~暴食の熱意①~
俺の名はブレッド=グラーノ。前世では野生の熊に襲われ死んだはずなのだが何故か異世界?で、生きている。
俺としては異世界であろうがなんであろうが、旨い飯が食えればそれでいい。そうやって生きてきたからな。
変わった事と言えば、前世では還暦間近の年齢だったのだが、全盛期だった20代後半になっていた。
そのため、体も軽く調子が頗る良い。
それだけでも、この世界に来た甲斐があるってもんだ。
俺は若かりし頃の自分の肉体を堪能しながら、山の中で見たこともない変わった動物を狩って喰って過ごしていた。
何日か経ったある日。
俺の前に、グラサンを掛けた関西人と白髪で長い髭を蓄えた爺さんが現れた。
グラサンと爺さんは、この世界の仕組みや現状を俺に事細かくおしえてくれた。魔法と剣の世界で、俺はいま人間じゃなく人狼族という獣人である事も教えてくれた。
さっぱりわからん。
そのグラサンは俺と同じで異世界に飛ばされた奴らしく、一人じゃ何かと不便だから仲間になれと言ってきた。
確かにそうだ。
腹はどうにかして満たせているが、孤独だけはそうはいかない。
だがいきなり仲間と言われても怪しすぎる。
何故かとグラサンに聞くと、『咎人』を粛清する力が必要だといっ
た。『咎人』の悪業を聞くにつれ、腹立たしさが沸いてくる。
同じ世界で生きてた輩が、新たな世界で半端者になってるなど言語道断だ。噛み千切って吐いて捨ててやろうか。
俺は曲がった事が大嫌いだから、二つ返事で承諾した。
人様に迷惑かける奴等など切り刻んでくれる。
しかし、この世界じゃ人殺しも名目がありゃ許されるとはな。強盗や火付け、殺しに盗み。残虐な罪を犯したらその場で粛清が許されるなんてな。奴隷だってそうだ。
戦争で敗けた国から奴隷落ちした騎士や兵士は『戦奴隷』。借金を滞らせるなど支払い能力が欠け奴隷落ちした者は『借奴隷』。犯罪を犯し牢獄されたのち奴隷落ちした者は『罪奴隷』。孤児や誘拐された子供が奴隷商に売られている奴隷を『不法奴隷』。従者や性処理目的に売られている奴隷を『性奴隷』。
普通に奴隷制度が充満してやがる。
『戦奴隷』、『借奴隷』、『罪奴隷』はわからんでもない、『性奴隷』は自ら志願する者もいるらしいのでそれもわかる。だが『不法奴隷』は許せん。
子供に何て事しやがる。
こんなことを平気でする馬鹿は俺がギッタンギッタンにしてやるからな。
で、いまは新しく仲間になったジル=ヴァンクリフの粋な計らいにより、ジルの治める街『国境都市ミーア』に身を寄せているってわけだ。しかも役職『総料理長』と部下まで与えてくれた。
料理とそれに付随する、解体や革や毛皮の鞣しなんかを取り仕切る役職だ。
おれにとっちゃ、前世の技術がフルに生かせる役職だ。
こんなに、嬉しいことはない。
雨風が防げる家や新たな仲間が手に入り、自分の技術を生かせる職場、料理そのものを世界に拡げる使命、それに俺が作る飯を腹を空かした奴等に目一杯旨そうに喰わしてやれる環境。
楽しくてワクワクするってもんだ。
しかし……。
しかしだ………。
この世界の飯は不味すぎる!!
なぜに、こんなに不味い!!!!
この世界の奴等の味覚は狂ってやがる……。
旨い!の感情を知らないんだろう……。
ありえん。
肉は固いし魚は新鮮じゃない…。パンはフワフワ感が無く、野菜は萎び香辛料はありゃしない。肉も魚も焼くだけで味付けがなく、野菜は生食。
この世界の料理事情を根本から変える必要がある。
それになにより、米が無ぁぁぁぁい!!!
いるだろー!
一番必要だろー!!
コメーーーーー!!!!
…………だが、無い物ねだりをしていては、『総料理長』の名折れだぜ。
米探しは、ジルに頼んであるし、ここは奴に任せよう。あいつなら、創造魔法で探せるだろうしな。無理だとしても情報ぐらい掴んでくれるだろう。
とにかく、いまは街の食料事情もとい、料理事情を改善に力を注がなくてはならん。
一番最初に何とかしなきゃならんのは、『麦』だ。
前世じゃ小麦、大麦、ビール麦といろんな種類があったが、こっちじゃ一種類しかないらしい。
麦はパンの原料だし、うどんもできる。発酵させたら麦酒が飲める。現代社会において必要不可欠な食材だ。
一種類の麦だけで出来るかわからんがやってみるしかない。
だが、この世界には麦はあれどそれを進化させる技術が無い。
パンにはイースト菌、ビールには酵母、そういうものが全く無い。
ほんと無い物尽くしだな。
とりあえず、旨いパンを作りから始める事にするか。
ついでに作り方を教えておく料理人も同時に育てたいとこだな。
そうと決まれば、町外れの村に行くとしよう。
この時間なら、ヒルデが村に居るはずだ。




