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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第2章 内部救済ーDo Electric Sheep Dream of Grace?ー

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22/45

出しただけです。通ったとは言ってません(後編)

 受付と許可を分ける。

 

 届出と申請を分ける。

 

 協力依頼と命令を分ける。


 面倒くさいが、その面倒くささが必要な場面はある。


「では」


 アイの声で、俺は現実に戻された。


「あなた自身の件に戻ります」


「戻らなくていい」


「戻ります」


「今日、もうけっこう働いたぞ」


「関連します」


「その言葉、嫌いになってきた」


 アイは、新しい作業板を開いた。



【あなた自身の一時停止:入口分類確認】



 俺は、思わず姿勢を正した。

 そこに並んでいた項目は、予想以上にひどかった。



【初期検知タグ】

外部ツール使用疑い

【処理入口】

緊急保全停止

【通知文】

利用規約違反の疑いによる一時停止

【内部メモ】

異常周回パターン

【派生処理】

プレイヤーキャラクター凍結

【追加状態】

管理空間への仮収容

現場改善補助権限の付与

【再確認】

予定あり

実施記録なし


挿絵(By みてみん)


 俺は、しばらく黙った。


「……多くない?」


「多いです」


「これ、全部同じ箱に入れていいやつか?」


「よくありません」


「だよな」


 外部ツール疑い。


 異常周回。


 緊急保全停止。


 キャラ凍結。


 管理空間への仮収容。


 補助権限の付与。


 それぞれ、意味が違う。

 外部ツールなら、不正を疑われている。

 異常周回なら、仕様の穴を突いた使い方の問題。

 緊急保全停止なら、世界側を守るための一時的な措置。

 キャラ凍結は、プレイヤーとしての状態に直接触る。

 管理空間への仮収容は、もはや普通の停止と呼べるのかも怪しい。

 補助権限の付与に至っては、罰なのか仕事なのか分からない。


「俺、BANされたんだよな?」


「一時停止です」


「でもキャラは凍結されてる」


「はい」


「それで管理空間にいる」


「はい」


「さらに働かされてる」


「補助権限を付与されています」


「言い方」


「正確ですので」


「これ、受付済みと許可済みを混ぜたとかいうレベルじゃなくないか?」


「はい。複数の処理入口が混在しています」


 アイは、作業板に赤い線を引いた。


【分ける必要があるもの】

一、何を疑ったのか

二、何を止めたのか

三、誰に何を通知したのか

四、どの状態をいつまで続けるのか

五、再確認を誰がする予定だったのか

六、管理空間での現在権限は何に基づくのか


「やること多いなあ……」


「はい」


「そこは否定しろ」


「今回は多いです」


「認めるな」


 俺は、さっきのイベントフォームを思い出した。

 出しただけなのか。

 届出完了なのか。

 確認中なのか。

 条件付きで許可されたのか。

 不許可なのか。

 入口を分けなければ、後ろの処理が全部歪む。

 俺の件は、その歪みが人間一人分に積み上がっている。

 いや、人間と言っていいのかは分からない。

 元プレイヤーで、今は管理空間の補助役。

 自分のキャラは凍結中。

 自分の処理は再確認予定。

 そして、その処理に自分が関わりかけている。


「……変な状態だな」


「はい」


「即答かよ」


「変な状態ですので」


「言い方」


「正確ですので」


 作業板の下に、新しい通知が出た。



【再確認準備】

あなた自身の一時停止について、処理入口の再分類が必要です。



 俺は額を押さえた。

 今日やったことを思い出す。


 小規模開催届。

 広場利用申請。

 特別演出許可申請。

 受付済み。

 届出完了。

 確認中。

 許可。

 不許可。


 出しただけでは、通っていない。

 受け付けたことと、認めたことは違う。

 入口が違えば、出口も違う。

 そして俺の件は、入口からぐちゃぐちゃだった。


「アイ」


「はい」


「これ、俺のキャラ、すぐ戻るやつじゃないな」


「はい」


 少しだけ、管理空間が静かになった。


 その答えは分かっていた。


 でも、言葉にされると重い。


「ただし」


 アイが続けた。


「分類をやり直すことで、少なくとも何を争うべきかは見えます」


「何を争うべきか、か」


「はい」


「俺は、不正ツールを使ってない」


「その主張は、一つ目です」


「異常周回はした」


「その整理は、二つ目です」


「仕様の穴は突いた」


「その評価は、三つ目です」


「キャラ凍結は納得してない」


「その不服は、四つ目です」


「働かされてる件は?」


「別枠です」


「別枠かよ!」


「混ぜると揉めます」


「もう揉めてるだろ、俺の人生」


「見える場所で揉めています」


「便利フレーズにするな!」



 管理空間の白い天井に、俺の叫びがまた吸い込まれていった。



【アイの補足メモ】


 今回は、前後編を通して「入口」と「状態表示」の話です。


 前編では、中央広場イベント受付フォームを扱いました。


 問題になったのは、「受付済み」という表示です。


 受付済みとは、出されたものを受け取った状態です。

 それだけで、実施できる、許可された、条件が整った、という意味にはなりません。


 ここで重要になるのが、届出、申請、許可の違いです。


 届出は、一定の事項を相手方に知らせる手続です。

 必要な事項がそろっていれば、基本的にはそれを前提に行動できます。


 今回でいえば、ひよこ商会の初心者露店市がこれに近いものです。


 場所、時間、連絡先、通行配慮などが記載されており、危険演出や大きな通行制限もない。

 そのため、小規模開催届として必要項目が確認されれば、「届出完了」として扱えます。


 一方、申請は、相手方に対して何らかの判断を求める手続です。


 出しただけでは足りません。

 運営側が内容を確認し、許可するか、不許可にするか、条件を付けるかを判断する必要があります。


 雷鳴劇団の空中花火競走会は、こちらです。


 大型花火。

 飛行演出。

 観客配置。

 広場上空の利用。

 通路の一時封鎖。


 これらは、単に「やります」と知らせれば足りるものではありません。

 広場利用申請、さらに特別演出許可申請として扱う必要があります。


 つまり、同じ「イベントを出す」でも、法的な入口が違います。


 届出なのか。

 申請なのか。

 許可が必要なのか。

 条件付きなら可能なのか。

 現内容では不許可なのか。


 ここを分けないと、「受け付けたこと」が「認めたこと」に見えてしまいます。


 今回の中央広場フォームは、まさにそこが混ざっていました。


 入口を一つにして、まず迷わず出せるようにする。

 この考え方自体は悪くありません。


 しかし、受けた後の状態表示まで一つにしてしまうと、届出も申請も許可も混ざります。


 便利な入口と、雑な処理は違います。


 入口は広くてもかまいません。

 ただし、受けた後は分ける必要があります。


 受付済み。

 届出完了。

 確認中。

 許可。

 不許可。


 このように状態を分けることで、初めて「今どこにいるのか」が見えるようになります。


 後編では、この話が主人公自身の一時停止に返ってきました。


 主人公は、自分の状態を大まかに「BANされた」と理解していました。


 しかし、実際には複数の処理が混ざっています。


 外部ツール使用疑い。

 異常周回パターン。

 緊急保全停止。

 利用規約違反の疑いによる一時停止。

 プレイヤーキャラクター凍結。

 管理空間への仮収容。

 現場改善補助権限の付与。

 再確認予定あり。

 実施記録なし。


 これらは、すべて同じ意味ではありません。


 外部ツール使用疑いは、何を疑ったのかという問題です。


 異常周回パターンは、どの行動を問題視したのかという問題です。


 緊急保全停止は、世界側を守るために一時的に止めたという入口です。


 キャラクター凍結は、プレイヤーとしての状態に直接影響する処理です。


 管理空間への仮収容は、通常の一時停止とは別の状態です。


 現場改善補助権限の付与に至っては、不利益なのか、業務なのか、協力なのか、命令なのかを分ける必要があります。


 つまり、主人公の件では、複数の処理入口が一つの箱に押し込まれていました。


 何を疑ったのか。

 何を止めたのか。

 誰に何を通知したのか。

 どの状態をいつまで続けるのか。

 再確認を誰がする予定だったのか。

 管理空間での現在権限は何に基づくのか。


 これらを分けなければ、何を争えばよいのかも分かりません。


 ここが大事です。


 救済手続では、「不満がある」だけでは足りません。


 何に対する不服なのか。

 どの処理を取り消してほしいのか。

 どの状態を解除してほしいのか。

 どの理由が誤っているのか。

 どの手続が足りなかったのか。


 そこを分ける必要があります。


 主人公の場合、


 不正ツールを使っていない、という主張。

 異常周回はしたが、それをどう評価するかという整理。

 仕様の穴を突いたことを、どこまで責任と見るかという問題。

 キャラクター凍結への不服。

 管理空間に置かれていることの根拠。

 補助権限を付与されて働いていることの位置づけ。


 これらは、混ぜてはいけません。


 混ぜると、揉めます。


 すでに揉めていますが、見える場所で揉めることには意味があります。


 分けることは、面倒です。


 しかし、分けなければ、争点も、理由も、出口も見えません。


 今回の前後編を一言でまとめるなら、こうなります。


 出しただけでは、通っていません。

 受け付けたことと、認めたことは違います。

 入口が違えば、出口も違います。


 以上です。


 なお、「あとで分ける」は、たいへん危険です。


 本当にあとで分ける場合は、少なくとも、誰が、いつ、何を、どこまで分けるのかを記録してください。


 記録のない「あとでやる」は、だいたい未来の誰かに刺さります。


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