~強欲の憂鬱①~
「だぁぁぁぁぁぁーーーーもぉぉぉぉーーー!!!」
鍛治組合会長ドルフ=ベインの工房にて叫び声がこだまする。
その声の主は領主であり、この話の主人公でもあるジル=ヴァンクリフ。
彼は今、猛烈な勢いで製作に没頭していた。
「おいおい……。大丈夫かジルの旦那。」
「仕方ありませんよ。ご自分で作るって言っちゃったんですから…。」
ドルフと宰相グレイが心配する中、何を猛烈に製作しているのかというと、自分以外の魔王から要望があった品である。
傲慢なる堕ちた天使 魔王ルシフェルのヴァン=スピリタスからは、名前の由来でもある『現代の酒』と『隠者のローブ』
怠惰な乙女 魔王ヴェルフェゴールのリップ=デニムからは、服飾にで使う器具『製糸機』『織機』『足踏み裁縫機』。
暴食貴族 魔王ベルゼビュートのブレッド=グラーノからは、農具である『千歯扱』、『木摺臼』、『唐箕』、『篩』、『石挽臼』
嫉妬に満ちた少女 魔王レディアタンのアイス=ショコラからは料理器具の『オーブン』『ミキサー』等の現代料理器具。
色欲を抱く淑女 魔王アスモデウスのローズ=ダイアモンドからは、『高級応接家具』、『高級羽毛布団』『高級ベッド』『ガラス食器』等のホテル用具や夜の店で使用する大量の道具。
憤怒の王 魔王サタンのラス=ギャレットは『紙煙草』。
「あいつらー!希望の物は揃えるって言ったけど、多すぎんだよ!!」
ジルは魔王達に一人文句を言いながらせっせっと作っていた。
「道具はわかるけど、趣向品まで俺かよ!!」
「さすがに酒はヒルデの親父に頼めばいいんじゃねぇか?」
「味とかは確認しなければなりませんけどね。」
「味見ねー。それってヴァンがすりゃいいんじゃね?」
「それもそうですね。」
「とりあえず、酒に関しちゃ蔵元のハルラスに任せるか。」
「ああ、それがいいな。旦那は製作に力を入れりゃ問題ないだろうよ。」
「けど、作る物が多すぎなんだって。」
「しかし、我らが作ろうにも手伝おうにもどんな物かもわかりませんから。」
「だな。見本さえ作ってくれりゃ、後は何とでもなるしな。ジルの旦那の能力持ってる奴がもう一人いりゃ楽になるんじゃねぇーか?まっ無理だけどな。」
「ははは、ドルフさん。そんな都合よく居ませんよ。」
「まぁな。ガハハハハ。」
「お前ら、他人事だと思って適当な事を…。」
「ほれ、旦那。手が止まってるぜ。早く作らねーと他の魔王がうるせーぞ。」
「へいへい、やりますよ!やりゃーいいんでしょーが!!」
ドルフに煽られたジルは手に金槌を持ち作業を再開した。
「あらら、ふて腐れちゃいましたね。」
「それでも、旦那に頑張ってもらわにゃしょうかあるめぇ。それに、なんだかんだ言いながらでも、やる事はやるからな旦那は。だから俺たち下の者は、迷い無く付いて行けるしな。」
「ええ。ジルさまの仕事をする背中を見てると私達も頑張らなきゃと思いますからね。」
「ああ、そうだな。そんじゃあ、俺たちも出来る事でもすっか。」
「ですね。」
ジルが作る部品をドルフとグレイがジルに教わりながら組み立てていく。試行錯誤を繰り返しながらひとつひとつ丁寧にかつ素早く作業をこなしていった。
「そういえば、ドルフさん。」
「ん??」
「もうすぐ、奥さんの命日じゃ?」
「ああ。そんな時期だな。」
「何々?会長、結婚してたのか?」
「まぁな。旦那がミーアに来る1年前にな。流行り病でポックリ逝っちまったよ。」
「そうか………。残念だったな。どんな女性だったんだ?」
「エリーゼさんは…、ドルフさんの奥さんなんですが、背が高くて気立ての良い美しい方でしたよ。」
「俺が言うのも何だがべっぴんだったぜ。」
「へぇー。火の民族にも、背が高い人いるんだな。てっきり低い人ばっかりだと思ってたわ。」
「いえ、エリーゼさんは人族でしたよ。」
「えっそうなの??しかしそんな人がよりにもよってなんでこんなむさいオッサンと結婚できたんだ??」
「おいおい旦那……。そりゃ言い過ぎだ。」
「ごめんごめん。つい……。」
「ついって……。まぁいいか。簡単に言えば俺の一目惚れだ。結婚出来たのも奇跡みたいなもんだ。」
「そっか。いい奥さんだったんだな。」
「へへへ。まぁな。」
「そういえば、ドルフさん。息子さんは元気にしてるんですか??」
「あの、ボンクラか?どこで何してんのやら……。鍛治の腕はいいんだが、女好きで頭が空っぽだからな。」
「もしかして前に腕が良い英雄級の武器を作る職人を紹介するって言ってたのって?」
「ああ、息子の事だ…。」
ドルフは息子の事が話題に上がると少し寂しそうな顔になり、だんだんと口数が減りやがて、口を閉ざし黙々と作業をしていった。




