第二話 街
お家の外は森の中だった。
パパの胸の中から見た我が家は外国の田舎にあるような雰囲気の二階建てのほっこりした感じの家。
どうやって街に行くのかと思っていたら、パパが何かをつぶやいて急に浮遊感に包まれたと思ったらさっきとは別の景色の中にいた。
唐突に人の声のざわめきが聞こえてきて、他人の暮らしの気配を感じた。
「パパ……魔法?」
街の中の裏道っぽい場所に出たらしい。
「ああ、〈転移〉したんだ。ここはウチから一番近いシストという街だよ」
パパは私を抱っこしたまま、表に出てスタスタと歩く。
……パパがイケメンだから目だったりしないかとちょっと心配だったけど。特に目立っていないみたい。通りすぎる人の髪の色がカラフルだからパパの水色は目立たないのかな。
「食事の前にちょっと寄るところがある」
えー、お腹ペコペコだよぅ。
パパの寄り道は魔道ギルドの建物に行くことだった。
「ぉ、珍しいな。レイ……あれ?子供連れてるのか」
カウンターに座っていた男性が声を掛けてきた。
「あぁー、アニーさん亡くなったんだったか……」
どうやらパパとはお付き合いのある人のようだ。
「ダズ、すまないが現金を下ろしたい」
「お?」
……パパ、今現金を持ってない状況なの??ここでは現金無しで暮らせるの??
「いくらだ?細かい方がいいのか」
「そうだな、食材を買ったりしたい」
ダズと呼ばれた……オジサンじゃなくて若いのかなぁ、……ダズさんはカウンターの後ろに行ってすぐに革袋をもって出てきた。
「とりあえず金貨一枚分を壊したものと金貨三枚入れてある」
「金貨?」
「お嬢ちゃんが外に出るようになったなら服も靴もいるだろうが」
パパが首を傾げたらダズさんが呆れたように言った。
「ぁあ……、靴か。なるほど」
靴って金貨がいるの?って言うか金貨っていくらの価値なのかしら。
「服がいるなら大金貨を百枚くらい出してもらおうか」
「どんな服を買う気なんだよ!!」
ダズさんがズルっとコケてから叫んだ。
「妻のドレスは金貨三百枚とかだったぞ。フィーにもかわいい服をたくさん買いたいからな。靴も併せて買うだろう」
パパば大真面目にいうけど、ドレスってなんで。森の中でパーティーでもするのかなぁ。って大金貨はいくらなのーーー。
「ほんと、どうやって生きてきたのか不思議だよ、お前……」
ダズさんが心底呆れた声をだしてまた裏に戻って革袋を一つ持ってきた。
「金貨十枚だ。この街では大金貨を使うような衣装屋はないから十分足りる」
「む、そうか」
パパは中身を確認しないで腰のポーチに革袋をしまった。
「レイ、そういえば、ポーションは持ってきているのか?」
ポーション!?
「ああ、ついでだから出しておくか……」
パパは私を近くの椅子に座らせてからカウンターに手をかざした。
トントントンっと突然空中に現れた木箱が積みあがっていく。
「……おー、随分あるな」
「先月セシルが増やしてくれと言っていたからな」
ダズさんが書類を出して本数と種類を書き込んでいる。セシルさんとは誰のことだろう。
「ぐぅ……」
「む、いかん、フィーの食事が最優先だ。あとの確認はセシルに任せておいてくれ」
私のお腹が切なく泣いたのでパパは私を慌てて抱き上げた。
「お嬢ちゃんの食事?なら向かいの〈小鳥の羽〉に行くといい」
「……わかった。ありがとう」
そんなわけでパパは駆けるようにして外に出てすれ違う人を驚かせつつ、進んだ。見知らぬ人、うちのパパがなんかごめんなさい。
〈小鳥の羽〉は似たような建物の並びの中、かわいい看板を掲げた食堂だった。
「いらっしゃいませ」
元気な声で出迎えてくれたのは犬耳のふくよかな女性の店員さんだった。
おおおおおお、ホムンクルスとかパパの魔法でなんとなく分かっていたけど、ファンタジーな世界だぁ。ケモミミー。
私は最近の漫画とかあんまり知らないけど古のオタクなので少しはわかるよ。
「あら、かわいいお嬢さんね。こちらにどうぞ」
店員さんは日当たりのよい窓際のテーブルをすすめてくれた。
時間がずれているのかほかにお客さんは二人しかいない。
「何にいたしましょうね」
「私は野菜スープでこの子には柔らかいものを」
私はお肉とか食べたいけど、お家での食事がドロドロの汁だったから多分まだ固形物は食べられない程度の子供だ。悲しいー。ひもじさを解消できる食べ物ください。
「まだ固形物はダメかしらねぇ。ちょっと待っていてくださいな」
店員さんは少ししてパパのスープと私にはパンをひたしたシチューとお芋のつぶしたものを持ってきてくれた。
「おじょうさんは自分でまだ食べられないでしょうから私が介添えしましょうか?」
「いや、私がやろう」
パパってばお家ではアニーやルルカに私のお世話を任せっぱなしだったのに急にやる気になっているみたい。
「パパ、はやくでしゅ」
一刻も早く、お腹を満たしてほしい。
「ふーふーをせねば、だろう?」
「ぬるめにしてございますよー」
パパが生真面目にふーふーをしようとしたら店員さんが笑いながら教えてくれた。
「ん……」
パパがちょっとぎこちなく木製のスプーンを私の口元によせてくれた。
やっとごはんだー……!!




