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夏サバイバル  ヒーロー最後の7日間  作者: 双鶴


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5/9

Day 4

午前9時20分。控室の床に、直哉はうずくまっていた。

腰は、もう“違和感”ではない。明確な痛み。

首は、振るたびに鈍い痺れが走る。

昨日の湿布は、すでに効かなくなっていた。


「今日、無理かもしれない」

そう思った瞬間、スタッフが声をかけてきた。

「昨日の子、また来てますよ。ヒーローに会いたいって」

直哉は、ゆっくりと顔を上げた。

“俺が出なきゃ、あの子はがっかりする”

その思いだけで、着ぐるみに手を伸ばした。


---


ステージ。

気温36度。風は止み、空気は重い。

着ぐるみの中は、昨日よりも早く蒸し風呂になる。

汗が目に入り、視界が曇る。

だが、直哉の動きは、昨日よりも“芯”がある。


悪役との戦闘。

ジャンプの着地で腰が悲鳴を上げる。

回転の途中で首が引っ張られる。

それでも、直哉はポーズを決める。

拳を高く掲げ、胸元に当てる。

“俺はヒーローだ”

その意志が、動きを支えていた。


---


ファンサービス。

昨日の女の子が、母親と一緒にやってきた。

「ヒーロー、今日も来てくれてありがとう」

直哉は、ゆっくりと膝をつき、手を差し出す。

女の子は、そっと手を握りながら言った。

「ヒーロー、ちょっと汗くさいけど…がんばってるの、わかるよ」


母親が笑いながら言った。

「この子、昨日から“ヒーローは本物だ”って言ってて」

直哉は、着ぐるみの中で目を閉じた。

汗が流れ、痛みが走る。

でも、心は少しだけ軽くなった。


---


閉園時間。

最後の子どもが手を振る。

直哉は、笑顔のポーズで応える。

腰は限界。首は回らない。

でも、ヒーローは最後までヒーローでいなければならない。


控室に戻り、着ぐるみを脱ぐ。

汗が床に滴り落ちる。

直哉は、無言で天井を見上げた。

「あと3日…か」

その声は、誰にも聞こえなかった。


---


この日、直哉は“痛みの中にある誇り”を知った。

ヒーローは、強いから立つのではない。

誰かのために、立ち続けるからヒーローなのだ。


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