第38話 ふるいこな
ピエールの声で慌ててやってきたパパに、麦芽糖とクリープを使っていいか聞いた。
「ん……何かに使えるのか?それは古いから新しいのをだそう」
一瞬眉をしかめる程度には古いみたい。ちょっと舐めちゃった。
ピエールはガーンって顔をしているけど、そんなにデリケートじゃないよね。ちょっとやそこらではお腹壊しそうにない……
見つけたのはもったいないから、庭の畑に撒こう。栄養になるでしょ。
「棚を全部確認するのかい?」
パパはピエールが散らかした壺と私がルルカに並べてもらった壺を見て聞いてきた。
「ごはん、おやつ、つかえそうなもの、さがしたいでしゅ」
「そうか。だが知っての通り食事に興味がなかったからそこまで揃っていないんだ」
それねー、食事に興味がないなんて私の理解できないことだよ。
「アニーがママの食事や自分のまかないに使っていたものが残っているだけだ」
なるほどー。でも麦芽糖とクリープはパパが適当に置いたんだろうねぇ。
「ママ、ごはん、つくらないでしゅか?」
「ん、ママもパパも実家では厨房に入ったことはなかったからなぁ」
あ、やっぱお金持ち……この世界だと貴族とかそんな感じかな。アニーを雇って家事を任せていたってことか。
「ママも私も自分たちだけで暮らせるようにと試しにいろいろやってみたことはあるけれど、洗濯も調理も向いてなかったからな」
パパは今は私と作れてるから学ぶ気が無かったとかでしょ。
「アニーはママのためにセシルがよこしてくれたんだが、基本的に人を入れたくないんだ」
パパとママの生活力の無さにアニーを無理やりよこしたらしい。
セシルさんとリカちゃんはお友達だから来るのは良いとして、家事と私の世話を任せる女手は入れたくないから、ルルカを造ったみたい。
「パパ、人がきらいでしゅか?」
ちょっと思っていたことが口に出ちゃった。
「……」
パパを見上げると、ちょっとシニカルに笑ってた。
「そうだな……ママ以外は嫌いだな。フィーは宝物だぞ」
私をひょいと抱き上げてギュッとした。
「いろいろあるが、人は裏切るし噓をつく。あと金が目当ての女は怖い」
完全な人間不信みたい。いろいろ……が気になりすぎる。
パパはすごい錬金術師でお金は持ってるの、確かだと思うけど……モサッとしてないパぱってすごいイケメンだから普通にモテてたと思う……
「フィーにはまだ早い話だったな、今のパパはお気楽で幸せだよ」
あーん。早くないから。いろいろ詳しく!!
……おばちゃん、そういう話は大好物なのに。
パパはそれ以上詳しく話す気がないみたいで、壺を魔法で持ち上げると汚れた床を〈洗浄〉して、移動しようとした。
「パパ、ふるいおこな、はたけにまきたいでしゅ!!」
「ん?」
私が土の栄養になると思うと説明したら、「そうだな……」って便利空間に壺を収納して、一緒に庭に向かった。
……まだ数日だから変化はないと思っていたら、けっこう育っていた。
『精霊が手伝ってくれると言ったであろう』
(そんな急成長すると思わないよ)
まだ収穫するほどではないけど、もう寸前まで育っているものが多い。
「アルノー、ピエール、何かしたのか?」
パパがついにアルノーとピエールのことをおかしい(・・・・)と判断したっぽい。何かしら気付いていても流していた気もするけどね。
「ピェ!?」
「ヴミャー」
ピエールは「え!?僕!?」みたいにビックリ顔で、アルノーは「何のことだか」的な首をかしげる感じで鳴いた。
!?
そういえば、アルノーの鳴き声を初めて聞いたかもしれない。
……ちょっと変な鳴き声でびっくり。
ただ、虚無顔で首をかしげてもあまり感情は伝わらないと思う。
「……まぁ、枯れるよりはいいか」
あ、いいの!?
パパは面倒くさがりだった。
真相を探るより受け入れることを選んだっぽい。
『精霊たちが張り切ってくれたのだ。収穫したらお菓子を分けてやると良い』
精霊も人間の食べ物が食べられるの、ファンタジーでいいね。
パパは首を傾げつつルルカに壺を渡して、全体的に粉を薄く巻くように伝えた。たくさん撒くとカビになったり、逆効果になるんだって。
薬草畑を管理しているだけあって、詳しいのだった。
粉が風で飛んできて、アルノーがくしゃみした。
「ぶしっ!!」
……虚無顔が崩れるとそうなるんだ……




