~怠惰の計画③~
頼んでいた“ある物”の確認ため、ドルフ=ベイン鍛治士組合会長の工房まで来ていた怠惰の魔王リップ=デニム一行。なにやら大きな物らしく工房には入りきらなかったので工房裏手にある倉庫で製作したとドルフはリップに伝えており工房からそちらに移動していた。
倉庫の両開きの大きな扉で、ドルフとファウロが片扉づつ開けた。扉を開けると薄暗い室内に光が差し込み、目の前には白い布が被せてある三つの“ある物”が倉庫中央に佇んでいた。
大きさはバラバラで右端にある物は縦横3m程度の大きさで、真ん中の物は2m程、左端の物は1mぐらいの物だ。
ドルフは右側に置いてある一番大きい物の前に行き、被せてあった布を捲った。
「そんじゃまぁ。まずは、こいつだ!」
そこにあった一番大きな物は鉄製と木製で出来ており、手前には座席がありその前には、何かを巻き取る様な物があり右側にはハンドルがあった。後方には箱形の入れ物が3箇所あり何かを入れるのだろう。
「これ?なに??」
アルラが不思議そうにドルフに尋ねた。
「こいつは『製糸機』だ。そこの小さな箱にサクラ桑についた蚕繭を入れる。蓋を閉めハンドルを回すと繭が細くなりながら3ヶ所から出てくる。で、それをこの糸巻きにくくり付けながら更にハンドルをまわしていくと……。ほれ糸の出来上がりだ。」
「けど、糸なら蜘蛛人族の私らに言ってくれれば、作れるんじゃ?」
「今後、服飾が発展すりゃ大量の糸が要るようになるからな。これを作っておくと、お前らの負担も減るだろ。糸の強度も蜘蛛の糸と同じにくらい強く耐久性があるように3本編みの糸を開発できたし、いろんな太さの糸もつくれる。中々の優れもんだぜ、こいつは!で糸を作ったら次がこれだぁー。」
ドルフは真ん中に置いてあった“ある物“に被せてあった布を剥ぎ取った。
「すごいじゃん、おやっさん!!」
「だろ!!俺にかかればこの通りよ!」
布の下にあったものは、木で出来た複雑な形のものだった。
リップは、それを生前に見たことがあり再現したものだった
アルラ、イリア、ファウロがそれを見ても何なのかさっぱりわからないでいると、ドルフは備え付けの椅子に座りの実演を交えた説明が始まった。
「これは、『織機』だ。作った糸をこんな風に絡ませてな、何度もこの動作をしていくと布ができる寸法だ。ちょっとやってみるか?」
ドルフは腰を下ろしていた場所をアルラと交代し手取り足取りやり方を教えた。
「ほう、筋がいいじゃねぇか。上手いもんだ。」
「ねぇーねぇードルフさん。これって、糸さえ変えればいろんな色の生地もできるんだよね?」
「おうよ。だが、色だけじゃねぇぞ。腕さえ上げりゃあ、模様なんかも入れたりできるかもな。」
「いいよこれ!すごくいい!」
「だろ!しっかし、やっぱり蜘蛛人族は器用だな。手足が6本もありゃすぐに生地が出来ちまう。」
そんなことをいってる間に、アルラは1m程布を織り終えていた。
「こりゃ大したもんだ。あっという間に生地を織りやがった。」
「これ、糸が細いから細かく編めて布の手触りがいいよ。けど、生地が早く織れても結局、服に仕立てるとき手縫いだから時間かかるんしゃない?」
「それついては大丈夫だ。その為のコイツがある。」
最後に残っていた一番小さな“ある物“を皆の前布を取り披露した。
それは、机の上にに黒い機械が固定されており、足下にあるペダルの様なものと繋がっていた。
アルラ、イリア、ファウロはまじまじとその機械を見ていたが、やはりさっぱり分からないでいた。
リップとドルフは不思議そうな顔をしている三人に、先程と同じように実演を交えた説明をはじめた。リップは前世で使ったことがあるらしく実演をリップが、説明をドルフがする。
「こいつぁ、『足踏み裁縫機』だ。先端に穴が空いた針があるだろ?そこに糸を通してだな、足のペダルを踏むとその力を使って針が動き、素早く縫うことが出来るって代物だ。」
「えっ!!縫えちゃうの??」
カタカタカタカタ…。
裁縫機を扱い鮮やかに布を縫い付けるリップの姿は様になっており、傍で見ていたアルラの瞳はキラキラ輝いていた。
「おぉーーー!!」
「あはは。アルラも、やってみる??」
「良いのですか?やってみたいです!」
リップと交代したアルラは裁縫機の足踏みペダルにそっと足をかけ、ゆっくりと踏んでみた。
すると、カタカタと裁縫機が音を立て先端についた針が上下に動き布を縫合していく。アルラは夢中で裁縫機で試し縫いをしていった。
「これも、すごくいいですね!仕事が捗りますよー!!製糸機や織機も素晴らしいし!」
「おやっさんの力作だからねー。」
「たりめぇよ!なんせ俺が作ったんだからな!!………と、言いたいところなんだが、まだまだ改良しなくちゃなんねー。製糸機は三種類の太さの調整しかできねぇし、織機は木製だから壊れやすい、足踏み裁縫機は製糸機で作った糸でしか使用出来ないから蜘蛛人族の糸が使えねぇ。後、三台共に言えるんだが1台作るのに日数がかかる。世に出回るには時間がかかるだろうな……。」
「んー。まぁいいんじゃない。機械を売り出す前に、仕立てた服を流通させた方が機械の価値もあがるんじゃん。」
「…なるほど……それもそうだな。この機械の値打ちを上げたほうが得かもしれねぇな……。」
「でしょ。とりあえずこの試作機を使って良いもの作ってからにしようー。」
「わかった。嬢ちゃんの言う通りにしてみっか。」
「って、ことでアルラは今から当分の間機械に慣れる事も含めて、『製糸機』『織機』『足踏み裁縫機』を使って商品開発ね。ファウロはその手伝いをお願いねー。」
「えっ??リップが作るんじゃないの??」
「なわけないじゃん。服飾組合会長はアルラなんだから、会長が使えないってダメでしょ。あーしが手伝うのはデザインだけ!後は服飾組合の仕事!それに、イリアの装身具組合も商人街も見なくちゃダメなんだから。」
「そうですよアリア。リップに頼らず組合会長として頑張ってください。」
「そうね…。うちの職人達も連れてきてやってみるわ。」
「その意気、その意気。頑張ってねアリア。」
こうして服飾組合の新しい活動が始まっていくのだが、そのなかでファウンロド=アディスンが腑に落ちない顔をしていた。
「あのう、リップ。ひとつだけいいですか?」
「なに、ファウロ?」
「何故ジル様は、俺にこのチームに入るようにしたのでしょう?力仕事なら他の者でも良かったのでは?あっ!このチームが嫌だから言ってるわけではありませんよ。ただ少し気になったもので……。」
「あーぁ。ファウロを希望したのあーしなんだよー。」
「何故です??」
「体目的。」
「はぁぁぁ??ちょっ、何考えてんすか!!」
「いやらしい意味じゃないってーー!!!」
「では、どういう??」
「力仕事だけなら、オーガストやヂヂでもいいんだけど、あんたには服の型どりを、してもらいたかったの!ファウロの体型が、ちょうど良い体の形だから男服の採寸とかにも役立つしね。」
「ぁあーなるほどー。」
「顔もイケてるし、モデルにはちょうどいいもんね。」
「モデルですか………。」
「そ!新しく作った服を着て街を歩けば通行人の目を引くでしょ!」
「一人でなんか、恥ずかしいじゃないですか……。」
「はぁ?ったく。なら一人じゃないならいいのね?」
「それなら、まぁ……。」
「アリア、新作つくったらファウロと一緒に街中歩いて。もちろん二人とも新作の服を着てね。」
「「ええーーーーーー!!!!」」
アルラは頬を赤く染めながらおもむろに照れた。ファウロもそんな風に言われるとは思ってもいなかったらしく汗を滴ながら照れていた。そんな二人をリップとイリアは面白そうに見ていた。
「あぁ、もう。うっさいな!!これは、商工組合管理長としての命令!!わかった??」
「わ、わかりましたよーー。」
「しょうがねぇなー。」
渋々、承諾した二人だったが他の者の目には初々しく感じとれた。
(ニッシシシ!いい玩具ができたぁーーー!)
(絶対、リップは面白がっているはず……。フフフ。これは一緒に楽しまなければ損ですね……。)
リップとイリアが悪巧みを考えている顔をしていたのを見たドルフは………。
(女って怖ぇぇぇ………。)
と、心の中で思っていたのだった。




