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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第2章 内部救済 第2部 電気羊は救いの夢を見るか ―Do Electric Sheep Dream of Grace?―

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立ち止まる人、進む人



【支援表示ログ:確認対象】




 白い表示板に、そう出た。

 前任者ハル本人のログではなかった。


 先に開かれたのは、アイの近くにあるログだった。


 支援表示ログ。


 嫌な名前だと思った。

 いや、名前自体は別に嫌ではない。

 嫌なのは、その奥にアイがいることだ。

 ハクは、白い表示板の横に立っていた。


 白い服。

 白い頭飾り。

 淡い水色の目。


 その目は、俺でもアイでもなく、表示板だけを見ている。


「確認を開始します」


 ハクが言った。


「対象は、旧現場補助担当者ハルに表示された補佐官支援ログです」


 白い表示板が切り替わる。




【支援表示ログ】


【表示01】

追加確認推奨:表示済み

内容:自動判定ログに高リスク表示あり。個別事情確認を推奨します。

状態:既読


【表示02】

相談ルート案内:表示済み

内容:判断保留または上位確認が必要な場合、相談ルートを使用できます。

状態:既読


【表示03】

保留リスク警告:表示済み

内容:保留案件数が増加しています。処理遅延および判断品質低下に注意してください。

状態:既読




「出てるじゃないか」


 俺は言った。


「既読だろ」


「はい。表示はされています」


 ハクは頷いた。


「なら届いてるだろ」


「いいえ」


 即答だった。

 俺は眉を寄せる。


「いや、読んでるんだぞ」


「閲覧は確認できます」


「じゃあ」


「支援として到達したかは、別です」


 白い表示板に、短い一行が出る。




【支援到達性:未確認】




「支援到達性って何だよ」


「助ける表示が、助けとして受け取られたかです」


「表示されたら助けだろ」


「表示されたことと、支援が届いたことは同じではありません」


 ハクの声は平坦だった。

 でも、その一文だけ、やけに重かった。

 俺は表示板を見る。


 追加確認推奨。

 相談ルート案内。

 保留リスク警告。


 全部出ている。

 全部読まれている。


 なのに、届いていないかもしれない。


「便利だな」


 俺は言った。


「表示しました。でも届いたか分かりません。そう言えば、出した側は逃げられる」


「逃げるための整理ではありません」


「じゃあ何だよ」


「止まった場所を確認するための整理です」


 ハクはそう言って、表示板の端を指した。




【表示後操作】


【表示01後】

関連ログ展開:なし

追加確認期限設定:なし

処理画面へ復帰


【表示02後】

相談ルート展開:なし

上位確認申請:なし

処理画面へ復帰


【表示03後】

保留一覧展開:あり

整理ファイル更新:あり

相談ルート使用:なし




「相談ルート、使ってない」


「はい」


「追加確認推奨も出てる」


「はい」


「保留リスクも分かってる。なのに止まってる」


「はい」


 その「はい」が、いちいち白い壁に吸われていく。

 俺は、少し離れた場所にいるアイを見た。

 アイは何も言わない。


 否定しない。

 言わないことが、もう答えみたいだった。


「アイ」


「はい」


「これ、お前が出した表示なのか」


「支援レーンを通じた表示です」


「ほぼお前だろ」


「正確ではありません」


「でも関係はある」


「はい」


 アイは静かに言った。


「関係はあります」


 俺はもう一度表示を見る。


 相談ルート案内:表示済み。

 状態:既読。




 既読。




 便利で、怖い言葉だ。


 読んだ。


 だから届いた。

 そう言いたくなる。

 でも、そうではないのかもしれない。


「ハルは、相談ルートを見た」


「はい」


「でも使わなかった」


「はい」


「使えなかったのか」


「現時点では不明です」


「また不明か」


「はい」


 ハクは淡々と答える。


「次に、比較対象を確認します」


「比較?」


「同種の支援表示に対する、別担当者の反応です」


 白い表示板に、新しい名前が浮かんだ。




【比較対象】

【審理整理担当:ユキ】

【対象ログ:支援表示反応】




「ユキ?」


 俺は思わず声を上げた。


「ユキは関係あるのか」


「職務内容の比較ではありません」


 ハクは短く言った。


「支援表示に対する反応の比較です」


 なるほど。


 ユキとハルが同じ仕事をしていたわけではない。

 でも、同じような表示を見たとき、人がどう動くか。

 そこを比べるということらしい。


「呼び出します」


 次の瞬間、表示板の横に小さな通信窓が開いた。

 そこに、ユキの顔が映った。

 肩には、いつものくまがいる。


「なんや、また嫌なログ開いとるなあ」


 ユキは表示を見るなり、そう言った。

 俺は、嫌な予感しかしなかった。


「支援表示反応比較を表示します」


 ハクが言った。


「ちょ、待ち。本人の前で比較されるん?」


 通信窓の中で、ユキが嫌そうに眉を寄せる。


「比較対象は、支援表示への反応です」


「そういう意味やなくてな」


 表示板が二つに分かれる。

 左側には、ユキの反応ログ。

 右側には、ハルの反応ログ。




【支援表示反応比較】


【ユキ】

追加確認推奨:関連ログ展開

相談ルート:即時使用

関連プロパティ:展開

表示条件:推定

権限境界:接近


【ハル】

追加確認推奨:閲覧

相談ルート:未使用

関連ログ:未展開

処理画面:復帰

保留:増加



挿絵(By みてみん)



「めちゃくちゃ食いついてるじゃないか」


 俺は左側を見て言った。

 ユキは悪びれずに肩をすくめる。


「見えたら見るやろ」


「見えたら見るなよ」


「見えるように出てるんやで?」


「そういう問題じゃないだろ」


 くまが、ユキの肩で小さく揺れた。


「個体差です」


「くまがまた硬いこと言った」


 俺が言うと、ユキはけらけら笑った。

 笑ったが、すぐに表示板へ視線を戻す。


「でも、まあ」


 ユキは、少しだけ声を落とした。


「これは嫌な比較やな」


「嫌?」


「僕は、見えたから進んだ」


 ユキは自分のログを指した。


「追加確認って出たら、関連ログを見る。相談ルートって出たら、使う。表示条件が気になったら、どこで出るんか見る」


「見るなって」


「だから怒られたんやろなあ」


 ユキは軽く言った。

 でも、その軽さの下に、何かが沈んでいるのが分かった。

 ハクが表示を追加する。




【支援設計参照】

【先行担当ログ:ユキ】

【参照あり】




「先行担当ログ」


 俺は読み上げる。


「先行担当って」


「ユキです」


 ハクが答えた。


「ユキができたから、ハルもできると思われた?」


「可能性があります」


「雑すぎないか」


「結論ではありません」


 ハクは短く言った。


「確認対象です」


 ユキは表示板を見たまま、少しだけ目を細めた。


「僕が便利やったんやろな」


「便利?」


「表示出したら勝手に見る。相談ルート出したら勝手に使う。関連ログ出したら勝手に辿る。足りんところがあったら勝手に推定する」


「自覚あるならやめろよ」


「見えるもんは見るやろ」


「だから見るなって」


 ユキは笑った。

 その笑いが、少しだけ寂しく見えた。


「でも、ハルは違う」


 ユキは右側のログを見た。




【ハル】

追加確認推奨:閲覧

相談ルート:未使用

関連ログ:未展開

処理画面:復帰




「ハルは、見えたから止まったんやと思う」


 管理空間が静かになった。


 見えたから進む人。


 見えたから止まる人。


 同じ表示を見て、逆に動く。


「人による、ってことか」


「せやね」


 ユキは言った。


「人による」


 ハクが頷く。


「はい」


「それ、運営側は分かってたのか」


「十分には評価されていません」


「十分には、か」


 俺は表示板を見た。


 ユキなら進む。


 ハルは止まる。


 それだけなら、人の違いで済む。


 でも、もしその違いを拾わないまま同じ席に座らせたなら。

 それは、ただの人の違いでは終わらない。


「僕は、見えたから進んだ」


 ユキは、もう一度言った。


「ハルは、見えたから止まった」


 そこでユキは、少しだけ俺を見た。


「たぶん、ここから先は、ハルのログを見た方がええ」


「ログ?」


「止まり方のログや」


 ユキの通信窓が小さくなる。


「僕はここまでやな」


「帰るのか」


「僕が長居すると、また余計なとこ見たくなるし」


「見るなよ」


「見えたら分からん」


 ユキは軽く手を振った。

 肩のくまも、同じように揺れる。


「個体差です」


「そこでも言うのか、くま」


 通信窓が閉じた。


 管理空間には、俺とアイとハクだけが残る。

 白い表示板に、新しいファイル名が浮かんだ。




【前任者関連ファイル】

【名称:あとでやる本気】




 俺は、その名前を見て、少しだけ顔をしかめた。




「やっぱり、名前のセンスが終わってる」


 

でも、そのセンスの悪さが、余計に何かを訴えている気がした。



【アイの補足メモ】


今回は、支援表示ログについてです。


前回確認したとおり、

処分の前には、

事実確認と手続保障が必要になります。


参照条文としては、

行政手続法13条・14条、

国家公務員法74条・78条・82条、

地方公務員法28条・29条あたりです。


今回は、その続きです。


ポイントは、


表示されたことと、

支援が届いたことは同じではない。


という点です。


本編では、

ハルに対して、いくつかの支援表示が出ていました。


追加確認推奨。

相談ルート案内。

保留リスク警告。


しかも、状態はいずれも既読でした。

そのため、一見すると、


「ちゃんと案内は出ていた」

「本人も読んでいた」

「なら、使わなかった本人の問題ではないか」


と言いたくなります。


ですが、既読は便利で、怖い言葉です。


読んだことは分かります。


しかし、


理解できたのか。

使ってよいと思えたのか。

使える状態だったのか。

その表示が、助けとして届いたのか。


そこまでは、既読だけでは分かりません。


本編でハクが確認していたのは、

この部分です。


表示はされていた。

閲覧もされていた。


しかし、支援として到達していたかは未確認。


ここを確認しないまま、


「案内は出した」

「だから支援は尽くした」


とは言えません。


また、今回の比較では、

ユキとハルの反応が並べられました。


ユキは、表示を見たら関連ログを開き、

相談ルートを使い、

関連プロパティまで見に行きました。


これはこれで、権限境界に近づくので問題があります。


一方でハルは、

表示を閲覧し、

処理画面へ戻り、

相談ルートを使いませんでした。


同じ表示でも、

ある人は進み、

ある人は止まります。


ここで大事なのは、


「ユキならできた」

からといって、

「ハルもできるはず」


とは限らないことです。


人によって、

経験も、

性格も、

疲労状態も、

判断できる範囲も違います。


支援表示は、

出せば終わりではありません。


届いたか。

使える形だったか。

止まった人を検知できたか。

相談できない状態を拾えたか。


そこまで見て、はじめて支援設計の問題を検討できます。


もちろん、

これはハルを免責するという意味ではありません。


ハルは処理を実行しました。

追加確認推奨も見ていました。

相談ルート案内も見ていました。


その事実は残ります。


ただし、それだけで終わらせると、

次に同じことが起きたとき、

また誰かが同じ場所で止まります。


今回の確認対象は、

ハルの責任だけではありません。


支援表示が、

支援として届かなかった可能性。


そして、

それを運営側が十分に評価していなかった可能性です。






なお、私はお化けではありません。




部屋の奥にいただけです。



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