第9話 おんしつ
パパは一分くらい考え込んでいた。
「……ルルカ、フィーが何かするときは必ず傍にいて転倒しないように補助してくれ」
ルルカは首を少しだけ傾げて肯定した。
私も三歳の記憶なんて遥かかなただから、今の自分の身体で何ができるか、できないか、よくわかんないよ。まずはルルカと意思の疎通ができるように頑張ろう。
さて、パパはお仕事をするだろうし、私は何をしようかな。お昼は簡単にするにして、まずは家の周りを確認したいかな。
森の中だからお散歩は出来なくても、お庭で過ごすことは出来るでしょ。全体的にボーボーっぽかったけどね。
「おひるまでおにわにでたいでしゅ」
「ん?薬草畑と温室くらいしかないよ」
え、薬草畑と温室があるの?私には見えなかっただけで育ち切った雑草の向こうはちゃんと整えているのかな。
「……ならば、いっしょに行こうか」
パパは私を抱きあげて、玄関とは逆に向かった。ルルカとアルノー、ピエールもついてくる。
裏庭には大きな薬草畑があった。表から見える庭はボーボーだったのにお仕事用の素材はちゃんと管理しているんだね。当たり前か。
「ここは基本的には触らないでくれ。棘で怪我をしたり、かぶれたりするからね」
「はい」
「ア゛ー、イヤネェ」
パパは薬草畑を一周して「不具合は出ていなかったな」と一人頷いていた。
そのまま奥の温室に向かう。畑に比べたらごじんまりとしているけど、作りは華やかでかわいい温室だ。アルノーとピエールは温室には入らずに外で過ごすって。
「フィー、ママの好きな花たちだよ。ママはここでフィーとお昼寝をするのが好きだったんだ」
中にはオーキッド、カメリア、ローズと白いお花がいっぱいだった。
「ママ、しろいのがすきでしゅか」
「そうだな。ママは気品のある華やかさある白い花が好きだよ」
……パパは過去形で言わないんだね。まだ過去の思い出になってないの……
私の中には朧気な姿しか残っていないけど、パパの中にはまだ生きているママがいるんだ。ママ……幸せだね。
前の私はついに結婚せずじまいで。若いころは浮気されまくったから、一途な男の人、いないと思ってたよ。ママ、ちょっとうらやましいね。
「あれはママがフィーとともに年を重ねられるようと植えたブルーローズだ。フィーの瞳の色のような花が咲くよ」
他はしっかりとしたサイズなのに、そのブルーローズだけはまだ一メートルくらいの背丈だった。その横にはティーテーブルがあって、飾られているガラスケースの中にピンク色の花束と水色のリボンが……
「パパとママでしゅね」
「フィー……そうだね。あの花束はパパが結婚の記念に贈ったんだよ」
この温室は、パパとママの大事な場所だね。綺麗なお花と香り、陽光に包まれて温かい気持ちになるけど、……ちょっと切ない。
「ママの心はいつもここにある。フィーもママに会いたくなったらここにくるといい」
パパはここで幸せに包まれるのか、悲しみに包まれるのか……
ママとパパのこと、いつか話してくれるかなぁ。
なんでこの森で暮らしているのかとかもね。
お昼ご飯はみんなで家に戻って、パパにはチーズをのせて焼いたパンを。そしてお野菜を蒸したものにした。
私はつぶした果物を混ぜていれただけのジュースを。お腹が空いてるのにたくさんは食べられない。子供の身体は不便だね。
アルノーとピエールには魔獣屋さんが用意してくれた、生肉……。
「パパ、フィーはおにわでアルノーたちとあそびましゅ。おしごとしてくだしゃい」
いくら私が子供でもパパはお仕事があるからつきっきりはダメでしょ。
「む……」
パパはちょっと考えてからルルカを傍に呼んだ。
「〈再構成〉」
ルルカに向けて何かつぶやいたらルルカはグニョンと融けた。
「ええーーーーー!!」
「ア゛ッア゛-」
なんとルルカは銀色のスライムになってグニングニンと変な動きをしてから大きくなって……おっさんになった。
「…………えぇ……」
いやぁ……美形ではあるのだけど、身体がごついオッサンになっちゃったよ。
この顔もパパの知っている人をもとにしているのかな。
「うむ、外で遊ぶなら護衛が出来るようにならないとだ」
パパは会心の出来のような顔をしているけど、はっきり言ってもいいかな。
むさい。
「パパ、フィーはもとのルルカがいいでしゅよ」
「ア゛ァ゛ーー、ダメヨー、ネー」
せっかくかわいいメイドさんだったのに、ゴリゴリのマッチョに変身って。
『極端な思考だな』
ルルカがママに似てるのは私を寂しくしないため。
ゴリゴリのオッサンは安全に過ごすため……
でも学習しないと護衛出来ないんじゃって思ったら、基本的な生活補助、危険回避、警護なんかはインプット済みなんだって。
しゃべったり、料理をしたりは思考的な要素がいるって。
うーん。ホムンクルス……AIとは違うんだね……




