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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第3章 閾の境界― The Boundary of the Gate ― 第1部 声加ふ

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帰責分界 ―Drawing the Line―


アルティスです。


相変わらず法律色が強いので、今回も先にガイドラインを置いておきます。


今回レクスは話しているのは


「遅れの原因を、運営の問題と、シオンの問題に分けておきましょう」


という話を、途中で一度確定させています。


迂回路が本当に使えるか確認していなかったこと。

予報が出た後に、運営が規制や封鎖、段階的な再開を行ったこと。

これらは運営側の問題なので、シオンの予報ミスには含めません。


一方で、予報そのものは正しかったのか。

注意書きは十分だったのか。

青車輪は、その情報をどう使ったのか。


そこはまだ決まりません。


そこは別の話になります。


(後書きは現実の裁判手続との答え合わせです。長いので、気になる方だけどうぞ。読み飛ばし推奨です。)

 黒い卓の上に、すべての札が置かれていた。

 


 青。

 青白。

 白。

 黒。

 

 一本の線も隠れていない。

 もう、新しく出すものはなかった。

 

 レクスは、黒い卓の中央へ指先を置いたまま、動かなかった。

 

 赤い瞳だけが、盤面をたどっている。

 

 青車輪の代表も。

 

 シオンも。

 グレンも、シグレも。

 俺も、アイも。

 

 誰も声を出さなかった。

 

 残されたのは、読むことだけだった。

 やがて、レクスが指を上げる。

 

 黒環書庫の空気が沈んだ。


「本件のうち、運営処理後に生じた変化と、搬入遅延への接続について、中間判決をする」


 黒い卓の中央に、赤い線が走った。

 

 シオンが予測した時点。

 

 その後に行われた運営処理。

 

 二つの時間が、盤面の上で分けられる。


挿絵(By みてみん)


【中間判決】

一 代替導線は表示され、実際に利用可能な経路も存在した。ただし、通常搬入者について、受入可能量、搬入形態ごとの利用可否及び迂回後の待機時間は十分に確認されておらず、その実効性は限定的であった。

二 前項の確認不足は、運営処理上の不足として扱い、《蒼白の観測者》が提供した予測の精度評価には含めない。

三 通常搬入が優先対象外となった後の待機は、運営処理後に生じた事情と認める。

四 行先制限後に周辺区画及び代替導線上で生じた混雑は、運営処理によって変更された人流によるものと認める。

五 第漆転送門一時封鎖中の通常搬入停止は、運営処理後に生じた事情と認める。

六 段階的再開後の処理能力制限は、運営処理後に生じた事情と認める。

七 第三項から第六項までの事情は、《蒼白の観測者》が情報を提供した時点における予測精度の評価から除外する。

八 青車輪の経路選択については、運営処理によって生じた条件と、青車輪自身の判断とを分けて審理する。

九 情報提供時点における予測精度、注意表示、青車輪による情報利用及び損害の範囲については、本訴において引き続き審理する。




 九つの文が、黒い卓へ固定された。


 誰も動かなかった。


「理由」


 レクスが続ける。

 最初に光ったのは、代替導線の札だった。




【代替導線】

北門

西門

港湾門

一般参加者:西門・港湾門

商人搬入:西門側搬入口




「まず、代替導線」


 その隣で、黒い札が光る。




【確認記録なし】

代替導線ごとの受入可能量

搬入形態ごとの利用可否

迂回後の待機時間




「道はあった」


 レクスが言う。


「実際に移動した者もいる」


 白い線が、三つの門へ伸びる。


「ただし、通常搬入者が、その時点で実際に利用できる道だったかは、十分に確認されていない」



 荷車を伴う輸送隊が通れるのか。

 何台まで受け入れられるのか。

 迂回した後、どれだけ待つのか。

 そこまでは分かっていなかった。



「代替導線の表示は有効」


 白い札が固定される。


「実効性は限定的」


 黒い札が、その隣へ残った。


 二つは重ならなかった。



 道を出したこと。

 その道を使えるか、十分に確かめていなかったこと。



 どちらも消えない。


「これは運営側の不足」


 レクスの指が、黒い札へ触れる。


「蒼白の予測責任には含めない」


 赤い線が、代替導線の確認不足と、シオンの予測を切り分けた。


「次に、予測後に生じた変化」




【予測時点】

公開混雑情報

当時の導線

過去流量

定点観測ログ




「蒼白の観測者が予測したのは、この時点の人流」


 青白い線が、四つの記録へつながる。


「その後、運営が流れを変えた」



 入口流入制限。

 優先導線設定。

 行先制限。

 第漆転送門一時封鎖。

 段階的再開。



 すでに開かれていた札が、一度だけ光る。


「入口、優先対象、行先、門の利用条件が変更された」


 レクスの指が、予測時点と運営処理の間を横切る。


「これは、予測された流れが、そのまま増えた結果ではない」


 赤い線が引かれた。


「運営処理後に生じた変化」


 シオンは、中央を見つめたまま動かない。

 青車輪の代表も、口を挟まなかった。


「通常搬入は、情報提供時点では第漆転送門を利用できた」


 レクスが言う。


「その後、優先対象から外れた」


 優先導線の札が光る。


「対象外となった後の待機は、当初予測の誤差ではない」


 青白い線が一本、切り離された。


 行先制限後の周辺混雑。

 一時封鎖中の停止。

 段階的再開後の処理能力制限。


 残る三本も、順に青白い札から離れていく。


「いずれも、運営処理後に生じた事情」


 レクスの指が、中間判決の第七項へ触れた。


「蒼白の観測者が提供した予測の精度評価には含めない」


 札は遅延の記録からは離れなかった。


 遅れた原因ではある。


 ただし、シオンの予測が外れた結果としては扱わない。


 同じ遅延の中から、帰属先だけが分けられた。




 シオンが、わずかに息を吐いた。




 勝ったわけではない。


 自分たちの札ではないものが、切り離されただけだった。


 青車輪の代表は、中央を見たまま動かなかった。




 シオンへ求められる範囲は狭くなった。

 それでも、異議は述べない。




 求めていたのは、遅延のすべてを誰かへ押しつけることではない。



――――依頼者へ説明できる線だった。




 レクスの視線が、青車輪の札へ移る。




【青車輪側・経路変更】

第漆転送門前から離脱

西門側搬入口へ移動

西門側経路を継続




「西門側へ向かう前提を作ったのは、運営表示と運営処理」


 白い線が伸びる。


「その中で、西門側へ移動すると決めたのは青車輪」


 青い線が伸びる。


「段階的再開後も戻らないと決めたのも青車輪」


 もう一本。


「条件を作った者と、その条件の中で選んだ者は同じではない」


 レクスは言った。


「分けて判断する」


 青車輪の代表が、小さく頭を下げた。


「承知しました」


 その声は低く、静かだった。


 青車輪自身の判断は消えなかった。


 運営処理の影響も消えなかった。


 二つの札は重ならず、隣り合って残った。


 レクスの視線が、蒼白の公開予測へ移る。




【運営側確認】

《蒼白の観測者》公開予測:閲覧済み

運営処理の直接又は主要な判断根拠:該当なし



「公開予測は、運営画面で閲覧されていた」


 白い札が光る。


「しかし、運営処理の直接又は主要な判断根拠ではない」


 青白い札と運営処理の間には、線が引かれなかった。


「運営処理は、実測負荷、現場通信、退避導線、座標競合及び内部処理記録を主要な根拠として実施された」


 蒼白の公開予測。

 青車輪へ提供された情報。

 運営が処理を決めた記録。


 三つの札が、別々の位置へ固定された。


「したがって、運営処理によって変更された人流を、蒼白の予測から連続して生じた結果としては扱わない」


 同じ門を見ていた。


 同じ遅延へつながっていた。


 それでも、同じ札ではなかった。



「ただし」



 レクスの指が、青車輪とシオンの間へ戻る。

 そこには、まだ札が残っていた。




【《蒼白の観測者》提供情報】

混雑増加傾向

各門の利用状況

搬入可能時間帯予測

注意表示あり



【青車輪側主張】

提供情報の精度

注意表示の十分性

搬入計画への利用を想定した情報提供上の責任




「情報提供時点における予測のずれ。その把握可能性。注意表示の十分性。そして、青車輪が情報をどう使ったか」


 青と青白の線が、再びつながった。


「これは残る」


 運営処理後の札は、そこへ戻らない。


「本訴では、運営処理前の予測精度と、情報提供の内容を審理する」


 青車輪の代表が姿勢を正した。

 シオンも、小さくうなずく。


「異議は?」


「ありません」


 シオンが答えた。


「青車輪」


「ありません」


 レクスが、黒い卓へ指先を落とす。

 乾いた音がした。


「中間判決は以上」


 蒼白の予測責任から外された札が、赤い線の向こうへ固定された。




 遅延との接続は残る。

 その境界が決まった。


 黒環書庫に、少しだけ空気が戻った。


「終わったのか」


 俺は聞いた。


「中間判決は」


「その言い方、嫌だな」


「本件は続く」


「青車輪と蒼白の観測者で?」


「そう」


「俺たちは?」


「当面終了」


「当面?」


「必要なら呼ぶ」


「やっぱり終わってないじゃないか」


「運営処理についての確認は終わった」


 レクスは、赤い線の内側を見る。


「予測後に生じた変化は、蒼白の予測責任から外した」


「俺たちの処理が原因だった部分は、俺たちの側に残った?」


「原因ではある」


「責任は?」


「この訴訟では決めない」


「ややこしいな」


「分けた」


「分けたら、余計にややこしく見えるんだけど」


「見えるようになった」


 俺は少し黙った。


「それ、良くなってるのか?」


「判断できる」


「レクスにとってはな」


 返事はなかった。

 黒い卓の端には、二枚の札が残っている。




【代替導線・確認不足】

【優先対象外・説明不足】





「それは?」


「本訴からは外れた」


「運営からも?」


「外れない」


「だよな」


「残す」


「やっぱり仕事になるのか」


「なる」


 即答だった。


「少しくらい間を置け」


「結果は変わらない」


「そういうところだぞ」




 白い光が、俺とアイの足元に広がった。



 管理空間へ戻る転送。


 黒い卓には、青車輪とシオンの札が残っている。


 予測の精度。


 その限界。


 どう伝え、どう使ったのか。


 二人の訴訟で読むべきものは、そこまで絞られた。


 俺たちが持ち帰るものは、別だった。



 卓の端に残された二枚を見る。


 隣を見ると、アイも同じ札を見ていた。


 ほんの一瞬、目が合う。


 それだけで、何を持ち帰るのかは分かった。




 視界が白くほどける。



 次に足元が固まったとき、目の前には白い作業板が開いていた。





【中間判決反映処理】

運営側確認事項を抽出しました。




 その下へ、二つの項目が落ちる。




【代替導線・確認不足】

【優先対象外・説明不足】




「……早いな」


 俺は額を押さえた。


 頭の中には、まだ黒い卓が残っている。


 赤い境界。


 レクスの声。


 青と青白の線。


 分けられたはずなのに、まだうまく離れていなかった。


 白い作業板に、新しい表示が開きかける。



【再研――】



 表示が止まった。


「ん?」


 アイの指が、作業板の端に触れていた。


「どうした」


「処理を保留しました」


 返事のあとに、かすかな衣擦れの音がした。

 顔を上げると、アイがいつもより少し近い場所に立っている。


「現在の状態では、確認精度が低下します」


「俺が疲れてるから?」


「処理精度の問題です」


「誰の?」


「……あなたのです」


 アイは作業板を見たまま答えた。


 開きかけていた文字が消える。


 代わりに、小さな表示だけが残った。




【再研修】

開始:保留




「アイの判断?」


「はい。少し、外を見てきますか?」


 アイは作業板を見たまま答えた。


「第二広場が開いています」


「…………一緒に行くか?」



挿絵(By みてみん)



 アイの動きが止まった。

 

 一度だけ、ゆっくり瞬きをする。


 それから、視線を少し下げた。


「……ここにいます」


「来ないのか」


「再研修資料を整理します」


「休ませる気、本当にある?」


「あります」





 その返事だけは、いつもより少しだけ早かった。




アイの補足メモ


 今回は、運輸ギルド《青車輪》と《蒼白の観測者》の訴訟の途中で、運営処理に関する部分だけを先に判断しました。


 これを、本編では中間判決としています。


 現実の民事訴訟でも、裁判所は、独立した攻撃・防御方法や、訴訟の途中で生じた争いについて、判断できる段階に達した場合、最終判決より先に中間判決をすることができます。


 根拠は、民事訴訟法第二百四十五条です。


【今回、先に判断したもの】


・代替導線は、通常搬入者が実際に利用できる状態だったか

・通常搬入が優先対象外となった後、何が起きたか

・行先制限によって、どこへ混雑が移ったか

・一時封鎖と段階的再開が、搬入へどう影響したか


 これらを先に確定しないまま本訴を続けると、


「蒼白の予測が外れたために生じた遅延」


と、


「予測後に運営が流れを変えたために生じた遅延」


が混ざります。


 混ぜると、責任の範囲を正しく判断できません。


 そのため、今回は、


【蒼白の予測責任から外したもの】


・優先対象外となった後の待機

・行先制限後の周辺混雑

・一時封鎖中の停止

・段階的再開後の処理能力制限


を先に確定しました。


 ただし、これらが遅延の原因ではなくなったわけではありません。


 遅延との接続は残ります。


 蒼白の予測が外れた結果としては扱わない、という意味です。


 また、代替導線については、


「道を表示したこと」


と、


「通常搬入者が実際に利用できるか、十分に確認していたこと」


を分けました。


 表示された道が存在しても、荷車が通れない、受入可能量が足りない、迂回後の待ち時間が分からないのであれば、通常搬入者にとっての実効性は限定されます。


 この確認不足は、蒼白の責任には含めません。


 運営側の不足として残します。


【本訴に残ったもの】


・情報提供時点における予測の精度

・予測のずれを把握できたか

・注意表示は十分だったか

・青車輪は、その情報をどのように利用したか

・青車輪自身の経路選択

・損害と最終的な責任の範囲


 したがって、中間判決によって訴訟が終わったわけではありません。


 青車輪が勝ったわけでもありません。


 蒼白の観測者が責任を免れたわけでもありません。


 最終的な判断に必要な境界を、先に引いただけです。


 なお、本編の「黒環書庫」や、札を用いて運営処理の影響範囲を確定する手続は、現実の民事訴訟をそのまま再現したものではありません。


 民事訴訟法第二百四十五条の中間判決を下敷きに、本作の世界律と司法制度へ翻訳しています。


 そして、判決によって本訴から外れた事項も、運営側から消えるわけではありません。


【代替導線・確認不足】


【優先対象外・説明不足】


 以上の二項目は、管理空間へ持ち帰りました。


 判決は、仕事を終わらせるものではありません。


 場合によっては、増やします。


 今回は、増えました。

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