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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第3章 閾の境界― The Boundary of the Gate ― 第1部 声加ふ

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同札交鋒―Clash over the Same Card―

アルティスです。


相変わらず法律色が強いので、先にガイドラインを置いておきます。


今回行われるのは、


「遅れた原因を、予測・運営処理・青車輪自身の判断に分けて置いていきましょう」


という作業です。


誰が全部悪い、という話ではありません。


同じ遅延に対して、それぞれの札がどこまでつながっているのかを確認します。


勝った負けたは、まだ先の話。


今回は、責任を決める前に、その境界線を引く回です。


(後書きは現実の裁判手続との答え合わせです。かなり長いので、気になる方だけどうぞ。読み飛ばし推奨です。)



 空いていた席に、車輪の紋章があった。


 黒に近い藍色の外套。

 胸元を留める、銀色の車輪。

 運輸ギルド《青車輪》の代表は、黒い卓の左側に立っていた。


 大柄で、威圧感のある男。

 だが、声を荒らげる気配はない。


 ただ、その立ち方には重さがあった。

 荷を預かる者の顔だった。


 右側には、シオン。

 その後ろに、グレンとシグレ。

 奥には、レクス。


挿絵(By みてみん)



 俺とアイは、黒い卓の手前。


 卓上には、争点整理で残された四枚の札が並んでいる。




【代替導線の実効性】

【優先対象外となった搬入の流れ】

【行先制限後の周辺混雑】

【封鎖及び段階的再開の影響】




 運営処理の内容は、すでに開かれている。

 シオンが本審へ残した主張も、整理されている。

 今日、そこへ青車輪の札が加わる。


 蒼白の観測者が出した情報を、青車輪がどう受け取ったのか。


 どこまで信頼し、搬入計画へ組み込んだのか。

 その情報に、どこまでの責任を求めるのか。

 対するシオンは、何を認め、何を切り離すのか。


 同じ札を挟み、二つの主張が向かい合っていた。


 レクスが黒い卓を一度だけ叩いた。




「始める」




 乾いた音が、黒環書庫の奥へ沈んだ。


「申立側」


 青車輪の代表が一歩前へ出る。


「運輸ギルド《青車輪》です」


 青い札が、卓の左側から滑り出した。



【青車輪側・搬入計画】


イベント用資材搬入

搬入類型:通常搬入

第漆転送門を利用


《蒼白の観測者》提供情報を参考利用




「私たちは、依頼された資材を、予定された時間までに届ける契約を結んでいました」


 別の札が続く。



【搬入計画時の確認事項】

公開運営通知

各門の混雑状況

通常時の所要時間

《蒼白の観測者》提供情報




「蒼白の観測者の情報だけで、経路を決めたわけではありません」


 代表の声は低い。


 シオンではなく、黒い卓へ向けられている。


「荷の量と輸送隊の編成を確認し、運営通知を読み、各門の状況も確認しました。その上で、第漆転送門を利用できると判断しました」


「提供情報は、どの程度見た?」


 レクスが問う。


「相当程度、参考にしました」


「信用した?」


「はい」


 返答に間はなかった。


「以前から利用していました。実際に役立っていたからです」


 青い札が、表を向く。




【《蒼白の観測者》提供情報】


混雑増加傾向

各門の利用状況

搬入可能時間帯予測

注意表示あり




 その隣に、もう一枚。



【確認済み】

到着時刻の保証なし

運営処理による経路変更の可能性

港湾門経由の水上移動区間

大規模輸送時の個別確認




「注意表示も読みました。予測が絶対ではないことも理解していました」


「それでも使った」


「はい」


 青車輪の代表は、何も引かなかった。


 情報を選んだこと。


 搬入計画へ組み込んだこと。


 その判断も、自分たちの札として卓上に置いた。


「結果は?」


 別の青い札が、中央へ進む。




【搬入結果】

代替導線へ経路変更

西門側搬入列へ合流

到着予定を超過

追加人員・追加費用が発生




「予定された時間には届きませんでした」


 短い言葉だった。


 その後ろには、結果だけが並んでいる。


 荷を待っていた者。


 予定どおりに始められなかった作業。


 追加された人員。


 増えた費用。


 そして、遅延の説明を求める依頼者。


「私たちが問題としているのは、単に予測が外れたという事実ではありません」


 代表の指が、蒼白の観測者の札へ向いた。


「搬入計画へ利用される情報として、どこまで信頼できる内容だったのか」


 青い札が落ちる。




【青車輪側主張】

提供情報の精度

注意表示の十分性

搬入計画への利用を想定した情報提供上の責任




「注意表示さえ付ければ、どのような予測を出してもよいとは考えていません」


 シオンの表情が、わずかに硬くなる。


「私たちは荷を預かりました」


 青車輪の代表は続けた。


「遅延した以上、依頼者へ理由を説明しなければなりません」


 そこで初めて、シオンを見る。


「予測の誤りだったのか」


 一つ。


「私たちの計画に問題があったのか」


 もう一つ。


「それとも、途中で生じた別の事情によるものなのか」


 声は荒れていない。


 それでも、言葉が落ちるたび、逃げられる場所が狭くなった。


「それを明らかにしたい」


 青い札が、申立側の前に固定された。


 運営を追及するためではない。

 遅延のすべてを、シオンへ押しつけるためでもない。

 依頼者へ説明できる形にするため、原因と責任の境界を求めている。


 それが、青車輪の立場だった。


「相手方」


 レクスの視線が右へ移る。


 シオンが静かに頭を下げた。


「《蒼白の観測者》です」


 青白い札が前へ出る。




【蒼白の観測者側・認否】

提供情報を青車輪が参考利用したこと:認める

搬入可能時間帯予測が結果と一致しなかったこと:認める

提供情報に注意表示があったこと:争いなし

情報提供上の責任範囲:争う




「私たちの予測が外れたことは認めます」


 シオンは、不利な札を動かさなかった。


「青車輪に対して、何の責任も負わないとも主張しません」


 青車輪の代表が、わずかに目を上げる。


「ただし、搬入遅延のすべてが、私たちの予測から生じたものではありません」


 シオンの指が、卓の中央へ向く。



 入口流入制限。

 優先導線設定。

 行先制限。

 一時封鎖。

 段階的再開。



「私たちが予測したのは、その時点で観測できた人の流れです」


 青白い札が一枚、中央へ滑る。



【予測時点】

公開混雑情報

当時の導線

過去流量

定点観測ログ



 その隣には、運営処理の札が並ぶ。



【予測後に実施された処理】

入口流入制限

優先導線設定

行先制限

第漆転送門一時封鎖



「その後、入口から入れる人数が変わりました」


 入口流入制限の札が光る。


「優先される対象も変わった」


 優先導線設定。


「転送される先も変わりました」



 行先制限。



「最後には、第漆転送門そのものが一時封鎖された」


 青白い線が、一枚ずつ運営処理へ接続していく。


「単に混雑が予測を超えたのであれば、私たちの精度の問題です」


 シオンが言う。


「ですが、予測後に人の流れが変更され、その先で新たな混雑が生じたのであれば、その影響まで変更前の予測へ含めることはできません」


 青白い札が、争点整理で残された四枚へ近づく。




【蒼白の観測者側主張】

運営処理による人流変化

通常搬入が優先対象外となった影響

行先制限後の周辺混雑

封鎖及び段階的再開による停止・回復状況



「運営へ責任を転嫁する?」


 レクスが問う。


「違います」


 シオンは即答した。


「私たちの責任範囲を判断する前提として、運営処理によって生じた変化を切り分けてください」


 青車輪は、蒼白の観測情報を使った。

 予測は外れた。


 そこまでは争いがない。


 争われているのは、その不一致の中に、何が含まれているのかだった。



 シオンが捉え損ねた流れ。

 運営処理によって後から変更された流れ。

 変更後に青車輪が選択した経路。



 三つを一つにすれば、責任の境界が消える。


 青車輪の代表が、中央の札を見た。


「運営処理が影響したことは、こちらも否定しません」


 青い札が前へ出る。



【青車輪側・反論】

運営処理の影響があったとしても、

提供時点における予測精度及び注意表示の責任は残る



「しかし、途中で運営処理が行われたというだけで、それ以前に提供された情報の責任が消えるわけではありません」


「はい」


 シオンも否定しなかった。


「なら、分ける」


 レクスが言った。


 二人が、同時に黒い卓を見る。


「はい」


 声が重なった。

 求める方向は逆だった。



 青車輪は、シオン側に残る責任を確定したい。

 シオンは、自分たちへ帰属しない原因を切り離したい。



 そのために、どちらも運営記録を必要としていた。


 レクスの視線が、俺たちへ向く。


「運営記録」


 俺はアイを見る。


 ほんの一瞬、目が合った。

 それだけで足りた。


 アイの指が動く。


 白い札と黒い札が、同時に中央へ滑り出した。



【代替導線】

北門

西門

港湾門

一般参加者:西門・港湾門

商人搬入:西門側搬入口


【確認記録なし】

代替導線ごとの受入可能量

搬入形態ごとの利用可否

迂回後の待機時間




 もう、すでに開いた札だった。


 レクスは内容を繰り返さない。


「相違は?」


「ない」


 俺が答えると、次の視線はシオンへ移った。

 青白い線が、【確認記録なし】へ伸びる。


「私たちにも確認できなかった範囲です」



 各経路の受入可能量。

 荷車を伴う輸送隊の利用可否。

 迂回後の待機時間。



「公開された人流からは、そこまで予測できません」


 青車輪の代表は、【代替導線】へ青い線を伸ばした。


「一方で、私たちは表示された西門側搬入口を選びました」




【青車輪側・経路変更】

第漆転送門前から離脱

西門側搬入口へ移動

西門側搬入列へ合流

到着予定を超過




「経路を変更したのは、こちらの判断です」


 青い札が、運営札の隣に置かれた。


「ただし、その判断は、蒼白の観測者から提供された情報と、運営表示の双方を見た上で行いました」


 一枚の【代替導線】へ、二つの線が伸びる。


 シオンは、予測の限界を示す札として使う。


 青車輪は、経路選択の前提として使う。


 俺たちにとっては、代替経路を表示した記録だった。




 同じ札。




 だが、主張の中で与えられる意味は違う。

 レクスの指が、次の札へ触れる。



【優先導線分類】

救護・警備・緊急搬送:優先

事前登録搬入:優先

通常搬入・臨時便・露店補充:対象外



 シオンが、通常搬入の文字へ線を伸ばす。


「青車輪の輸送隊は、情報提供時点では、通常搬入として第漆転送門を利用する予定でした」


「その後、優先対象から外れた」


「はい」


 青車輪の代表も札を動かす。



【青車輪側・分類後】

通常搬入として優先対象外

西門側搬入口へ移動

待機・再開見込み:表示なし



「対象外となったことは確認しました」


 代表が言う。


「その後、西門側へ移動すると決めたのも、私たちです」


「運営処理の影響は?」


「ありました」


「蒼白の情報に関する責任は?」


「別に残ります」


 迷いのない返答だった。


 青車輪は、運営処理の影響を認めた。

 それでも、シオンの札を卓から下げなかった。

 シグレが、卓上の三つの札へ視線を落とす。


「一つにまとめれば、簡単です」


 声に、いつもの軽さはなかった。


「予測が外れた。運営が流れを変えた。運輸ギルドが経路を選んだ」


 シオン。

 運営処理。

 青車輪。


 順に視線を移す。


「どれか一つだけを原因にすれば、説明は終わります」


 シグレは、それ以上踏み込まなかった。


「ただ、その場合、残る二つの札が消えます」


 黒い卓の端で、ミナトの札が淡く光った。



【《ひよこ商会》ミナト】

通常搬入

通知確認済み

代替導線利用を試行

搬入予定時刻超過

外部確認入口:不通過




 誰も、その札を説明し直さなかった。


 通常搬入が、案内後にどう動いたのか。


 その一例として、争点整理ですでに残されている。


 ミナトの札から、二本の線が伸びた。


 代替導線。

 優先対象外となった搬入。


 中央には来ない。


 当事者の責任を直接決める札ではない。


 それでも、実際の運用として消えずに残った。


 レクスの指が、三枚目へ移る。



【行先制限・結果】

中心区画流入:低下

座標競合:低下



 その隣に、もう一枚。



【行先制限・波及】

西側周辺区画:混雑

北側周辺区画:待機列発生

地上代替導線:通行速度低下

港湾側到着区画:搬入列と一般参加者が接触



 シオンが、波及の札へ線を伸ばす。


「予測後に生じた流れです」


 青車輪の代表は、西門側の搬入記録を重ねた。


「私たちの輸送隊が、実際に入った流れでもあります」


 処理は効いた。


 中心区画の流入と、座標競合は低下した。

 その外側で、別の混雑が生じた。

 そこへ、青車輪の荷が入った。


 白。


 青。


 青白。


 三色の線が、同じ札へ集まる。


 俺は隣を見る。


 アイも、同じ札を見ていた。



 効果を示す記録。

 その外側で生じた影響。

 どちらも、俺たちが提出したものだった。



 レクスの指が、最後の札へ移る。


 卓の奥で、赤い危険ログが光った。



【危険ログ】

第漆転送門負荷:九九%

救護導線遅延

退避導線一部閉塞

転送先座標競合

内部処理滞留


【第漆転送門一時封鎖】

判断者:管理空間職務代理

発動時負荷:九九%



 封鎖の必要性そのものは、もう誰も争わない。


 争点整理で、主要な争点から外されている。


 残るのは、その影響だった。




【封鎖後】

負荷低下

救護導線回復

退避導線回復

通常搬入:停止継続


【段階的再開】

入口流入率を抑えて再開

救護転送を最優先

一般参加者と搬入を分離

通常搬入を一部再開



 シオンが、停止と再開の札へ青白い線を伸ばす。


「通常搬入が停止した時間と、再開後の回復状況は、遅延への影響として区別する必要があります」


 青車輪の代表も、自分たちの札を動かした。



【青車輪側・封鎖後対応】

第漆転送門へは戻らず

西門側経路を継続

到着予定を超過



「再開後に戻らなかったのは、こちらの判断です」


「理由は?」


「移動中の輸送隊を戻せば、さらに遅延すると判断しました」


 青車輪自身の判断も、表を向く。


 封鎖による影響はあった。


 再開後に戻らないと決めた判断もあった。


 どちらか一方だけでは、到着予定超過のすべてを説明できない。


 レクスの赤い瞳が、卓上を移動する。


 四枚すべてに、青と青白の線がつながっていた。

 その外側には、青車輪自身の判断を示す札が残っている。


「最後に、判断根拠との接続を確認する」


 レクスが言った。


 卓上に、一枚の札が浮かぶ。



【《蒼白の観測者》公開予測】

周辺人流

待機列

商人搬入列

各門の利用傾向




 俺はアイを見る。


 アイも、こちらを見た。


 小さく頷く。


 白い札が一枚だけ落ちる。



【運営側確認】

《蒼白の観測者》公開予測:閲覧済み

運営処理の直接又は主要な判断根拠:該当なし



「閲覧した?」


「公開情報の一つとして」


「処理の判断根拠は?」


「実測負荷。救護と警備からの通信。退避導線。座標競合。内部処理ログ」


 レクスが、青白い札を運営処理から離した。



 青車輪向けに提供された情報。

 運営画面に表示されていた公開予測。

 俺たちが処理を決定した記録。



 三つは、同じ札ではない。


 シオンの公開予測は、盤面にはあった。


 だが、俺が切った札ではなかった。


「補足は?」


 俺は卓上を見る。



 危険ログ。

 代替導線。

 優先導線。

 行先制限。

 封鎖と再開。

 確認できていなかった事項。



 すべて表を向いている。


「ない」


 黒い札が、俺の前で光った。




【発動者記録】

世界律のせいだけにはしない。

自分が、必要と判断して押す。

 

 


 封鎖を決めたのは俺だ。


 シオンの予測で押したわけではない。

 その事実だけが、ほかの札から離れて残った。


 レクスが青車輪の代表を見る。


「申立側」


「以上です」


「相手方」


「以上です」


「運営側」


 俺はアイを見る。


 アイの周囲に、開かれていないログはない。


「補足なし」


 レクスが黒い卓へ指先を置いた。


 札が動く。


 新しい札は落ちなかった。


 青車輪の経路変更が、代替導線へ。

 通常搬入の記録が、優先対象外の札へ。

 西門側の混雑が、行先制限の札へ。

 停止と再開。

 その後も戻らなかった輸送隊が、最後の札へ。

 青い線と青白い線が、別々の方向から四枚へつながっていく。



 さらに外側には、青車輪自身の判断を示す札が残った。

 一本だけでは、遅延の理由にならない。


 だが、どの線も消すことはできなかった。


 黒い卓の上から、余白が消えた。


「これで終わりか」


 俺は聞いた。


「主張は」


 レクスが答える。


「本件は?」


「続く」


「俺たちの処理は?」


 レクスは、すぐには答えなかった。


 赤い瞳が、卓の奥の危険ログから、四枚の確認対象へ移る。




 代替導線。

 優先導線。

 行先制限。

 封鎖と再開。



 最後に、俺の前の黒い札。


 運営処理に関する札だけが、一つのまとまりを作っていた。


 蒼白の公開予測は、その外側。


 青車輪とシオンの札は、さらに外へ残っている。


「先に読める」


 レクスが言った。


「何を」


「運営処理」


 短い声だった。


「その内容と効力。予測後に生じた変化。遅延へ接続する範囲」


 青車輪の代表が、わずかに姿勢を正した。


 シオンも、中央の札から目を離さない。


「そこを先に決める」


 訴訟は終わらない。


 青車輪と蒼白の観測者の責任も、まだ決まらない。

 その判断へ進む前に、運営処理後に生じた変化を確定する。

 どこまでを蒼白の予測責任から外し、どこからを本訴に残すのか。

 その境界を、先に引く。


 途中の判断。


 それでも、その先の責任を左右する判断だった。


 レクスが、黒い卓の中央へ指先を置く。


 まだ、叩かない。


 沈黙の中で、すべての札を見渡した。


 もう、落ちる札はなかった。




 残されたのは、読むことだけだった。

【アイの補足メモ】


今回は、争点整理を終えた後の口頭弁論です。


前回までに、


・代替導線は、実際の搬入に使える状態だったのか

・優先対象外となった通常搬入は、その後どう動いたのか

・行先制限によって、混雑はどこへ移ったのか

・一時封鎖と段階的再開が、搬入遅延にどこまで影響したのか


という四点が、本件で確認すべき問題として残されました。


現実の民事訴訟でも、裁判所は必要に応じて「争点及び証拠の整理手続」を行います。


民事訴訟法第百六十八条は、裁判所が、争点及び証拠を整理する必要があると認める場合、当事者の意見を聴いた上で、事件を弁論準備手続に付することができると定めています。


前話でレクスが行っていたのは、勝敗の判断ではありません。


「何について争っているのか」


「どの記録を使って確認するのか」


「どこまでを次の審理へ残すのか」


を整理する作業です。


今回、その整理を終えた盤面に、申立側である《青車輪》が入ります。


本件の当事者は、


運輸ギルド《青車輪》



《蒼白の観測者》


です。


運営側は、青車輪から訴えられているわけではありません。


青車輪は、


「蒼白の観測者から提供された情報を参考に搬入計画を立てたが、荷物は予定時刻までに届かなかった」


として、提供情報の精度や注意表示に関する責任を問題にしています。


これに対し、蒼白の観測者は、


「予測が外れた部分は認めるが、搬入遅延のすべてが予測の誤りによるものではない」


と反論しています。


予測が出された後には、


・入口流入制限

・優先導線設定

・行先制限

・第漆転送門の一時封鎖

・段階的再開


という運営処理が行われました。


さらに、青車輪自身も、代替導線の表示を受けて西門側へ移動し、再開後もその経路を継続しています。


そのため、本件の遅延には、


一 蒼白の観測者が提供した情報

二 その後に実施された運営処理

三 青車輪自身が行った経路選択


という三つの要素が重なっています。


今回、レクスが確認しているのは、誰か一人を原因として選ぶことではありません。


同じ結果へつながっている複数の事情を、いったん分けて置くことです。


青車輪は、運営処理が遅延に影響したことを認めています。


しかし、


「運営処理が行われたからといって、それ以前に提供された情報の責任まで消えるわけではない」


と主張しています。


反対に、蒼白の観測者は、


「予測後に運営が人の流れを変えた以上、その影響まで変更前の予測の誤りとして扱うことはできない」


と主張しています。


つまり、両者とも運営処理の影響を確認する必要があると考えています。


ただし、その目的は反対です。


青車輪は、蒼白の観測者側に残る責任を明らかにするため。


蒼白の観測者は、自分たちの責任に含まれない部分を切り離すため。


そのため、同じ運営記録に対して、双方から別の意味を持つ線が伸びています。


現実の民事訴訟でも、裁判所は当事者の主張を整理し、不明確な部分について問いを発することができます。


民事訴訟法第百四十九条は、裁判長が、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項について当事者へ問いを発し、立証を促すことができると定めています。


今回のレクスの質問が短いのは、前回までに争点と記録が整理されているためです。


「信用した?」


「運営処理の影響は?」


「判断根拠は?」


という質問は、新しい主張を作るためのものではありません。


すでに提出されている札について、


・争うのか

・認めるのか

・どの主張へ接続するのか


を確定させるための確認です。


また、本作の黒環書庫では、提出済みの札がすべて表を向いています。


現実の訴訟と異なり、証拠が物理的な札として可視化されていますが、機能としては、当事者の主張、提出された書証、運営記録などを同じ盤面で確認しているものです。


同じ【代替導線】の札でも、立場によって意味は異なります。


運営側にとっては、


「代替経路を表示した記録」


です。


蒼白の観測者にとっては、


「各経路の受入可能量など、民間観測だけでは把握できない情報があったことを示す記録」


です。


青車輪にとっては、


「実際に西門側へ経路を変更した前提となる記録」


です。


札そのものは変わりません。


しかし、どの事実へ接続するかによって、訴訟上の意味が変わります。


なお、蒼白の観測者の公開予測は、運営画面にも表示されていました。


ただし、それは運営処理の直接又は主要な判断根拠ではありません。


運営側が入口流入制限、優先導線設定、行先制限及び一時封鎖を決めた根拠は、


・転送門の実測負荷

・救護及び警備からの通信

・退避導線の状態

・転送先座標競合

・内部処理ログ


です。


蒼白の公開予測は、公開情報の一つとして閲覧されていたにとどまります。


青車輪へ提供された個別の搬入可能時間帯予測と、運営が判断に用いた内部記録は、同じものではありません。


この点を混同すると、


「蒼白の観測者の予測によって、運営が門を封鎖した」


ように見えてしまいます。


しかし、実際の判断者は管理空間職務代理です。


主人公が、運営側の実測値と現場情報を確認し、自分の権限と責任で処理を発動しています。


最後に、レクスは、


「運営処理については先に読める」


と判断しました。


これは、本件訴訟全体の判決を出すという意味ではありません。


青車輪と蒼白の観測者の最終的な責任関係を判断する前に、その前提となる運営処理の内容、効力及び影響範囲について、先に判断できる状態になったという意味です。


民事訴訟法第二百四十五条は、独立した攻撃又は防御の方法その他の中間の争いについて、裁判をするのに熟したときは、中間判決をすることができると定めています。


今回、運営処理に関する札は一つのまとまりを作りました。


一方で、


・蒼白の観測情報にどの程度の精度が求められたのか

・注意表示は十分だったのか

・青車輪の情報利用や経路選択は適切だったのか

・最終的に、誰がどこまで損失を負担するのか


という問題は残っています。


そのため、次に示される判断は、勝敗を決める終局判決ではありません。


本件を先へ進めるために、運営処理の位置だけを先に固定する中間判決です。


以上が、今回の黒い卓で行われた手続です。


要するに、


「誰が全部悪いかを決めたのではなく、誰の責任を判断する前に、どの出来事をどこまで別の原因として扱うかを確定した」


という回です。


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