護衛の騎士は見た・・と思う
気づいたら最終更新から半年以上たってました。
読んでくださってる方には大変お待たせ致しました。どうぞよろしく。
私の名前はネイト・タリスマン。
タリスマン伯爵家長男ではあるが、継承権はない。
昨年、成人を迎え現在はサタニファス国リステア騎士団三番隊所属の騎士である。
最も剣の腕に優れているというわけでもない私に先日、異世界人リー様の護衛に就くよう命令が下った。
「言いづらい発音のようなので、リーと呼んでください」
そう言って、右手を差し出した彼女の黒い瞳は真っすぐにこちらを見ていた。
差し出された手を握ると、ニッとした顔にえくぼができて目の前の彼女が幼く見えた。
「よろしくお願いします」
※※※
異世界人のリー様は、料理人だとのことで毎日毎日城の厨房へ向かい食材の前に慣れた手つきで何かを作っている。
彼女が来てから城内の食事が大幅に改善された。
まず何といっても美味な食事。正直、去年は何を食べたか思い出せないほど大変美味で食事の時間が密かに楽しみで仕方がない。
3日ほど前、四番隊が遠征でエピス鳥の群れを討伐した。縄張り争いをしていたからか去年より多くいたらしいエピス鳥をさばいてリー様にまだ食べたことがない料理を作ってくれと四番隊の副隊長が頼んだ。
「おぉ!鶏肉がたくさん!こんなにあるなら唐揚げにしましょう!」
カラアゲというものは、悪魔の食事だった。
料理中のリー様を見ていたが、大量の油を使っていてどんな料理か皆目見当もつかなかった。
そして出来上がったカラアゲというものは護衛の特権で試食した。ふふん。
見た目は地味で全体的に茶色だったが、口に入れたときのカリっとした食感。
また、口の中では肉の脂があふれアツアツで少しやけどをしたが、とても美味だった。
食材を提供した四番隊の隊員や運が良かった兵士たちも同じくあまりの美味しさにおかわりをしたがったが、リー様の
「おかわり?違う味付けで作り分ける予定ですけど、そのままでいいなら・・・」
の声で、全員で忍耐した。それはもう全員で我慢した。
唐揚げは、味付け次第でまた違った美味しさがあるのだとか・・・。リー様が何やらいくつかの味つけについて語ったが、よだれが出そうになるのでそれ以上聞くことをやめた。
我慢だ。夕食までの時間を数えるのはよすんだ。我慢だネイト・タリスマン。
忍耐した結果の唐揚げも確かに美味であったとだけ伝えておく。
ピリッとした辛味がとても好みだ。
※※※
そんな風に一日のほとんどは料理をする彼女が、現在模擬剣を持っている。なぜそうなったかと言うと、
数分前、騎士の一人が打ち合い中に剣を飛ばされた。
その剣の落ちた先がリー様の真上だった。
すぐにリー様の前に飛び出たが、メイ殿がリー様を庇う様子を見た私は意識を切り替えて落下してくる剣を誰もいない方へ弾いた。
――カキィンッ
試合を行っている彼らから十分に距離をおいて見学していたにも関わらず、剣がこちらへ飛んできた。
恐らく風魔法で勢いをつけ飛ばしてきたのだろうと考えられる。
つまり、悪意をもって行われたことだった。
それなのに、リー様はその騎士と手合わせをと希望された。
しかもメイ殿曰く、以前食堂でもめたらしい騎士とのこと。
流石にそれはと思い、メイ殿と一緒になって止めようとしたが「まぁまぁ、魔法なしなので多分大丈夫ですよ」と言って、模擬剣を借りられてしまった。
今回の二番隊と王都を守る役目を担う警備兵士団との訓練立ち合い責任者は誰かと確認すれば、選民意識が高いタイプの人間で止めるそぶりを見せない。
メイ殿に目を配ると「今、手が空いている責任者を呼んでくるよう頼みました」とリー様から目を離さずに答えた。
先ほどの動きと状況把握からやはり彼女はただの侍女のようではないなと思いつつ、私もリー様を見た。
リー様は、奇妙な動きをしてから模擬剣を握って数度振っていた。
「それじゃあ、魔法なし、どっちかが降参するかでお願いします」
リー様がそう言って剣を構えた。
両手で剣を握って構えるリー様は、思ったより違和感がないように見えた。
高く一つに結い上げているリー様の髪が風に揺られて動いた。
「はじめっ!」
審判が高くあげた右手を下ろして合図をする。
相手の騎士がその瞬間、リー様に向かって走り剣の間合いに入ったと思った時には、下から剣を振り上げた。
下からの剣がリー様の顎に当たるかと思われたが、その前にリー様が少し後ろに動いて踏み込み、さらに上に構えていた模擬剣を相手の顔に叩きつけていた。
「めェェエエーーーン!!」
謎の奇声をあげたその剣は、相手の騎士の顔真正面に当たったかと思ったが顔ではなく剣先が脳天に当たったようだ。
しかし、本気で打ち込んでいなかったのか相手の騎士には軽いダメージが入っただけの様ですぐに反撃をしようと今度は相手が剣を振り上げようとした。
「どーーーーーう!!」
と思えば、相手のがら空きの隙をついていき
相手の騎士がバランスを崩して剣を持つ手を少し下げたときには
「こてぇぇぇーーーー!!」
剣を持つ手を狙って突いた。
模擬剣でも切っ先は痛かったのか相手の騎士の手から剣がはなれてしまった。
剣を落とした―――つまり、相手の負けだ。
それが分かったリー様はペコリとお辞儀をした。
周りの野次馬と同じく呆然としていた審判がハッとして宣言をしようと口を開いた。
「勝者!!り「うぉぉおお!!!」」
怒りの形相を浮かべた相手の騎士が右手をリー様の方へかざしていた。
手のひらから魔力が生み出されるのが分かった瞬間、その向けられる先――自分の護衛対象へ防御魔法を放った。
相手の騎士が放った風魔法と防御魔法がぶつかって軽い暴発が起こって砂煙が舞う。
砂煙で少々視界が悪いが、リー様がいた場所へ強化魔法をかけた状態で走るよりも先に一線の火魔法がその方向へ向かった。
「平民風情が貴族より勝るなどありえんのだっ!!!」
「っ!!?」
砂煙ではっきりとは見えなかった。ただ、火魔法が人影に直撃したのを見た。
火魔法を放った貴族の騎士にも人影に当たったのが見えたのだろう、「ふふっ・・ふははっ!!」と高笑いをあげていた。
――のも一瞬で、
「ぐはっ!!」
高笑いをしていた騎士を背後から襲ったのはリー様付きの侍女メイ殿で、それを確認してから砂煙を風魔法で吹き飛ばしつつ慌てて人影にかけよった。何しろ直撃だ、火傷などの重傷はすぐに治癒魔法をかけなければならない。
「リー様っ!!ご無事ですかっ!!?」
「はーい、無事ですー」
元気な声が聞こえた。
正確に言えば、足元の方・・・・。
ようやく視界が開けて先ほど聞こえてきた声の方を見ると、リー様が地面に伏せていた。
じゃあ、先ほど火魔法が当たった人影は・・・とみると審判役の騎士が咳き込みつつ座りこんでいて目立つ外傷もなかった。
どういうことだ・・。あの火魔法の被害がないといのはおかしい。もしかして、他の被害者がいるのかと辺りを見回してみるもみんな、砂煙とか軽く咳き込むだけで特に目立った外傷を負った人物はいなかった。
あの貴族の魔法が失敗したというのも考えられない。確かに人にぶつかったような衝撃音は聞こえ――いや、聞こえたか?
確かあの時聞こえたのは・・・。
――――ドォォォォォンっ!!!!
「っ!!!??」
空から何かが降ってきた。何かが地面と衝突した音が聞こえ、また砂煙が舞い始めた。
視界を強化して音が聞こえた方へ顔を向ける。
「俺がいない間になんか面白いことやってんね?なぁ、俺も混ぜてくれよ?」
「!!」
砂煙から現れたのは、オレンジの髪をした20代の青年。
――――カイン・ドレークス―――
魔術師団の戦闘狂。
そして、異世界人リー様を召喚した元凶は赫の瞳を愉快そうに細めて笑った。
主人公は剣道を小学生時代に軽くかじった程度。通常の剣道は声に出しません。
数か月に何回か施設近くの道場の子供にたまに混ざっているだけで強くはないです。




