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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第2章 内部救済ーDo Electric Sheep Dream of Grace?ー

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救済ルートは、負け惜しみを書く場所じゃない



【アカウント停止措置について要再確認】

 

 前回から残っている作業板を見て、俺は深く息を吐いた。


「消えてないな」


「はい」


「消えてほしいな」


「処理は残ります」


「知ってた」


 中央広場イベント受付フォームの修正は終わった。

 雷鳴劇団は怒りながらも、小型演出会に切り替えた。

 ひよこ商会のミナトは、初心者露店市を「届出完了」で進めることになった。

 受付済みと許可済みを分ける表示も作った。

 少しだけ、世界は分かりやすくなった。

 その結果。

 俺自身の一時停止ログが、さらに分かりにくく見えるようになった。



【あなた自身の一時停止:入口分類確認】


【対象処理】

プレイヤー資格一時停止

キャラクター凍結

報酬除外

ランキング除外

管理空間への仮収容

管理空間補助権限付与


【初期検知タグ】

外部ツール使用疑い

【処理入口】

緊急保全停止


【通知文】

利用規約違反の疑いによる一時停止


【内部メモ】

異常周回パターン


【派生処理】

プレイヤーキャラクター凍結


【追加状態】

管理空間への仮収容

現場改善補助権限の付与


【再確認】

予定あり

実施記録なし


挿絵(By みてみん)


 何度見ても、ぐちゃぐちゃだ。

 いや、俺も悪いところが一切ないとは言わない。

 異常周回はした。

 仕様の穴は突いた。

 配布ブーストの判定を、めちゃくちゃ嫌な角度から読んだ。

 ただ、それと外部ツール使用者扱いは違う。

 違うはずだ。

 違うと言いたい。


「で、これ、俺が自分で内容を確認して、修正処理をかけるなりすればいいのか?」


 俺は作業板に手を伸ばしかけた。

 その瞬間、表示が赤く変わった。



【警告】

自己案件への処理編集は制限されています。


【制限対象】

内部メモ編集

通知文修正

処理理由変更

派生処理分類変更

上位裁定判断

処分取消し行為


【理由】

対象者本人と処理レーン側表示が重複しています。



「……はい?」


「自己案件です」


「見れば分かる」


「見れば分かるため、制限されています」


「そういう意味じゃない」


「あなたは本件の対象者本人です。同時に、管理空間補助者として処理レーン側にも登録されています」


「そうだな」


「そのため、本件については、自己案件として処理側権限から除外されています」


「つまり?」


「あなたは、自分の件について、処理側の席には座れません」


 アイは淡々と言った。


「内部メモを編集できません。通知文を作成できません。処理理由を変更できません。処分を職権で取り消すことも、上位裁定を行うこともできません」


「俺が俺を裁定するわけにはいかないってことか」


「はい」


「そりゃそうだな」


「はい」


「……そりゃそうなんだけど、すごく嫌だな」


「自然な反応です」


 黒い管理補助衣装の袖が、視界の端に入る。

 この服を着て、俺は広場の表示を確認した。

 露店の受付表示を直した。

 レムナント・ラボの募集を見た。

 倉庫ログの確認範囲を絞った。

 申請入口を分けた。

 なのに、自分の件には触れない。

 俺の体は運営側にある。

 けれど、俺の件については運営側に座れない。

 自分で自分を直せない。


「じゃあ、俺以外の運営側が出てくればいいんじゃないのか」


「確認します」


 アイは作業板に手をかざした。

 だが、表示は出なかった。


「……嫌な予感しかしない」


「本件で対応可能な処理側担当者は、あなたです」


「俺じゃん」


「はい」


「その俺は?」


「自己案件から除外されています」


「最悪の空席だな」


「一応、処理側資料は、必要な範囲で提出されるようです」


「じゃあ、少なくとも資料は見れるのか」


「はい」


「そこに俺が座るのは?」


「形だけなら可能です。処理側担当表示として、あなたの名前は残ります。ただし、発言、編集、判断はできません」


 俺は、作業板を見た。

 処理側の担当表示は俺。

 だが、俺は自己案件から除外中。

 つまり、名前だけは残っているのに、発言も編集も判断もできない。

 形だけの席だ。


「……なら、アイ。お前がそこに座るのは?」


「私にできると思って聞いていますか?」


「できないと思って聞いてる」


「では、確認は不要です」


「そういう返しはやめてくれ」


 アイは、ほんの一拍だけ間を置いた。


「少なくとも本件では、私はあなたの隣には立てません」


「やっぱりか」


「提出された資料をお伝えすることはできます」


「それだけか」


「はい」


「それも大事ではあるけどな」


「はい」


 処理側の席には、名前だけの俺。

 俺の隣には、立てないアイ。

 残るのは、提出される資料だけだった。


「じゃあ、ユキは?」


「ユキですか」


「ほら、あいつ整理うまいだろ。口調はゆるいけど、線は引けるし、同じ仕事をしてたこともあるって前に話してなかったっけ?」


 アイは、すぐには答えなかった。


「ユキは、審理整理担当としては適性があります」


「じゃあユキでいいじゃん」


「処理側の席に座る者ではありません」


 アイは作業板に、別の席を表示した。



【審理整理担当】

役割:

双方の主張を整理する

資料提出要求を整理する

争点を並べる

必要に応じて調査を行う

裁定者に判断可能な形で渡す


【できないこと】

処理側の席に座ること

請求人側の立場で主張すること

裁定すること



「審理整理担当は、どちらかの席に座る者ではありません」


「俺の味方でも、処理側でもない」


「はい」


「じゃあ、殴り合いの場所を整える役か」


「表現は最悪ですが、近いです」


「また俺のせいか」


「はい」


 処理側には座れない。

 アイは隣に立てない。

 ユキは場を整えるだけ。

 なら、止められた本人として、俺は自分の気持ちを言いたい。

 でも、本人の俺がこの有様なら、どうするんだよ。


「第三者による主張提出ルートがあります」


「第三者」


「はい。対象者本人は、自己案件において、本人の外側から主張する者を立てることができます」


「代理人か」


「はい」


「俺の代わりに、請求人側でしゃべるやつ」


「はい。あなたの主張を、あなたの外側から提出する者です。その過程で、必要な資料確認や反論の入口を整えます」


「応援団じゃないんだな」


「はい。応援団ではありません」


「ちょっとくらい応援してほしい」


「代理人の性格によります」


「嫌な予告だな」


 代理人。

 俺の外側にいて、でも俺の主張を出せるやつ。

 俺の口になる。

 ログを読める。

 文章で線を引ける。

 運営側とも、俺とも、少し距離がある。


「……いないな」


「います」


「いるのかよ」


「一人、適任がいます」


「嫌な予感がする」


 作業板の端に、候補者一覧が開いた。



【代理人候補】

条件:

・文章で線を引ける

・対象者本人と処理レーンの双方に距離を取れる

・請求人側の発話を担える

・ログを読める

・不利な資料も見られる

・面倒でも範囲を書ける

・対象者本人を甘やかさない



候補:

《黒煙の牙》グレン



「グレンかよ!」


「はい」


「もっと優しいやつとかいないのか」


「優しいことは条件に含まれていません」


「含めてくれ」


「却下します」


「お前が却下するのかよ」


「候補選定補助ですので」


 俺は候補者名を見ながら、ふと別の名前を思い浮かべた。


「シグレは?」


「ギルド《灰色の工房》代表、シグレですか」


「そう。あいつ、ログの見方とか、運営の言い回しの危なさとか、かなり読めるだろ」


「読めます。能力的には、候補に入ります」


「なら」


「ですが、本件では推奨しません」


「なんでだよ」


「シグレは、灰色の部分を読むのが上手い人物です。今回必要なのは、そこではありません」


 アイは、グレンの名前を指した。


「今回は、外部ツール使用者扱いを正面から争う必要があります。異常周回をした事実と、不正扱いを分ける。キャラ凍結、報酬除外、管理空間仮収容も別々に整理する」


「シグレだと、抜け道探しになる?」


「その危険があります」


「でも、勝てる線は探せそうだけど」


「探せます。ただ、その線が細くなりすぎます。今回、最初に必要なのは細い抜け道ではなく、太い争点です」


「太い争点」


「はい。“そこは認めろ、そこは争え”と言える人が向いています」


 俺は、シグレの顔を思い出した。


 ござる口調。


 妙な軽さ。


 でも、こちらの危うい言い方を一瞬で見抜いた目。


 たしかに、あいつならログの隙間を読むだろう。


 ただ、俺の件で今やりたいのは、隙間をすり抜けることではない。


 外部ツール使用者扱いを外すこと。


 異常周回をした事実と、不正ツール疑いを分けること。


 キャラ凍結や報酬除外を、それぞれ別に見ること。


「シグレは、あとで聞くのはありか?」


「参考意見としては有用です」


「代理人じゃなくて?」


「はい。灰色に見える部分を、灰色のまま放置しないための意見としてなら」


「なるほど」


「ただし、あなたの口になる者としては、グレンの方が適しています」


「俺の口になるのに、俺を殴ってくるやつが適してるのか」


「はい」


「最悪だな」


「必要です」


「最近そればっかりだな」


「必要なものが多いので」


 俺は、もう一度候補者名を見た。



《黒煙の牙》グレン。



 優しくない。

 たぶん、俺の嫌なログも読む。

 俺が言いたくないことも書く。

 俺が混ぜたいものを、容赦なく分ける。

 だからこそ、向いている。


「……知り合いではある」


「はい」


「仲間ではない」


「はい」


「そこ即答する?」


「正確ですので」


「でも、だからいいのか」


「はい」


 俺は、代理人候補の横にあるボタンを見た。



【代理人申請を送信しますか?】

【はい/いいえ】



「これ、出しただけでは通らないんだよな?」


「はい。相手が受ける必要があります」


「そこは学んだ」


「成長しています」


「褒めた?」


「はい」


「記録する?」


「必要ですか?」


「いや、いい」


 俺は少し迷ってから、【はい】に触れた。



【代理人申請】

対象者本人:あなた

代理人候補:《黒煙の牙》グレン

範囲:一時停止に関する主張提出、資料確認、反論作成補助

注意:

代理人は対象者本人に不利なログを確認する場合があります。

代理人は対象者本人の言い分をすべて正しいものとして扱う義務を負いません。



「待て」


「はい」


「不利なログも見るのかよ」


「見ます」


「俺に不利なものまで?」


「はい」


「せめて、そこはもっとオブラートに包んでくれ」


「代理人は、見ないふりをする者ではありません」


「名言っぽい」


「必要な整理です」


 俺は申請文の注意欄を見つめた。


 不利なログも見る。


 俺の言い分を全部正しいとは扱わない。


 それは怖い。


 でも、たぶん必要だ。


「送ったぞ」


「はい」


「返事、すぐ来るかな」


「高確率で来ます」


「なんで」


「グレンですので」


「理由になってるのが嫌だな」


 数秒後。


 通知が来た。



【返信】

メッセージを見た。

資料も見た。

まずは説明しろ。

それと、受けるとは言ってない。

黒煙の牙 グレン



「早い」


「はい」


「怒ってる?」


「標準です」


「標準かあ」


 俺は、届いた返信を見つめた。


 受けるとは言っていない。

 でも、読んではいる。


 それがもう、十分にグレンらしかった。


【アイの補足メモ】


 今回から、内部救済ルート編に入ります。

 これまでは、彼が管理空間の補助者として、他人の案件を処理する側にいました。


 中央広場の表示。

 レムナント・ラボの公表。

 倉庫ログの確認範囲。

 イベント受付フォームの整理。


 どれも、基本的には「処理する側」としての仕事でした。

 しかし、ここからは少し違います。

 主人公自身の一時停止について、何が疑われ、何が止められ、どの状態が続いているのかを確認していきます。


 そのため、彼は処理側の席に座れません。


 自分の案件を、自分で編集し、自分で理由を直し、自分で取り消すことができません。


 また、今回は私も、いつものように隣に立つことはできません。


 提出された資料を伝えることはできます。

 記録を歪めないこともできます。

 ただし、代理人にはなれません。


 ユキも同じです。


 ユキは、審理整理担当として、主張や資料や争点を整理する役には向いています。

 しかし、処理側の席にも、請求人側の席にも座りません。


 そこで必要になるのが、代理人です。


 代理人は、応援団ではありません。


 本人の言い分をすべて正しいものとして扱う者でもありません。

 本人に不利なログを見ないふりをする者でもありません。

 本人の外側から、何を争うのかを整理し、必要な資料を確認し、主張を出す者です。

 今回、その候補として《黒煙の牙》グレンが出てきました。

 優しいかどうかは、選定条件に含まれていません。


 以上です。


 詳しい整理は、次回のあとがきで行います。


 なお、救済ルートは、気持ちを叫ぶ場所ではありません。


 気持ちを、通る形に直す場所です。

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