第1話 フィー、覚醒
……
とてもお腹が空いた……
…………あー……焼き肉、たべたいなぁ。
お昼食べ損ねた……明日の日替わりランチどこにしようかな……
「っぁぐぁ!」
おいしいものをいろいろ思い浮かべていたら、突然口に押し込まれたドロドロの不快な味で我に返った。
「!!!!!!!!!??????」
口の中がカオスすぎて、入ってきたものをとっさにげふっと吐き出してしまう。
何をするんだと目の前にいる私になにかを食べさせた人を睨む。
えーーーー??若くてかわいいメイド服の少女っ??
って、うちにメイドなんているわけない。
パニックである。
そして部屋に漂う謎の匂い。
急激に現状確認な記憶が頭に流れてきて、私は泣くしかできなかった。
私はどうやら死んでしまったらしい。
お昼を食べ損ねた日、残業帰りにうっかり転んで頭を打ってコロリ……なんて残念な死に方ーーー。長時間苦しまなかったならアリ?
でもでも、次のお休みにはライブに行く予定だったし、友達とヌン活も……
「うぁぁぁあんーー」
未練がありすぎるぅ。
「フィー!?どうしたんだい??」
隣からガサガサっという音とともに出てきた人にまたビックリ。
「……クッサーーーーーーいでしゅ!!!!!!!!」
出てきた人は水色の髪のモッサモサの悪臭の塊だった。
「……くさいれしゅ」
この人は、今の私のパパ。お部屋に籠りすぎて人権を失ったみたいです。
「む!?」
モサモサの人が「洗浄」とつぶやくと匂いはきれいさっぱりと無くなった。
「すまない」
ってこれって私も臭いのかも!?びっくりして立ち上がろうとして立ち上がれずにコテンと後ろに倒れた。
なぜか目に入った手足が小さい。姉の子供のような……
「んにぁーーーーーーーーーー!!!!!」
生まれ変わった、までは理解できても自分のサイズにびっくりした。
「……フィーがしゃべった!?」
私が自分の身体に驚いていたらモサモサした人も驚いていた。私、さっきからしゃべってたと思うの。
って言うか、45歳だった私、また子供からやり直しってどんな罰なの……
記憶なんて持たずに生まれ変わった方が幸せじゃない?
あれ?従兄弟の子が見てた異世界転生的アニメな話なの??
そういえばパパとメイドの髪がアニメチックすぎる。
「……ぁぁ、子供の成長はうれしいものだな」
パパはなんかしみじみと感じ入っている。髪と髭がモサモサで表情はわからないけど、人の気も知らないで感激しないでほしい。
ぐぅぅぅ……
「「!?」」
盛大に私のお腹が鳴った。そうだった。私は今とてもお腹が空いている。とにかく何か食べたい。
「ごはんをくださいでしゅ!!!!」
私は思わずパパに要求した。とにかくひもじい。
「このスープで栄養は採れているはずなのだが……」
「っの、ばかちんがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず叫んだよね。
口に入ったものはシリアルバーみたいなものをミルクでしゃびしゃびに煮たスープだったらしい。
そして……私にスープを飲ませてくれたメイドは私の記憶の中ではママにそっくりなのにママじゃない。
「……ママじゃないの」
傍に控えていたかわいらしい存在は記憶にある母の姿をしているのに、この人が母親ではない人を私は知っている。ママは私がもっと小さなころに亡くなった。
「フィーは賢いな。これはルルカ、私が作った最高傑作のホムンクルスだ。フィーが寂しくないようにママの若い時をデザインしてみたんだよ」
「ほむんくるしゅ?」
錬金術師のアニメ、見たことある。あれのこと?
「……」
ママに似せた……もしかしてパパ、変態かな。
じっと見つめる私の視線で何かを察したのかパパはあわてた。
「けっして邪な気持ちで作ったわけではないぞ!!」
子供に何を言い訳しているのかしら。
「……アニー……」
もう一つ、気になっている名前が口をついてでた。
……記憶の中にはメイドのほかに私のお世話をしてくれていたおばあさんがいた。彼女が私のご飯や着替え、生活に必要な介助をしてくれていたはずなのに今ここにアニーはいない。
「あぁ、フィーにはまだわからないかな?アニーは急な病で先週亡くなったんだよ。一か月前にルルカが完成していたからアニーにフィーの世話の仕方を習っていたところだったんだ。こんなことになると思っていなかったが、ルルカが出来ていてよかったよ」
アニーは年齢的に引退を考えていて、ルルカに家事育児を叩きこんでから辞める予定だったんだって。隠居直前に亡くなるとか前世の私と被って泣ける。
ルルカは行動も感情も育てていくタイプだからアニーと私のお世話の中では感情や言葉をあまり覚えられずにいたみたい。
だから無言でスープを口に突っ込んでいたのか……
「パパ、とにかくごはんくだしゃい」
「あぁー、困ったな。私はレーションで間に合うからうちに食べ物はないんだ」
何言ってんだ??レーションって鍋の横につんである硬そうな板のこと??シリアルパーっぽいものはレーションって言う名前なんだ。
それしか食べないって、この世界は地獄なの??
食べ物が発展してない世界なの?
そんな世界なら今すぐチェンジ!!!!
違う世界に生まれ変わらせて!!無理~。
「……街に下りるか」
え、街に行けば何かあるの!?良かった~。
パパは私を抱き上げてそのまま外に出ようとする。
「パパ、そのかっこうはふつうでしゅか!?おひげもしゃもしゃのふしんしゃでしゅよ」
私の姿はどうなんだろう??普通の恰好してる?
「む……?最近外に出ていなかったからどうだろう。ダメかな」
パパが何事か呪文を唱えると周りがキラキラっとしてヒゲがきれいさっぱりなくなって、髪の毛もボーボーな箒からさらさらとした綺麗な薄いブルーの髪になった。
「……パパ、かっこいいのれしゅね……」
びっくり。埃の塊のようだったパパは海外の映画に出てくるエルフのような神秘的なイケメンだった。
さっきまで悪夢のような存在だったのに。
「パパはかっこいいか?フィーもとてもかわいいよ」
甘々な顔になって私に頬ずりをする。あんなご飯しかくれないのは虐待じゃないっぽいね。
「ルルカ、掃除を頼む」
パパがそう指示をするとルルカは頷いて隣の部屋に行く。
「ルルカ、るすばんでしゅ?」
「ああ、彼女のような可愛い顔だと荒くれ者に絡まれるからな」
なんと。ならパパもおひげ残っていた方がよかったんじゃ??
「さて、フィーはこのフードを被っていこうか」
そんなわけで、ご飯を買いにお出かけです。
早く早く、もうペコペコだー。




