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村人、怒りの鉄拳

 各地で、魔女に勝てるんじゃない? という雰囲気が盛り上がった。

 これは、とある村から発信された、魔の森の枝なら獣人に勝てると言う知識のおかげだ。


「うおー! 獣人がいたぞー!」


「みんなで囲んで枝でたたけー!」


「ぐわわーっ!? な、なんだおまえらー!」


 今日も、森の入り口で村人たちが獣人と戦う。

 数の力で囲んで、枝でぴしぴし叩けば、獣人はやがて「ぼふんっ」という煙とともに、割れたビスケットやクッキーになってしまう。


「勝てた!」


「獣人はやっつけられるぞ!」


「これなら魔女もいけるんじゃない?」


「いけそう」


 ということで、ずっと萎縮していた各地の村は、反抗の意思をぎらぎら燃やしていた。




「むらびとのしょくん!! まじょにはかてるぞ! まのもりのえだこそその力だ!」


 各地の村には、白馬に乗った二人の少女と、言葉をしゃべる不思議なウサギがやって来て決起のときは近いと伝える。


「えだをもって、かこんでじゅうじんをたたけばかてる! だが一つちゅういしてほしい。まず、木にはえているえだをおってはいけない。えだはひろおう。はい、メモして」


「枝は折っちゃダメなのか? なんでだ? いっぱい生えてるだろう」


「木のえだは、その木がえいようをえるためにだいじなのだよ。どれをおっていいかは、きこりとかプロじゃないとわからないので、こんかいはいちりつ、おっちゃダメということにする」


 しゃべるウサギ、ピョンスロットの言葉に、うんうん、とうなずくココア姫。


「やりますわね、ピョンスロット卿」


「そうなんですか? 私はさっぱりです、姫様」


 首をかしげたナーデに、ココアは分りやすく説明した。


「わたくしたち、色々な村を回っていますでしょう? のろしなんかで合図をして、いっせいに魔の森をせめますけれど、その時に統制なんてとれたものではないわ。ということで、ピョンスロット卿は最初から、やっちゃダメなことを明らかにしているのです」


「あ、なるほどです!」


 ということで、ピョンスロットが挙げた、やっちゃダメなことリスト。


1.森の枝を折ってはいけません。魔女をやっつけたら、森はみんなのものです。

2.火を使ってはいけません。火事になったら大変です。森はみんなのものです。

3.ゴミを捨ててはいけません。森の動物が迷惑します。森はみんなのものです。


 この三つである。

 分りやすい上に、最後に森はみんなのものですと加えることで、みんなが迷惑するんだな、と広く伝わったようだ。

 確かに、森は薪が取れるし、狩の獲物やキノコ、山菜などもある。

 森がダメになってしまったら、みんなが困るのだ。

 このみんなの中に、自分も入ってるよ、ということを、ピョンスロットは分りやすく教えた。

 そして、この三つの教えの下に、村人たちの心がひとつになる。




 のろしが上がった。

 ついに、村人が決起する時だ。

 彼らは、自分たちの命を脅かしていた恐るべき魔女と戦う力を手に入れたのだ。

 それは枝でたたくこと……!

 手に手に、魔の森で拾った枝をもち、村人たちは森に向かって突き進む。

 誰からともなく、三つの決まりが発せられる。


「ひとーつ! 枝を折ってはいけません! 森はみんなのものです!」


「枝を折ってはいけません! 森はみんなのものです!」


 魔の森のあちこちから、ピョンスロット三つの決まりの声が聞えてくる。

 村人たちが声に出して決まりを意識していれば、物騒なことを言う人もいなくなり、村人たちは暴走しなくなるのだ。


「ふたーつ! 火を使ってはいけません! 森はみんなのものです!」


「火を使ってはいけません! 森はみんなのものです!」


 それに対して、森の中では獣人たちが震え上がっている。

 四方八方から、村人たちが迫ってくる。

 しかも、彼らが握った枝は、獣人に通用するのだ。


「や、やばいぞこれは!」


「フォクシー様は何をしているんだ!」


「あの人、お菓子の大作にかかりきりになってるから……!」


「かーっ、使えねえ魔女様だあ!」


 思わず叫んだ獣人。

 周りの獣人たちは、シーンと静かになった。

 みんなで周囲を、きょろきょろ見回す。


「……大丈夫みたいだな」


「あの声に反応しないってことは、フォクシー様本当にお菓子作りに集中してるんだな」


「お前なあ……。さすがに今のは無いだろー。俺たち巻き添えになったらどうするんだ。こえー」


「す、すまんかった」


 ということで、獣人たちは独自で村人と戦わなければならなくなったのだ。




「わたくしたちも、出番ですわね! 今度こそ、獣人に正義の剣をおみまいしてあげますわ!」


「姫様、獣人に剣は通じないんじゃなかったでしたっけ」


「わたくしの武器は、宝剣カーフェナですのよ? 調子がいいときは、極上の茶葉の香りがするこの剣なら、獣人だってズンバラリンッですわっ……と。ピョンスロット卿、お鼻をひくひくさせて、何をしていらっしゃいますの?」


 白馬ミルクレープにまたがった、ピョンスロットとココア、ナーデ。

 ミルクレープの頭の上に乗っかったウサギの騎士は、風上に向かってくんくんとにおいを嗅いでいた。

 ココアに問われて、ピョンスロットのもちもちフェイスが振り返る。


「ふむ。どうもなつかしいにおいがしましてな。もしかして、すぐちかくに私のなかまがいるかもしれません」


「まあ!」


 驚くココアの肩で、白ふくろうのヴィヴィアンが「ホッホーウ」と鳴いた。

 時はもうすぐお昼時。

 ウサギとリスの騎士は、再会しようとしていた。

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