節枠の選定結果に不満がある

・不採用理由の具体性に疑問がある

・過去の実績や改善点の評価を知りたい

・過去注意履歴が不利に扱われたのではないかという疑いがある

・対戦系イベントが第二広場でどの程度扱われるのかを知りたい


【不足している内容】

・正式な見直し申立てとして扱ってよいか

・ギルドとしての申し出か、個人の意見か

・申立人となる代表者

・求める対応

・口頭説明を希望するか


「面倒くさ……」

「面倒ですが、大事です。ここを曖昧にしたまま進めると、あとで“そこを争いたかったわけではない”と言われます」

「あー……それは嫌だな」

「ですので、まずは案内を出します」

「案内?」

「はい。正式な見直し申立てとして扱うために必要な項目を伝えます」

「敵の文句の書き方を整えるところからやる運営って、甘くない?」

「整った申立てがなければ、整った見直しもできません」

 返しが早い。

「それに、これは相手を助けるだけではありません。こちらが何を扱うべきかを確定するためでもあります」

「……なるほどな」

 俺は返信案を作ろうとして、少し迷った。

「今回、俺が先に書く?」

「お願いします」

「だと思った」

 俺はグレンへの案内文を打った。


【案内文案・俺】

グレンへ。

意見は読みました。

不満があるのは分かります。

ただ、今の文面だけだと、正式な見直し申立てとして扱っていいのか、詳しい説明がほしいだけなのかが分かりません。

見直しを求めるなら、ギルドとして申し出るのか、代表者は誰か、何をどうしてほしいのかをフォームで出してください。

口で言いたいなら、口頭説明希望にもチェックしてください。


「どうだ」

「かなり良いです」

「お」

「ただし、出だしが少し近すぎます」

「近すぎる?」

「“不満があるのは分かります”は悪くありませんが、運営返信としては少し友人寄りです」

「まだ会ったことないしな」

 アイは文を整えた。


【案内文案・整形後】

ギルド《黒煙の牙》代表者様

第二広場・季節イベント枠の選定結果に関するご意見を確認しました。

いただいた内容からは、選定結果および不採用理由についてご不満があるものと受け止めています。

本件について、不採用理由や評価内容の説明を求める趣旨であれば、通常の回答レーンにおいて整理します。

一方で、今回の選定結果そのものについて見直しを求める趣旨である場合は、正式な見直し申立てとして取り扱う必要があります。

見直し申立てを希望する場合は、専用フォームから、以下の点を明らかにしてください。


・ギルドとしての申立てか、個人としての意見か

・申立人となる代表者

・対象となる決定

・希望する対応

・主張の根拠となるログ、資料、企画書等の有無


また、申立て内容について口頭で説明したい場合は、フォーム内の「口頭説明を希望する」を選択してください。


「運営の文書になると、一気に体温が下がるな」

「必要な冷却です」

「グレンが読んだら余計キレない?」

「キレる可能性はあります」

「あるのかよ」

「ただ、必要事項は伝わります」

「なら送るしかないか」

「はい。これは、審理を開く通知ではありません。正式な申立てをするための案内です」

「そこを間違えると?」

「手続が壊れます」

「急に怖い」

「大事ですので」

 俺は整形後の案内文を送った。

 その直後、ふと自分のことを思い出した。

「……なあ、アイ」

「はい」

「俺の見直し申立てって、どうなった?」

「進行中です」

「俺のは、今のと同じやつなのか?」

「別案件ですが、同じ種類の見直し手続です。あなたの場合は、最初から専用フォームで申立てが出ていますので、内容確認を経て別レーンで確認されているはずです」

「“はず”って何だよ」

「そのレーンの中身を、こちらから直接見る立場ではありませんので」

「急に怖いな」

「別レーンですから」

 少しだけ、腹に落ちた。

 黒煙の牙は、選定結果に文句を言っている。

 俺は、アカウント一時停止に文句を言っている。

 対象は違う。

 立場も違う。

 でも、どちらも結局は同じだ。

 何を見て、どう決めたのか。

 こっちの言い分は、ちゃんと見たのか。

 その理由を、説明できるのか。

「……俺もそのうち、誰かに読まれるわけか」

「はい」

「怒りに任せて書かなくてよかったな」

「関連ログを確認してから書いた効果が出ましたね」

「そこはちょっと感謝してる」

「記録しておきます」

「それはしなくていい」

 アイは何も言わなかった。

 たぶん、記録した。

 第二広場では、星灯りサロンのイベントが続いている。

 表では、やわらかな灯りが揺れている。

 裏では、黒煙の牙の不満が、正式な見直しになるかどうかの入口に立っていた。

 たぶん、ここから先は。

 ただイベントを選ぶより、ずっと面倒な話になる。


【補助者学習ログ】

趣旨把握:可

対象処理の切り分け:良

文面作成:要補助

不採用理由の提示:要改善

見直し申立てへの案内:一部理解

「不採用理由の提示、要改善か」

「はい。今回の通知は、最低限の理由は示していますが、後から争点になり得る部分が残っています」

「それを先に言えよ」

「言いました。“そんな話は聞いていない”と言われます、と」

「あれで全部済ませるな」

「今後の改善点ですね」

「俺の?」

「はい」

「ひどい」

 俺は、閉じかけたログをもう一度見た。

 星灯りの広場は、たしかに綺麗だった。

 だが、その裏で、黒い煙の牙がまだ少しだけ燻っている。

 次に開くのは、たぶん、ただのご意見欄ではない。




アイの補講メモ:

選ぶことと、説明することは別です


今回のテーマは、選定理由の説明です。

黒煙の牙の企画には、改善点がありました。

観戦席の静音化。

爆発エモートの禁止。

初心者向け解説。


募集条件を読んで、合わせようとしていたことも確認しています。

それでも今回は、第二広場の利用イメージとの相性を重く見て、別の企画を採用しました。

大事なのは、ここで終わりではないことです。

「こちらが納得していること」と、「相手が理由を理解できること」は別です。


決定そのものが正しくても、理由の説明が足りなければ、不満や疑問は残ります。

だから運営は、選ぶだけではなく、


なぜそう選んだのかを説明できる形で残しておく必要があります。


今回のポイントは、


決定の良し悪しだけでなく、決定までの理由も見られる。


ということです。

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