第35話 ヘニョっとしたえがお
置いてきぼりにされたダリルくんは全部食べて、お皿を片付けてからパパと私にもつ煮の作り方を教わりたいと言った。
「いつでも食べられるように覚えるのは良い選択だ」
「もちゅは、じかんかかりましゅよ」
何回も湯がいて臭みを消してから、煮込んで数時間寝かすのだと説明したら、お口がパカーンとしていた。
「薪をたくさん使うんだな」
なるほど。薪がいっぱいいるのは大変……って家は魔道具だよね?これ。
「リカルドなら魔道コンロも持っているだろう?」
これは魔道コンロっていうのか。石窯オーブンもそんな感じだよね。
「母さんが薪の方が調整しやすいからって」
チャーハンの強火的なこだわりが!?
ベラさん、気になるよね。早く会ってみたいね。
「ふむ。薪は買うにしても集めてくるにしても大変だ。リカルドにいいコンロを買わせると良い」
「……父さんが薪割りが体力作りにちょうどいいって」
リカちゃん、脳筋だった。
「あれは身体を動かしていないと死ぬのか……」
パパがあきれた声を出したけど、一晩中、お仕事しているのも同じなんでは……
「もちゅ、にる、たいへんでしゅ。まどーコンロべんりでしゅよ」
ルルカが全部やってくれるからとても助かる。
ダリルくんやベラさんが作るとしたら結構大変だと思う。
「父さんのコンロを借りてやるから教えてくれ」
ダリルくんは真剣なまなざしだ。ダリルくんもおいしいものに目がないのね。
そんなわけで、パパが貯蔵庫から内臓を出してくれた。他にも残っていたのか……
塊肉はまだ食べられなくても煮込んだタンやヒレなら食べられるかもなぁ……でも味付けがまだまだ。シチューとかデミグラスソース、ワイン煮込み、みそ煮……
お肉、いっぱい食べたいよー。焼肉、焼き鳥ーーー。
私が悶えている間に、パパとルルカが材料を切り分けて準備をしている。
ダリルくんはやっぱりメモを取ってる。
「君は商人やギルドの事務方を目指しているのかい」
「俺は……毎日帰れる仕事に就きたいです」
ん?ダリルくんはちょっと顔をしかめて言った。
「リカルドが冒険者だからか」
あー、毎日帰ってこなれない父親を見ているから……寂しいのかな。
だが事務系でもブラックな職場だと定時に帰れないしなんなら午前様になるよ……この世界、定時という概念があるのか知らないけど。
「父さんのこと、かっこいいって思う、でも……」
うーむ。寂しいのとベラさん思う気持ちと半々かなぁ。
でも冒険者の妻ってわかってて結婚してるだろうし、リカちゃんもダリルくんもお互い思いあってるって感じだから、ベラさんもきっとそんな感じと思う。
母親が家でブチブチと文句を言ってたら、息子も父親を嫌いになってそうだしね。
「将来を決めるのはまだ先でいい。だがそのマメな性格はギルドでも商店でも重宝される。学ぶ姿勢が良いのは才能だと思うぞ」
それ!!
パパが褒めるとダリル君は少し顔を赤くした。
「ま、リカルドのことだ。剣や魔法も教えているのだろう?」
「魔法は母さんのがうまいです。生活魔法ですけど」
む、ベラさんの情報が増えた。お母さんのことを話すときのダリルくん、ヘニャッて顔になるのリカちゃんに似てる!!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!クソッタレーー、イッテェコラーー」
ダリルくんのデレに和んでいるなか、ピエールの鳴き声が響いた。
「いってぇって、やめろ」
ピエールに頭を突かれて、アルノーにお尻を嚙まれての姿でリカちゃんが戻ってきた。
『こやつ、私の肉を食いたいとぬかす。狩勝負で互角だったので少しだけ分けてやっても良い』
アルノーがとても渋々といった風情で話す。虚無顔からは読み取れないけどかなり不本意そう。
って互角だったのにお尻を嚙むのか……
「イヤーーン!!バカヤロガーーーー」
ピエールがキツツキみたいになってるけど、何をしたの……
「おい、ダリル、レイ、コッコ鳥を捕まえてきたぞ。俺が一番デカいのを獲った」
『僅差ではないか……』
「ア゛ア゛ア゛ーーーー」
負けず嫌いのプライドがうずいてるのか……
コッコ鳥?
リカちゃんとアルノーとピエールが玄関先でどどーんとマジックバッグの中身をだした。
なんかめっちゃ怖い顔をしたダチョウと七面鳥のあいの子みたいな鳥がデレーンと首を垂らしてる姿……
全部で十羽……狩りすぎーーー
ついでのように牛と鹿まで狩ってきてる。
「……リカルド、解体はしてくれるのだろうな」
パパが「うわぁ」って顔をして、ダリルくんはちょっとうれしそうな顔をした。
焼き鳥、手羽先、からあげ……食べたいけど……私の分はつくねにするしかないかなぁ。
「みんなでやればすぐだろう!!」
ニカッと笑うリカちゃんにパパはイラっとしたらしい。
パシーンと頭をはたいたよ。




