お菓子の家、いいえ、お菓子の迷宮!
「静かにおし!」
凄い声といっしょに出てきたのは、二つにとんがった帽子をかぶった、女の人でした。
ひょろっと背が高くて、目がつりあがってます。
「ふぉ、フォクシー様ー!」
残った獣人たちが、女の人のところに逃げていきます。
フォクシー?
ということは、この人が魔女!?
「ふん、もうお前たちは用済みだよ!」
魔女フォクシーは、ふんふん、とまるで狐さんみたいに鼻を鳴らしました。
そして、その手には、おっきなトング!
これをカチカチッと慣らしたら、不思議な事が起きました。
獣人たちがみんな、ただのビスケットに戻っちゃったのです!
これには村のみんなもびっくり!
あたしもお兄ちゃんも、ぽかーんとしました。
「ややっ、でたなまじょめ」
「せっしゃたちは、わるいまじょをやっつけに来たきし! いざじんじょうに、しょうぶー!」
「おやおや。お前たちが、シルバーが言っていた騎士とやらかい? アテを倒してやろうと、はるばるやって来たみたいだねえ。どうぶつの姿だっていうのに、とんでもなく強そうな気配を感じるよ」
魔女はそういうふうに言ってるけど、ぜんぜんこわがってません。
もしかして、魔女はすっごく強いんでしょうか。
「いくぞボーリスきょう!」
「おうさ、ナイトリーダー!」
「とあー!」
「えいやー!」
ウサギとリスの騎士さんが飛びかかりました!
「おっと!! 危ないねえ!!」
魔女の目の前に、お菓子の家の屋根がどさどさーっと落ちてきました!
これが、ウサギさんとボーリスさんを止めてしまいます。
「アテはようやく、魔王様が復活する手立てを得たんだよ? あと何人か子供を捧げれば、種が生まれるんだ! こんなところでやられてなるものかい!!」
「ぬう! このビスケットかたいぞ!!」
「ピョンスロット卿でも貫けないビスケットですの!? ここに来る前にキャロンダイトをつまみ食いするからですわよ!!」
「めんぼくない」
後ろから走ってきた、お姫様みたいな騎士さんが、いい匂いがする剣でビスケットの屋根を切ります。
スパーッと切れました!
「うふふふふ! 恐ろしい剣だねえ!! だけど、やられる訳にはいかないよ! ほーら、出てきな、アテのお菓子の集大成! そして……」
魔女が、じろりとあたしたちを見ました。
「な、なんだ!」
お兄ちゃんが、あたしを守るみたいに立ちます!
あたしも、枝を握りしめます。
「そこの双子はもらっていくよ!」
魔女がそう言ったら、いきなり地面が揺れます。
どどどどど、と揺れます!
木が震えて、みんな立ってられないくらい凄い揺れです。
あっ、ウサギさんとリスさんは普通に立ってます。
それから、地面がどんどん盛り上がってきました。
「うわーっ、なんじゃこれはー!!」
ノームさんたちが悲鳴を上げました。
地面から、カラフルなキラキラしたお菓子が出てくるのです。
「さあ! マカロンの土台に焼き菓子の骨組み、壁はゼリービーンズで彩って、お前たちを囚える檻は、キャンディで作ってあげようかねえ! あはははは!!」
それはお菓子の塔でした。
何本も、カラフルな屋根が地面をやぶってとびだして、タケノコみたいです。
飛び出した塔がは、途中で溶けたキャンディがあふれだしてきて、扉と扉がつながります。
「さあ、できるものなら追っておいで! これがアテの切り札! お菓子の迷宮さね!」
「ひえー!」
「うわー!」
あたしとお兄ちゃんは、塔に放り込まれてしまいます!
そこに、魔女も入ってきました。
「うわ、うわわわわ!」
「お兄ちゃん逃げよう!」
あたしはお兄ちゃんの手を引っ張って逃げます。
「うふふふふ、あはははは! ちょうどいいんだよ! お前たちが生贄になれば、魔王様は種になって復活してくれるかも知れないのさ! ちょうどいいところに来てくれたねえ。アテは日頃の行いがいいからねえ!」
階段を必死で下るあたしたちに、魔女の笑い声が聞こえてきます!
大変!
このお菓子の迷宮には、今はあたしとお兄ちゃんだけ。
強いボーリスさんも、可愛いグレちゃんも、ウサギの騎士さんもいません!
「に、逃げ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!」
「ちくちょー、ししょーがいればー!」
どこまで続くのか分からない階段を駆け下りながら、あたしたちはひたすら逃げるのでした。
「まためいきゅうか。私はつくづく、めいきゅうにだれかをとらわれてしまうものとみえる」
ウサギの騎士が、鋭い目でそそりたつお菓子の迷宮を見上げる。
その体を、黒い鎧の少女がひょいっと抱き上げた。
「ナーデじょう!」
「行くんでしょう、ピョンスロット卿? それに……」
「リスの騎士さん、あなたも行くのですわよね?」
「いかにも。せっしゃの名はボーリス! そしてこれはあいば……いや、うりぼうのグレ!」
「ぶいぶいー!」
リスの騎士は、うりぼうにまたがりながら、迷宮目掛けて走り始めた。
「いくぞ、みなのもの!! まじょはあの中! そして、けっしてあのふたごを、まじょのまの手にかけさせてはならん!!」
「うむ。あの方も、かがみのなかのしろをかけぬけてこられたのだったな。私もこうしてはいられぬ!」
ナーデの腕の中で、ピョンスロットはトテトテ走るように足を動かした。
「はいはいー。参りましょうー」
ピョンスロットの動きに合わせて、ナーデが走る。
そして、彼らを追い越して全力で走っていくのはココア姫だ。
「いざ、魔女のところへ! 突撃ですわよー!!」




