第17話 モサッ
私が魔法に興味を持っていることを知っているパパは「ひとりでいるときに絶対魔法を使わない」という約束でお仕事を少し見せてくれた。
魔法……パパが扱うのは錬金術。錬金術とは、膨大な知識と精密な計算、そして魔力の奔流を扱う技――そのすごさだけは、ちょっとだけ理解した。
「パパ、フィーはきれいきれいのまほう、したいでしゅよ」
生活魔法、〈洗浄〉をまず覚えたいと言ったら、それも小さいうちはダメだとパパに念を押された。
錬金術ほど緻密な計算はいらなくても、どんな魔法でも使う前に、まず身体と精神、魔力がちゃんと育つことが大事なんだって。
魔力があるからといって早く使おうとして、魔力回路を壊して魔法を使えなくなってしまった子どももいるらしい。
むむむ。便利魔法……使ってみたいよね。
でもはじけ飛んだり、将来魔法が使えなくなるのは嫌だから我慢。
パパみたいにモサッとなるのは嫌だから、錬金術じゃなくて何か……引きこもらないでいい魔法使いになりたいな。
パパの仕事を何度か観察してみて分かったのは、あのモサッは怠惰ではなく、集中力が高すぎるせいだ。
汗をかいても拭かず、鍋から立ちのぼる薬草の煙を平然と浴び続け、匂いにも成分にも一切頓着しない。
……正直、汗は拭いた方がいいし、薬品の煙を吸い込むのもどうかと思うな。
パパの観察以外は、アルノーに少しだけ魔法のことを教えてもらう。
使うのはダメだけど知識を持つのはいいことだってアルノーは言う。
そして、毎日ルルカとご飯を作る。簡単なものでもレーション汁じゃない幸せをかみしめるよ。
私に食べられるものが少ないから不便だけど、日々味変に精を出している。
調味料の棚にあるスパイスやハーブをアルノーとピエールに匂いを嗅いでもらって刺激が弱いものを選ぶのだ。
刺激が強いとピエールが「アブブブァ!!ブットバスゾ」とかいうので判断しやすくて助かっている。
でもね、「コレダメー」とか「クッサー」とかマイルドな言葉を覚えてくれるといいな。
ちなみにアルノーは受け付けない香りだと前脚で瓶を横にずらして『人とは分かり合えぬ』とか『人間は斯様な下賤な味を好むのか』とか高貴ぶってる。
瓶から漂う香りが漢方やカレーのスパイスっぽいけど、私には早いから今は追及しないよ。
もし作れちゃったら食べたいもんね。お子様カレーってどうやって作るのかなぁ。
アルノーとピエールが果物や薬草を採ってきて……お肉も獲ってきてくれるので保管庫がいっぱい。パパがため息を吐きながら〈無限収納〉に仕舞ってくれてる。
ズルズル運んできてるの大変そうだなぁって思っていたらパパは〈マジックバッグ〉を用意してそれぞれにあげた。
「ア゛ア゛ー、イイワァ、ウレシ!」
『ふむ。人間にしてはセンスが良い』
ピエールは羽を広げて首元に巻いてもらったバックを嬉しそうに私に見せてくる。
アルノーはやっぱり可愛くないことを言うけど背中のリュックを首を傾げながら確認しているよ。
いいなぁ、私も欲しい!!!!便利バッグ。
「フィーにもくだしゃい」
「フィーにはパパがついてるからまだ早いだろう?」
パパは私を抱っこしてあやす。
ぐぬぬ。一人でお出かけ出来ないから……
「おおきくなったら、くだしゃい」
「うん、可愛いのを用意しよう」
……実用的なものが良いけど。
フィー(・・・)はパパに似たのが少し残念だけど可愛いから、可愛いものを持つのがいいね。
私がもらえないのを見て、アルノーとピエールがフフンって。ちくせう。料理に君たちが嫌がった臭いの混ぜてやろうか。
翌日、セシルさんがまたやってきた。
毎日代り映えしない日々だから何日すぎたか意識していなかったけど、パパが言うには前回から一週間経っていたらしい。
「おーす。フィー、少し大きくなかったか?」
セシルさんは私を見つけてすぐさま高い高いをした。
一週間で背が伸びるわけないでしょ……食事改善してるからまさか太ったとか言いたいのかな。ぶっとばすよ。
今日は私の服とパパのお仕事の素材、そして蜂蜜を持ってきてくれたんだって。
は・ち・み・つ!!
甘いものの味が一つ増えるよ!!




