~神と竜~
~時は少し遡り、ジルと魔王が話始めている頃~
四半世紀ぶりに旧友と再会した、最高神ゼウルフと大老マツバ、またの名を十大竜王 翠蒼竜ニーズヘッグ。久方ぶりに顔を会わせた両者は昔話に花を咲かせていた。
「お主、老けたのー。」
「主もな。お互い年はとりたくないものじゃ。」
「まったくじゃ。ときにマツバよ、神樹の守護はもう良いのか?」
「ジル君のお陰でな。彼が自らの創造魔法とやらで結界を神樹に張ってくれてのー。いまは隠居の身じゃ。」
「そんなことまで、関わっておるのか。」
「我の為に、何かと世話をやいてくれるのじゃ。」
「フォフォフォ。そうじゃろそうじゃろ。心の清い子じゃ。」
「主の孫娘に感謝じゃな。」
「いきさつを知っておったか?」
「まぁの。すべて聞いたわい。主の孫娘の良い人なんじゃってな。見る目があるではないか。手料理食べ過ぎて死んだのは笑うたがのー。」
「彼には悪いことをした。本来なら断罪しなくてはならない孫娘を、許してくれたからの。クロトーネが惚れるのも分かるわい。」
「我に孫娘がいたら嫁がせたいほどの者じゃ。」
ジルとクロトーネのなり染め話に盛り上がっていたのだが、マツバが急に真剣な顔になり、ゼウルフにある話をしてきた。
「ゼウルフよ……。」
「何じゃ、改まってからに。」
「実はの……我の死期が近く、もう長くはないのじゃ…。」
「……。そうか…。お主にも、そんな時期がきたか……。」
「今すぐというわけではないがの。」
「そうか……。寂しくなるわい………。となると…次期後継者はそろそろか?」
「うむ。直に神樹から生まれ『最期の一年』が始まるじゃろう。ジル君には、我の後継者の見届け人を頼んでおる。喜んで引き受けてくれたのじゃ。」
「あの子ならそうじゃろうの。」
十大竜王は血筋か継承を以て次期竜王に力と称号を引き継いできた。翠蒼竜ニーズヘッグの場合、神樹から次期後継者が生まれた後、一年後に大地に還ることになる。その一年で力を徐々に移行するのだ。それを竜王の間では『最期の一年』と呼んだ。
「我に死期が近いなら、生きてる内に滅一杯楽しいことをしろとまで言ってくれた。我は嬉しかった。いままで、そんなこと言われたことなど無かったのでな。」
「優しい子じゃわい。」
「それでの…主を見込んで頼みがある。」
「なんじゃ?」
「我が死んだらーーーーーーーーーを頼みたい。」
「………良いのか?」
「我が、あの子に出来る礼はそれくらいじゃからの。」
「うむ。一切承知した。じゃが、当分は生きて彼を支えてやってくれ。」
「ホッホッホ。まだ簡単にはくたばらんよ。」
ジルに聞こえないように、ゼウルフとマツバの両氏間でなにかの約束をした。周囲に悟られないよう小声での会話だったが、ある者だけがそれを聞いていた。
「………あなたが、ニーズヘッグ……?」
最高神ゼウルフと大老マツバの前に来て翠蒼竜ニーズヘッグの名を言ったのは、『七贖』が一人、『嫉妬』のアイス=ショコラだった。
「お嬢さん、如何にも我がニーズヘッグじゃが?」
「……あなたに、話があるってリヴァが言うの………。」
「はて?リヴァ??………………………。もしや、海碧竜リヴァイアサンか?」
「…うん。………そう………。」
「来ておるのか??」
「………少し、待ってて………。」
すると、少女は頭を垂れ、気絶したかのように立ったまま意識を失う素振りを見せた。だがすぐさま下がった頭をもとに戻した。顔をあげた少女は目付きが鋭くなり表情が変わっていた。
『久しいの、ニーズヘッグ。』
「リヴァイアサンか?」
その少女の姿形はアイス=ショコラそのままだったが、口調や表情はマツバの知る海碧竜リヴァイアサンの人化したものだった。
『ファファファ。相変わらずの呆けた顔の爺じゃな。』
「その、嫌味。間違いなく性悪ババアのリヴァイアサンじゃわ。」
『誰が性悪ババアじゃ!』
「主に決まっておろうが!」
『ボケ顔ジジイに言われとうないわ!』
「なっ!なんじゃとー!」
ニーズヘッグとリヴァイアサン。十大竜王が偶然にも再会し言い争いをしている姿に最高神ゼウルフは苦笑いするしかなかったが、加熱して回りに迷惑をかける訳にはいかないため仲裁し、その場は落ち着きを取り戻した。それから数分後、リヴァイアサンは本題を話始めた。
「で、性悪ババアが何の用じゃ?」
『ボケ顔ジジイ、お主も死期が近いと聞いたが?』
「まぁの。」
『ワシもじゃ。』
「主もか……。」
十大竜王が一角、海碧竜リヴァイアサン。彼女も十大竜王としての務めを終えようとしていた。ニーズヘッグの『最期の一年』とは違い、海碧竜リヴァイアサンの継承は肉体が滅びた後後継者たる者の体内に留まり内なる声にて継承を行う。また『最期の一年』の期間内ならば後継者の体を借り表に現れる事も出来る。
『肉体は海に還り、意識だけがこの娘と共にある。それも今日には消えるじゃろう。』
「……そうじゃったか。長い間ご苦労じゃったの……。」
『よしてくれ、湿っぽいのは嫌いじゃ。ワシが消えても、この娘がおる。海碧竜リヴァイアサンの後継者であり魔王レディアタンの後継者じゃ。』
「なるほどの…。『最期の一年』を済ませたのか。」
『うむ。単純に力だけならば、ワシをも越える。じゃが精神的には、まだまだ心配での。そこでじゃ、ふたつほどお主等に頼みがある。ひとつはニーズヘッグ、この娘の面倒をみてほしい。』
「主は阿呆か??」
『なんじゃとー!!』
「はぁーーー………。我は神樹から後継者が生まれれば、一年後には消えるのじゃぞ…。」
『わかっておるわ!ワシが頼んでおるのは、この娘に『最期の一年』を経験させて欲しいということじゃ。』
「そういう事かい。」
『こんな事、お主にしか頼めんからの…。海碧竜リヴァイアサン最期の頼み聞き届けては貰えぬか?』
「……わかった。主の最期の頼み、しかとこの翠蒼竜ニーズヘッグが承った。」
『宜しく頼む。もうひとつはゼウルフ、ニーズヘッグの頼みと同じものをジル=ヴァンクリフに渡してもらいたい。』
「お主もか……。しかし……。」
『大丈夫じゃ。ちゃんととってある。場所はこの紙に書いておくので預かっておいてくれ。』
「そうか……。ならばニーズヘッグの願いの時に一緒に渡すとしようかの。」
リヴァイアサンが差し出した一枚の紙切れをゼウルフは預かった。
『すまんな、恩に着る。最期にお主等と話せて良かった。あの世で待っておるぞ爺共。』
「五月蝿いわい。早う逝け。」
「達者でのリヴァイアサン。」
『ではさらばじゃ……。』
リヴァイアサンの意思が少女から抜け落ち、アイス=ショコラは我に帰った。そして、彼女の中から海碧竜リヴァイアサンの意識が消えていた。そのとき、彼女の左手の甲に光輝く紋が現れた。それは竜王となった証である『竜王紋』と言われるものだった。
輝きを放つ『竜王紋』を見ながら少女は、意識の中で長らく共にいたリヴァイアサンと別れを済ましたのだろう、眼から一粒の涙が流れ落ちた。
「……大丈夫かい?」
「…ん。……大丈夫……。」
「リヴァイアサンから頼まれ、しばらくは我と共に暮らす事になった。宜しくのう。」
「……リヴァから聞いた…。……宜しく……。」
少女の『竜王紋』の輝きが収まり、新たな名を魔海竜とし、竜王『魔海竜リヴァイアサン』が誕生した。
そして、翠蒼竜ニーズヘッグと少女の束の間の生活が始まっていくのであった。




