~暴食の熱意③~
時は夕刻。
陽が山々に吸い込まれる寸前の紅く染まった頃、漁村からミリアリア、森林酒造倉からハルラスが手に土産を持ち農村へとやってきた。ミリアリアの傍らには何名かの漁師が、ハルラスの傍らには酒造技術を教えている弟子達が共にやってきた。
「お疲れ様です、ブレッドさん。」
「ベルゼビュート様、遅くなりました。」
「おう。二人とも、すまねぇな急に呼び出してよ。」
「いえいえ。あなたの部下なのですから、お気になさらず。今回は何やら良い品が出来たとか?」
「ダッハハハ。まぁな。皆で食おうと思ってよ。」
「フフフ。そうではないかと思いましたから、土産に上等な果実酒持ってきましたよ。」
「私も、魚貝いっぱい持ってきましたよ。」
「言わなくても分かるとは、さすが蔵元、ミリアリア!!」
「付き合いは、まだまだ短いですがそれくらいはわかりますよ。して、何を作られたので??」
「もうすぐ出来っからよ。楽しみにしといてくれや。それよりミリアリア。どんな魚介持ってきてくれたんだ?」
「さっき上がったばかりの昇鮭、網切鮫それに霜降海老ですよ。」
「どいつもこいつも大型魚類じゃねぇか!すげーな。」
「私も宴会になるって思ってましたからね。運べない大きさの魚じゃないんで問題ないですけど、さすがに家の台所じゃ捌く事も出来ませんし、外に置いときました。調理は、お願いしても?」
「おう!任せとけや!んじゃ、飯の用意は俺がするから他の準備はたのんだ!」
~一時間後~
辺りは暗闇に移り変わり焚き火と月明かりが照らしている頃、俺やヒルデ、ミリアリア、ハルラス、ボルタ率いる森妖精族に、農村の農夫達家族、漁村の漁師達家族が集まり、ただの新作の味見のつもりが大宴会に発展しちまった。
(まぁ、最初から狙ってたんだがな。)
ヒルデが集まった人々が静かになるのを見計らい声を上げた。
「それでは農村漁村酒造解体部門の代表者である、ブレッド=グラーノ総料理長から一言頂きたいと思います。ブレッドさん、お願いします。」
「おう。」
俺は前に立ち、座っている者達に向かって最初の挨拶をする。
「皆、忙しいときに集まってくれた事に感謝する。皆も知っているだろうが、俺は魔王の中で『暴食』を司っている。いままで一人で生きてきた俺にジルは、部下としてまた仲間としてお前達を与えてくれた。こんなにも盛大に仲間と共に飯を食う機会を与えてくれたジルに感謝と、こんな俺についてきてくれたお前等に感謝をしたい。『暴食』の名において、旨い物を腹いっぱいに食えることを誓おう。」
俺の発した言葉にワァァァァーーー!と会場が一喜一憂した。
この光景を忘れない。
それだけの価値がこの歓声にはあった。
「ダッハハハ!さぁ、その一発目だ。」
会場に座る人々の前には料理以外に、同じ形同じ見た目の二つのパンがそこにあった。そのパンが新作という事に対して不思議がる。
「目の前にあるパンなんだが、右のは今までの作り方で作っていたパンで、左のは新作のパンだ。右から食べてくれるか?」
人々は俺に言われるよう右のパンから食べた。一口食べたが、固くいつも通りの味で、特筆して何か感想がある事もなかった。
「んじゃ次は左側を食べてくれ。」
そう言われ、固いパンと見た目が変わらない新作のパンに手に取った瞬間、人々が驚きを隠せずにいた。
「柔らかい!触れただけなのに!!」
「フワフワだあー!!」
「こいつはすごい!いったい食べたらどんな感じなんだ!!」
ゴクっ…………………………。
喉を鳴らす人々がゆっくりと口に運んだ瞬間、一斉に声が上がった。
「「「「美味ぁぁぁぁぁぁあああ!!!。」」」」
「フワフワで、モチモチで、柔らかく、香ばしく、上手く言えないが、すごく美味い!!」
「全然固くなぁーーい!!」
「年寄りでも、食べやすくていいのー!!」
一口食べただけで人々のパンに対する概念が吹き飛んだ。
老いも若いも男も女も大人も子供も種族を問わず絶賛の嵐だ。
「ダッハハハ!!だろー!だがそれで終わりじゃねー。目の前に俺が作った料理があるだろ?そいつをパンに挟んでソースをつけて食ってみろ!格別だぜ!」
その料理とは、昇鮭を使ったホクホクの揚げ物に、網切鮫の身をミンチにして焼いた肉汁たっぷりの魚肉パテ、茹でたプリプリの霜降海老をスライスしたものだった。大型魚類の為、パンに挟みやすいように下拵えしてある。ソースには岩鶏の卵と酢に油を足して作ったマヨネーズと、トマトに似た野菜「トメトの実」を煮て作ったソースを用意した。
それを聞いた人たちは、思い思いにパンに具材を挟みながら食し舌鼓を打っていた。
ハルラスが持ってきた酒も人々に振る舞われ和気藹々と会話が弾んでいた。
ヒルデが俺に酒を注ぎながら、その会場の雰囲気を喜んでいた。
「いいですね。この感じ。生産職の皆が生き生きしてて。」
「ああ。皆のおかげだ。」
「そんなことありませんよ。ブレッドさんのおかげです。しかし、ホントに美味しいですね。これなんて名前なんですか??」
「ん??サンドイッチだな。茹でた玉子をスライスして挟んでもいけるぞ。」
「色んな物を挟めて楽しいですね。パンが柔らかいからすごく合いますよ。」
「実はな、フライの衣や魚肉パテの繋ぎには、今まで食っていた固いパン荒く削って使ってるんだぜ。」
「ほんとですか!」
「新しい物に目移りして、以前からの技術や道具なんかは捨ててしまうのは簡単だ。けどな、良いものは使い進化させ、古くからある物も形を変え新しい役目を与える。それが俺の考える『食の革新』だ。」
「先程仰っていた『心と腹を豊かにする。』ということですね。」
「ああ。これを国中に、いや世界中に広げていく。その為には、お前達の力が必要だ。これからも宜しく頼む。」
「及ばずながら、お手伝いさせていただきます。」
「固い話は、これまでだ。今は、楽しもうぜ。」
「はい!!」
こうして新作の味見から始まった大宴会は夜遅くまで続き、喜びと楽しさの声が響き渡っていった。




