~嫉妬の日常①~
穏やかな日差しが差し込む昼下がり、グランベル城内に新築された元老マツバの邸宅の縁側で穏やかな表情で並んで茶を啜る者達がいた。家ノ前には庭や池があり神樹もその中心で悠々とそびえて立っていた。
家の主である十大竜王の一角 翠蒼竜ニーズヘッグまたの名を大老マツバ、同じく十大竜王の一角 魔海竜レディアタンであり七魔王が一柱嫉妬の魔王アイス=ショコラ、マツバ従者であり兵士団長で猿人族ダグラス=リングアンドア、アイス従者であり大工組合棟梁の猿人族ヂヂ=アームライト、執事長補佐で子犬族のコスケと場内管理長で子犬族のヤスケ。
「ほっほっほ。のんびりした良い陽気じゃの。」
「………うん。気持ちいい………。」
「しかし、良いんですかい?我らだけのんびりしていて?」
「ヂヂよ、良いではないか。たまにはこんな日があろうとも。」
「そうですワン。」
「息抜きも必要ですバウ。」
「そんなもんすかねー。マツバ様の家も出来上がったし急ぎの仕事も無いですから良いんですけどね。」
「……ヂヂもたまにはのんびりね………。」
「わかりました、お嬢。全力でのんびりしますよ。そういやジル様に頼んでいた料理器具は出来たんですかい?」
「………ん。出来たよ。お菓子も作った。皆、食べる?………。」
「「「 いただきまーす!! 」」」
アイスは台所に行き、お菓子をトレイに乗せ皆の前に持ってきた。
トレイに乗せた色鮮やかなお菓子には白いフワッとした菓子や果物を載せたもの、香ばしい香りの焦げ茶色の物など多種多様な菓子があった。
「ほぅ、綺麗なもんじゃな?アイスや、これは一体?」
「……これは、ケーキっていうの………。……白いのが『ショートケーキ』……。……いろんな果物が乗っているのが『フルーツタルト』……。焦げ茶色のが『ガトーショコラ』……。……食べてみて……。」
一度も見たことの無い菓子を手に取った一同。
匙を片手に一口パクり。その瞬間……。
「「「 美味ーーーーーーい!甘いぃぃぃぃぃぃ!!! 」」」
「お嬢!!なんすかこれ!めちゃくちゃ美味いんすけどー!」
「儂しゃ、この茶色のがいいのう。ほんのり苦味が癖になるわい!」
「私はこの果物いっぱいのがたまりませんなー!森を思い出す!」
「僕は白いのが良いワン!」
「僕もバウ!!」
「……良かった。喜んでくれて……。」
いつもはあまり表情を表に出さないアイスだったが、皆の喜ぶ顔に少し照れながら喜んだ。
そのアイスのはにかんだ笑顔を見たヂヂは自らの様に嬉しく思った。
(やはり、お嬢には笑顔がよく似合う。この笑顔を曇らす者が現れたならば俺が命に換えても……。)
「……どうしたのヂヂ?……。怖い顔してる……………。」
「いやぁーなに。このケーキという食い物が無くなっていくのが惜しくなってしまって……。」
(危ない危ない。お嬢に気付かれたか……。なんとかごまかせたの、ならばいいが……。)
「……そんなに気に入ってくれたんだね………。いっぱい作ってあるから、もっと食べても良いよ………。」
クスクスと小さく笑いながらアイスはヂヂにケーキを勧めた。
「ったく、お前という奴は。何よりも、食い気が勝るな。」
「ヂヂは食いしん坊だワン。」
「ヂヂは食いしん坊だバウ。」
「ハハハ。こりゃ面目無い。」
「「「 ワッハハハハハハハハ! 」」」
何気ないことで皆で笑う。そんな前世で祖父母と味わっていた優しい午後のひとときがアイスは大好きだった。
「……待ってて……。……まだあるから……。」
「すいやせん、お嬢。」
「僕も手伝うワン。」
「おいらも運ぶバウ」
アイスは再び台所へと向かった。後を追う様にコスケとヤスケもトコトコついていった。
「どうしたのだヂヂ。お前らしくもない。」
「族長………。気付いてらしたので?」
「私だけではない、マツバ様も気付いてらっしゃる。」
「うむ。何か気掛かりでもあるのか?」
長年、共に生きてきたマツバとダグラスにはヂヂの変化に気付いていた。
「すいやせん。気を遣わせたみたいになって……。」
「で、どうしたのだ?」
「初めてお嬢に会ったとき皆の前で前世での出来事を聞き、さぞ苦しかったのだろうと……。その時の事を思い出してしまいまして……。もちろん同情とかじゃないんです。ですが……。」
「そういう事か……。」
「ええ。お嬢は此処に来てだいぶ時間が経ち日に日に笑顔が増えています。もし、いまお嬢の笑顔を曇らせる輩が現れたとき、俺は自我を保つ事が出来ません。お嬢はもっと幸せになって欲しいんです。いや、ならなきゃいけないんです!!」
「ほっほっほ。アイスも幸せ者じゃわい。」
「ヂヂ……。お前変わったな……。昔のお前ならそんな風に思いもしなかっただろうな。」
「マツバ様……。族長……。」
「それも、お嬢と御館様のお陰だな。」
「ジル様のですかい?」
「ああ。間違いないじゃろう。ジル君は優しく賢い子じゃ。主の事すら見抜いてアイスの傍に仕えるように言ったんじゃろうて。ヂヂならば、アイスの良き理解者になれるとな。」
「ジル様………。」
「今のアイスにとって儂が祖父でダグラスが叔父。お主が父親みたいなもんじゃ。父親のお主が娘の心配して当たり前じゃわい。何も変なことなんぞありゃせんわい。」
「俺が、お嬢の父親………。」
「ほれ。湿った話はしまいじゃ。もうすぐ新しいケーキが来るぞい。今度は『フルーツタルト』にしようかの。」
「じゃあ私は『ガトーショコラ』なる菓子にします。」
「ずるいっすよ!先に決めるなんて!!」
「「「ワッハハハハハハ!!」」」
そんなことを話しているうちに、台所から新しいケーキをアイス達が運んできてくれた。
「持ってきたワン!」
「お待たせしましたバウ!」
「………ヂヂ、遠慮なく食べてね………。」
「お嬢……。すんません。いただきますー。」




